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二次創作/夢
魔法はもう必要ない(特別隊員番外編・If/ハロウィンで仮装/ナギ様)





「あれっ朔さんじゃないっすか!…ん?」


「おー本当だ…んん?」


「米屋、当真!面白い組み合わせだな。

…ところで、何故そんなに私を凝視してくるのかな」



ふと通りがかったラウンジ近くの通路で、自分を呼ぶ声に朔は足を止めた。珍しい二人が一緒に居るものだ、と思いながら近付くと彼らの様子がおかしい事に気がつく。何故か自分の首から下をまじまじと見てくるのだから、彼女が不思議に思うのも無理はなかった。



「いや、何か違和感を感じて…」


「おー、俺も同じ事思ってた所だわ」


「?
何かおかしいか?」



彼女が問いかけてみても、何やら煮え切らないあやふやな答えしか返ってこない。何か変だろうか、と己の体を見下ろしてみても特におかしい所は無かった。
別に普通じゃないかと言ってみても、二人の反応は今一である。結局、では何が?と彼女も加わって考え始めてしまい、三人が通路の途中で頭をひねる形となった。その様子は変な光景としか言いようがない。

―とそこへ、先ほどの朔と同じく穂刈が通りがかった。
最初は三人固まって神妙な顔をしている奴が居るなー、という程度の認識だったが、近付くにつれてそれが皆知り合いである事に彼は気がつく。気づいた以上素通りをするのも何か変な感じがしたので、穂刈は声をかけてみることにした。



「…三人して何してるんだ?」


「おっ穂刈!」


「穂刈さんこんちはー」


「おう。
で、これは何の集まり何スか朔さん」


「二人が私に違和感を感じるらしいんだが…穂刈は何か気付いたことあるか?」


「はあ…」



とは言っても、特におかしな点は見当たらない。
朔の全身をざっと見てみるが、いつも通りの黒づくめの特別隊員用の隊服である。黒いショートブーツに横に白いラインのついた黒いパンツ、同じく白いラインのある腰まで覆うトレンチコート型の上着。紛う事無きトリオン換装体の…



「あ」


「えっ?」


「違和感の正体、それでしょう。今トリオン体じゃないですか」


「「ああ!!」」



穂刈がそう言うと、米屋と当真が揃って納得の声を上げる。

―そう、彼の言う通り違和感の正体とは彼女がトリオン体であることだった。

いつもなら、彼女がトリオン体になるのは訓練と戦闘時だけである。隊服を持つだけでも注目を浴びるというのに、朔の場合は唯一人の特別隊員なのだ。一目見ただけで分かるその服装で行動する事を、あまり目立ちたくない彼女は好んでいなかった。
だが、確かに穂刈の指摘通り朔はその黒づくめの出で立ちでその場に居る。普段の服装も黒などの暗い色だったり落ち着いた色を選んでいるので、彼らはそれが原因で気がつかなかったのだと納得した。



「すっきりしたわ〜。穂刈サンキューな!」


「成る程成る程、トリオン体だからかー!珍しいっすね!」


「そういえば確かに珍しいですね。なんで今日はトリオン体なんですか?」


「…いや、特に気にすることはないよ。ちょっとな」



ここで何故トリオン体なのか、という当然の疑問が彼らの間で浮かんでくる。その旨を穂刈が代表して聞いてみれば、今度は朔が煮え切らない返事をした。
おや、とそんな答えを受けた三人は目を合わせる。普段からさばさばとした物言いで知られる彼女は、基本的に言い淀むという事をしない。故に、そういう口振りの時は何かがある、と本人が漏らしてしまっている事と同義なのであった。

―つまりは、トリオン体にならなければならない理由があるという訳だ。

面白そうな匂いを察知した米屋並びに当真は、にやあと口を歪める。それと同時に、朔は不穏な空気を察知して強く地面を蹴った。逃がすかと後ろから追いかけてくる声に、彼女は内心冷や汗をかく。



「なー朔さんちょっと換装解いてよ〜!」


「悪いようにはしねーぜ?おら、穂刈も何とか言え」


「いや、何で俺も巻き込まれてるんだ」



こっちは全力で走っているというのに、余裕そうな会話が背後から聞こえてくるのが何とも憎らしいものである。穂刈に関しては何巻き込まれてるんだこの馬鹿、という気分だ。





―何はともあれ、最近鎮静化しつつあったボーダー本部全力鬼ごっこ大会は、ここに再び幕を開けるのだった。
































岸川朔にとって、この日は実についていない一日だった。

なにしろ、本部へ足を踏み入れた瞬間に後輩オペレーターに取り囲まれ服を脱がされ、あれよあれよと言う間に着たこともない服装にされたのだ。これでついてる等と言う輩は居るまい。



