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二次創作/夢
共に過ごした部屋で別居していた事に僕は気付かなかった。そして今、僕らは二度目の別離を迎える。(太刀川)




「…何でだ、」



呆然とした声が、静かな室内に落ちた。

無い。
彼女が楽しそうに集めていたうさぎのインテリアも、自分がプレゼントした服も、終いには彼女が使っていた食器までもが。

部屋半分を構成していた岸川朔という女の要素が、ことごとく消え失せていた。


太刀川は、ズボンのポケットに仕舞っていたスマートホンを取り出して電話を試みる。朝方の4時、普通ならば誰も彼もが夢の中である事に気がつけるほど余裕は無かった。
当然電話は繋がることなく、虚しく電子音を繰り返すだけ。それでもと電話をかけ続けた彼が諦めるのは、その回数がゆうに十を越えた辺りだった。


酒を浴びる程飲んだせいか、頭がガンガンと痛む。よろけて手をついたテーブルの上に、ぼやける視界でかろうじて捉えたそれは置いてあった。カサ、と音を立てて床に落ちた紙を拾う。二つ折りになっていたのを開いてみると、中には丁寧な字で一行だけ書き記されていた。

<違う匂いを求めて>

ぞっ、と背中を冷たいものが這うような感覚を覚える。それは紛れもなく己と同棲していた朔の字であり、間接的な言い回しもそのままだった。
問題なのは、その一文の意味だった。他の誰が読んだとして、分かる者は居ないだろう。太刀川には心当たりがあったから、その意味が分かったのだ。



月見と朔とは、昔から共にいた。流れるように過ぎていく時の中で彼らは好き合い、交際を始め、同棲にまで至る。しかし、彼はどこか物足りなさを感じていた。胸を躍らせる何かを、日常にも期待していたのだ。
彼は、大学の同期と一夜を明かした。華やかな香りは彼の好みでは無いため、恐らく朔はすぐにそれを察知しただろう。けれども、彼女はそれに口出しをする事は無かった。故、彼はその行為を繰り返したのだ。



容認されたと思い込んでいた、己が間違いだったと太刀川は気付く。

―だって、今お前が居ないだけでこんなにも寒い。

そして内容を鑑みるならば、彼女は既に違う者の所へ行ったと考えられた。






自業自得とはいえ、彼女が離れていったことが信じられなくてただただ呆然とする。
自分のことを棚に上げる発言とは分かっていても、彼は再び漏らさずにはいられなかった。



「何でだ、朔」





















共に過ごした部屋で別居していた事に僕は気付かなかった。そして今、僕らは二度目の別離を迎える。












* * * * * * * * * *




俺はこの手でお前じゃない奴を何度も抱いた。それでも、俺には我慢ならない。

―お前が俺以外の奴の腕の中にいるなんて。






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