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二次創作/夢
私たち、もう戻れないのですか。それとも貴方がそうさせてくれないのですか。私はただ元に戻りたいだけなのに。(唐沢)



痛む頭を抱えて、朔はまたかとため息をついた。


互いに酔っ払っていた次の日の朝には、何故か真っ裸でベッドに横たわっているのが常だ。特に約束したわけでもなく繰り返されるその行為は、少なくとも彼女の記憶には残されていない。

身支度を整えていると、机の上にお札が置いてあることに気がつく。ホテル代の足しにしろという意味なのだろう。毎回律儀な男ね、と思いながら、朔はそれを専用の封筒に仕舞った。その中には、今まで彼が置いていった札が結構な厚さになって収まっている。


こんな体を重ねるだけの関係は、もうやめようと思った。酒の勢いだけでやる気持ちの無い行為は互いに虚しいだけだ。この札束になってしまったお金も、ちゃんと返そう。
そう意気込んで、朔はチェックアウトをするために部屋を後にした。










「君から誘ってくれるなんて珍しいな」



そう言って笑う唐沢を前に、朔も曖昧な笑みを返した。どことなく楽しそうな雰囲気だったため、本題を切り出しにくいなと思ったのだ。
そんな彼女の様子に気付いているのかいないのか、彼はさっそく店員に注文をする。手始めにビールと軽くつまめる物、揚げ物等の名を上げる様を、朔は感心しながら眺めた。頼む物はやはり男の人が好む物ばかりだ。彼女の好む味付けは全くの真逆だったが、上機嫌に腹に収めていく彼を見て何も言わずにいた。


唐沢の補佐として働いている彼女は、公私混同はしないタイプだと周りから評価されている。
彼女自身もそれを出来る限り遵守したいと考えていたため、初めてホテルで夜を明かした時は思わず悲鳴をあげたものだ。唐沢がいた痕跡はあるものの、いつも目覚めた時には隣にいない。気まずい思いで出勤すれば、彼は何もなかったかのように接してきた事は記憶に新しかった。

―それもこれも、今日で終わりだ。

膝の上で握りしめていた封筒を唐沢に向かって差し出す。突然渡されたそれを見た彼は、手にしていたグラスを煽ってから机に置いた。



「…手切れ金ってやつかな」


「、違います。唐沢さんが置いていったお金です」



じっと探るように見つめられているのが分かったから、朔には顔を上げる勇気は無かった。俯いたまま話し続ける事にした彼女は、黙り込んだ唐沢がどこか恐ろしくて目を閉じる。お酒の勢いでの関係を、やめにしたい。お金も返す。このままでは互いに虚しくなるだけだ…
言いたいことを言った朔は、ここで初めて顔を上げる。鋭い眼光に貫かれて、体が硬直した。既に三杯もビールを煽っていたというのに、彼は全く酔っているように見えなかった。








ぐいと腕を掴まれて、食べかけの品々もそのままに店を後にする。

一言も喋ってくれない彼が怖くて、数度唐沢さん、と声を上げた。それでも彼は足を緩めない。腕も放してくれない。
引かれるままに夜道を歩きながら、朔の瞳からは何故か涙が溢れた。




























私たち、もう戻れないのですか。それとも貴方がそうさせてくれないのですか。私はただ元に戻りたいだけなのに。













* * * * * * * * * *




賑やかな通りの音も、鮮やかなイルミネーションもどこか遠い。

―ねえ、貴方は一体何を考えているの?






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あきゅろす。
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