「月見ちゃん、国近ちゃん、これは…」


「私が昔の伝手で用意してきました〜」


「小佐野ちゃん…!なんて物を用意してくれたんだ君は…!!」


「似合ってるわ、朔さん。とっても」


「なんかえろいー朔ちゃんすごいねー!」


「う、嬉しくないぞ…小佐野ちゃんは無言で親指立てないで……」



10月31日、と言えばもう皆さんお分かりだろう。

そう、本日はハロウィン。
生まれは外国のこのイベントだが、文化の雑居性が特徴的な日本では、近年人気が上昇している行事の一つだ。それに乗っかる形で朔が着せ替えられたのは、容易に想像出来る事だった。

元モデルであるという小佐野が用意した衣装は非常に可愛らしく、裾がふんわりと広がるワンピースタイプの魔法少女が着るようなそれだ。しかし後ろを見てみれば背中が大胆に開いており、そこは赤いリボンで編み上げられている。極め付きに胸元がちらりと覗くような構造になっているので、成熟した女性が着れば何とも言えない艶やかさが包む。
開放的で緩い服を好んで着るとはいえ、露出を好まない朔にとっては拷問のような服装だ。後輩に強く出られない彼女は、嬉しそうにはしゃぐ三人を前にして羞恥をかみ殺すのだった。



「…着替えても、良いかな…?」


「えっ!?だめだよー!可愛いんだから!」


「そうよ、朔さん。今日はそのままで居てもらうわよ」


「…えっ」


「あ、それはあげますよ〜、貰い物なんで。この後オペレーターでハロウィンパーティーやるんで着たままで良いんじゃないですか?」


「……えっ」


「じゃあパーティーでお披露目だね〜!皆絶対可愛いって言うよ!!」


「じゃ、そういうことで。狼に見つからないように気をつけてねー」


「私達はこれから準備だから朔さんは好きに過ごしていてちょうだい」



扉からひょいと外に放り出され、にこやかな顔で行ってらっしゃいと告げられる。それはある種の死刑宣告であり、シュッと扉が閉まる音と共に耳の奥で反響した。

状況は理解出来なかったが、ひとまずトリガーを握ってトリオン体に換装する。いつもの平静さはなりを潜めたまま半ば呆然として、朔は口元を震わせた。



「…………えっ?」

































そんなこんなで、彼女は決して換装を解くわけにはいかないのだ。
せっかく視線という名の暴力に慣れてきたというのに、今度は鬼ごっこという苦行である…どっちにしろ朔の安寧の時は遥か遠くにあるのだった。

ちらりと後ろを見れば、彼女は驚きに目を見開く事となる。
其処には何故か荒船や奈良坂のスナイパー組が新たに加わっていたのだ。何時の間に、という思いが浮かぶと同時に、朔は軽い絶望を覚えた。曲者二人+αだけでもいっぱいいっぱいなのに、更にもう二人加わってしまったとは…。こうなってしまえば、彼女に出来る事は全力以上で逃げ続ける事だけである。


「米屋、本当にたけのこを二箱奢ってくれるのか」


「おーもちろん!だから協力して〜」



奈良坂…!それは買収…!!と、朔は内心涙を流す。自分の価値はどうやらたけのこの里二箱に負けるらしいなんて、知りたくない事実だった。ちなみに当真はその横を穂刈を掴んだまま爆笑しながら走っている。実に器用な奴だ、と彼女は遠い目をした。
しかし、一番怖い奴は何故か一言も発さずに黙々と後ろを走っている。それに言い知れぬ恐怖を感じた朔は、再度視線を後ろに向け…全てを見なかった事にした。

目が合ったその男…荒船哲次は、視線が重なったその瞬間ニヤリと不敵な笑みを浮かべたのである。

たったそれだけの事だったが、彼女はそこでふと思い出した。
この後オペレーターでハロウィンパーティーをやると言っていた事、連れ込まれたあの部屋には三人以外の荷物があった事、その中には加賀美倫の物があった事…。そこまで考えて、彼女はある可能性にサッと顔を青くする。それは詰まる所、荒船にあの情報が渡っているという事であり…。

益々捕まる訳にいかなくなってしまった朔は、その動揺のせいで前方の人物に気がつかなかった。その男は設置された椅子に腰掛けており、作業着を腰に巻いてパソコンのキーボードを叩いている。



「隊長ー、やってくれていいぜー」



当真がそう言って初めてその男が冬島である事に気がついた朔は、同時に逃げられない事を悟った。彼女は、知らない間に誘導されていたのだ。
おう、と軽く返事をした冬島がエンターキーを叩く。すると電子音が朔を中心に鳴り響いたため、彼女は思わず足を止めた。



