[携帯モード] [URL送信]

二次創作/夢
身に過ぎた想いだと、君は笑うか。なじるか。罵るか。だが、僕はこのような生き方しか知らないのだ。(風間)



「…朔」



呼び掛けたとて目覚める事は無いと、彼は知っていた。赤い瞳を細めて、静かに寝息を漏らす彼女を見つめる様はどこか満足げである。



「そのまま、目覚めてくれるな」



風間は、机の上に置いてあった二つのカップを流しへと運んだ。その内の一つは口をつけられておらず、ルビー色の液体は人に飲まれる事なく排水口の奥へと流れ落ちる。シンとした室内に、蛇口から溢れる水がシンクを打つ音が響いた。



「…お前は困った奴だな」



身長はさほど変わらずとも、やはり男とは違ってその体は細く柔らかい。ソファに力無くもたれかかっていた朔を抱え上げて、奥の部屋へと運んだ。そこは風間の寝室であり、彼の性格故か整然としている。そっとベッドに彼女を横たえた彼は、顔の両側に腕をついてその寝顔を眺めた。


雨に濡れたからと、安易に男の家に足を踏み入れてはならない。


気心が知れた仲だからと、疑いなく物を受け取ってはならない。


疲れていて仕方がなかったとはいえ、そこに簡単に漬け込まれてはならない。



するり、と滑らかで柔い肌に指を這わせる。小さな耳をなぞり、目元をくすぐり、頬を撫で、薄く開いた唇を軽く押した。



「まあそうさせたのは他でもない俺だがな」



ふっと口元に笑みを乗せて、彼は笑った。
長い時を共に過ごした。長い時をかけて囲い込んだ。その瞳が他の誰かを移して濁らぬように、離れていかぬように。

―もう、いいだろう。

ひとまずは、彼女を起こす必要がある。それは難しいようでいて、ひどく簡単な事だ。






奪えばいい。
その呼吸を、己以外の者の名を紡ぐ唇ごと。






ゆっくりと顔を近づける。朔の漏らす息を自身の唇で感じて、風間は一度瞼を下ろした。
再び瞳が開いた時、その赤は暗い室内で爛々とした輝きを放つ。狂気と歓喜が混ざり合って凝縮されたような、混沌とした光だった。

























身に過ぎた想いだと、君は笑うか。なじるか。罵るか。だが、僕はこのような生き方しか知らないのだ。



















* * * * * * * * * *




奪われたくない、その一心で何年も使って下積みをした。それなら、俺が使った年数の倍は俺を見てくれないと困る。

―ああ、やっぱり期限付きでは無理だ…無期限にしてくれ。






[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!