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二次創作/夢
その瞳も、唇も、小さな手も、何もかもが欲しくてたまらない。長くなってしまうから纏めるよ、君が好きだ。(米屋)



甘え下手な所も、ちょっとした仕草も、何もかもが可愛く見えた。

岸川朔という女子生徒は、自分の左隣に座る綺麗系の子だ。冷たい対応もしばしば見られたが、そんなものは米屋にとってみれば屁でもない。伊達に三輪と腐れ縁をやっている訳ではないのだ。
言い過ぎた、としかめられた顔も、己が笑い飛ばせばふっと和らぐ。その瞬間が好きでたまらなくて、彼はどうしても笑ってしまうのだった。

彼は不特定多数の人と交友関係を持つため、人柄を見極めるのは得意だった。処世術としては大層役に立つだろうし、実際にその観察眼のおかげで気難しい人とも普通に関わっていける。
ただ、米屋はその能力を一人の気を引くためだけに使っていた。左隣の住人である。彼女も少々気難しい部類に入るのかもしれないが、彼は今まで関わった誰よりも注意を払って接した。その甲斐あってか、最近では自分だけに柔らかい笑みを浮かべてくれるようになったのだ。その瞬間といえば、もう天にも昇ったような気分だったという。


放課後、朔は委員会があると言って荷物を置いたまま慌ただしく教室を後にした。よくよく考えなくとも、貴重品をそのままにしておくのはまずい。どうせ非番だったし、と上げかけた腰を再び椅子に下ろした。三輪に先に帰るようメールをして、米屋は机に突っ伏す。

―さすがに横に人が居りゃあ大丈夫だろ。

そう判断した彼は、暖かな空気に誘われるまま眠りに落ちる。朔が帰ってきたら、一緒に帰ろうと言う決意をしながら。








髪を撫でられている感覚がして、意識が浮上した。誰だ俺の髪を触っているのはと思いながらも、眠気に負けて瞼が開かない。優しい手つきに再び眠りに落ち掛けていたが、小さな声が耳に入った瞬間、米屋の目は冴え渡った。



「…よねやくんの髪、柔らかいな」



それは自分が恋い焦がれている人の声であり、思いがけない状態に彼は動揺する。

―朔が、俺のこと撫でてる。

むずむずとした感覚に襲われるが、それを必死に押さえ込んで動かないように努めた。小さな白い手をいつか握れたら、と想像し始めたのは何時のことだったか。下手したらそれよりも幸せな状況かもしれない、と彼は口元を緩める。にやついた顔が下に向いていて良かった、と思った。

ふと、自身の頭を往復していた手が止まる。内心不思議に思いながらもじっとしていると、聞き取れるか聞き取れないかくらいの大きさで彼女が呟くのを、米屋は耳にした。



「…好き、だなぁ」



心臓も、呼吸も、いや。時さえ止まった気がした。

腕の隙間から見える足が、離れようと一歩踏み出す。反射的に顔を上げた米屋は、その小さな手を掴んで引き寄せた。




―ああくそ、驚いた顔すら可愛いなんて反則だろ。




















その瞳も、唇も、小さな手も、何もかもが欲しくてたまらない。長くなってしまうから纏めるよ、君が好きだ。












* * * * * * * * * *




小さく呟いたそれは、俺に向けて言ったんだろ?じゃあ、いいよな。

―目、閉じろよ。






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