<データ****、トリガーに接続>


「…!?」


<全回路オフ、トリオン換装体解除>



沈黙がその場を走った後、冬島が楽しそうにおー、と言う。画面に表示される結果に満足した様子である。



「成功成功。これは実用化できるなー

しっかし可愛い格好してんな。襲われたいのか、朔?」






―状況を理解した朔の、声の無い悲鳴が上がった。

































うわ、可愛い…と誰かがそう漏らした。


彼らの視線の先には、冬島の座る影に隠れている朔がいる。当真や米屋はにやにやと舐めるように彼女を眺め、奈良坂や穂刈は素直に可愛いと思いながら横にいる荒船を窺っていた。荒船は完全に目が据わっている。
視線が気になるのか、彼女は顔を真っ赤にして涙を浮かべながら身を縮こまらせていた。(ちなみにしゃがみ込むことでそのむき出しの背中や胸元が更に強調されているのは誰も指摘していない)

結果的に彼女の隠れ蓑となっている冬島は、笑いながら己の膝付近にある頭を撫で回す。そのにやついた表情のまま惚ける面々に視線をやり、彼は言った。



「お前等が追いかけ回すから拗ねてんじゃねーかよ」


「いや、トドメ刺したの隊長じゃん」


「それな。違いない」



当真に言い返されるも、冬島のその飄々とした態度は崩れない。むすっとしながらも自分の側に朔が居ることがその態度の理由だった。言うなればただの優越感である。朔としては、追いかけ続けてきた奴らと冬島を天秤にかけ、彼の方が安全だと判断したまでだが。

しかし、それが気に入らないのが追いかけてきた彼ら、高校生組だ。
特に荒船は異様に鋭い目で冬島を睨みつけており、とても年上に対する正しい態度とは言い難い。しかし、朔が動かないために事態は膠着状態にあった。とりあえず此方へ意識を向けさせよう、とまず当真と米屋が朔に声をかける。冬島から作業着をぶんどって頭から被っていた彼女は、ちらりと視線のみを向けてみせた。



「朔さんその格好隠したがってたみたいだけどさ、すげえ似合ってるぜ!色気やばい」


「ばっか米屋、ここはストレートに言えよ。エロいって」


「ちょっとやめて!当真さんちょっと」


「…五月蠅いぞ愉快犯ども」


「「…」」



本音が漏れ出る米屋と、隠しもしない当真を見つめる目が暗い。最早軽蔑すら含んでいるかのような冷たさだった。冬島は遠慮なくげらげらと笑っている。

つまり結果は惨敗だった。
駄目だこいつら、という顔をした奈良坂と穂刈が次いで進み出る。比較的ましな二人が歩み出たからか、少しだけ朔の顔が上がった。それに期待した奈良坂が柔らかく声をかける…



「岸川さ「買収」…すみません」



が、名前を呼び掛けた所であえなく遮られる。ぐうの音も出ないとはまさにこの事だった。
横に居た穂刈はもう少し粘れよ、という思いを隠さずにため息をつく。どうも今回ばかりは朔の腹に据えかねたのだという事を、彼自身何となく理解したからだった。


「すみません朔さん、俺も巻き込まれたとはいえ調子に乗りました」


「…本当だ、馬鹿」


「返す言葉も無いッスね。でもすごい似合ってます、それ」


「私は着たくて着た訳じゃない…月見ちゃんとか国近ちゃんが……」


「そうだったんですか」



遠目の場所にしゃがみながら話す穂刈に、朔の体から少し力が抜ける。強張っていた肩が下に下がったのを見て、後ろにいた男達(惨敗済み)は感嘆の声を上げた。少しずつだが、彼女の警戒心が溶けていっている様子が見てとれる。穂刈の人柄もあるのだろうが、不用意な行動や発言をしていないのが一番の要因であろう。つまりは、彼以上の適任者は高校生組には居なかったのだ。
が、ここで何故かしゃしゃり出た男が一人居た。こちらに来るよう説得し始めてから一言も喋っていない男…荒船である。彼はおもむろに足を踏み出したかと思えば、穂刈よりも朔に近い位置でしゃがみこんだ。



「まあちょっと刺激が強いんで隠しといた方が…、荒船?」


「朔さん」


「…?」



と、ここでその様子を眺めていた彼等、特に当真は嫌な予感を覚える。折角ここまで穂刈が話せるようになったというのに、何か台無しになってしまうような気がしたのだ。荒船に喋らせたらまずい、と当真は横槍を入れようとしたが…時すでに遅し。彼はにやりと笑って定番のセリフを口にした。



「トリックオアトリート。…寄越せ」


「!?」



ザアッと音がする勢いで顔を青くした朔は、思わず冬島の膝あたりにしがみつく。この衣装にかこつけて何か言われることも嫌だったから隠していたのに、この弟子は師匠の意を汲み取ってはくれないようだった。
詰め寄る荒船に対して必死に首を横に振るが、彼は許してくれなさそうである。助けを求めて穂刈を見ても気まずそうな顔をするだけ。ならば、と冬島を見上げると、彼はその視線に気がついて困ったように頭をボリボリとかいた。



「しゃーねえなぁ。原因は俺だし…」



彼ははあーっとため息をつきながらパソコンをアタッシュケースに詰め込んで立ち上がる。それを朔に投げ渡し、目を白黒させる彼女を素早く抱え上げた。



「増援が来るまでだから、なっ!」


「ッハァ!!?ちょっと待て…!」



そう言うや否や冬島は脱兎の如く駆け出す。 まさか彼がそんな事をするとは思っていなかった荒船は、素っ頓狂な声を上げた。慌てて追いかけ始めた時には、二人の姿は曲がり角の向こうに消えてしまっている。初動が遅れてしまったせいで引き離されたようだった。



「上等じゃねえか…!!」



ギラギラと獣のように獰猛な目つきで、荒船は走り去っていく。


その場に取り残された四人は、展開についていけずに唖然としていた。

一番初めに我に返った穂刈は、しゃがんだまま頭をがしがしとかき回す。あのまま行けばなんとかなりそうだったのに…と語る背中からは、朔の事となると暴走する荒船に対しての苛立ちが滲んでいる。
当真や米屋、奈良坂は労りの意を込めてその背中や肩を軽く叩いた。その行為が一層穂刈を切ない気持ちにしたのは誰も知らない。

































「ほれ、着いたぞ」


「此処は…」


「オペレーターでパーティーやんだろ?真木から連絡来ててな」


「真木ちゃんが…」



荒船を撒いて目的地に着いた冬島に感心しながら地に足をつけた朔は、抱えていたアタッシュケースを彼に渡す。礼を言いながら受け取る姿を見ていると、彼女はある事に気がついた。



「あの、先程の増援とは一体…?」


「ああ、あれか。お前がしゃがみ込んでる時に風間に一報入れたんだよ」



その言葉を聞いて、朔は驚きを眼差しに乗せる。要するに、離れていた高校生達はともかく、彼女は横にいたのに気がつかなかったのだ。でも何故、という疑念も目で尋ねてみれば、冬島は眉を下げて笑った。



「言っただろ、原因は俺にあるって」


「…そういう事ですか。それなら最初からしないで下さい」


「俺は良い実験台が勝手にやってくるって当真から聞いただけだぞ」



意図してお前を狙った訳じゃない、と言う冬島に、朔は苦々しい顔をする。それを見て再び笑った彼は、先程同様、下にある頭を強めに撫で回した。しばらくそうやって過ごした後、パッと手を離す。



「ま、役得ってとこかな」


「は…?」


「パーティー楽しめよ。今日は悪かったな」



訳も分からず置いていかれた朔は、頭に疑問符を浮かべながら目の前の扉横のスイッチに手を伸ばした。

扉が開くと、今回の騒ぎの原因となった月見や国近、小佐野を筆頭に加賀美等からも歓迎の言葉を受ける。口々に可愛いと誉めちぎられる彼女は知らない。



―この後着せ替え人形となる事を強いられて撮影会が始まる事や、


―冬島からの知らせを受けて掃除をした風間がパーティーに部下を引き連れて乱入してくる事や、


―終いには忍田までもが撮影会に乱入してくる事を。



結局は何も知らないまま、朔はオペレーター達にもみくちゃにされるのだった。






















魔法はもう必要ない


(…風間さんやべえ)(死ぬかと思った…)(おい米屋、たけのこの里は)

(何で俺もなんだ…俺は寧ろ労られるべきだろ……)












* * * * * * * * *



季節ネタという事で、先にナギ様のリクエストを消化させていただきましたー!リクエストありがとう御座います!
長くなった割にリクエスト内容に沿っていないような…「悶える」ってどうすれば良いんですかね…?申し訳ありませんナギ様、気に入らなければ早急に書き直しますのでどうかご容赦下さい。

冬島が色々と良い立ち位置(笑)
@換装体解除、間近で主人公を見る
Aトドメ刺したにも関わらず主人公に(結果的に)頼られる
B膝にしがみつかれる
C主人公を抱えて逃走(抱え方はご想像にお任せします)
→>良いとこ取り<

ちなみにあの冬島が試していた試作品は、某中編主人公が開発した隊務規定違反者用の強制解除システムです。分からない人は中編見よう(宣伝)


というかハロウィン間に合わんかった切ない。




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