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二次創作/夢
この世で最も難しい問いとは何か?それはリーマン予想のようなミレニアム問題ではなく、ただ一つ…人間の存在理由のみを指す。




「そうかそうか…私なんかで良ければお相手しよう。

―…ただし、驚くなよ」



そう言った彼女は、手にした刃の柄を強く握りしめる。爛々と輝く好戦的な瞳に晒されながら悠然と佇むその姿は、歴戦の猛者のような威圧感すら感じさせた。

己の師匠と似た、強い奴の匂い。

興奮が背筋を登り、口元に歪な笑みを浮かばせる。迅がランク戦から姿を消して以降退屈な思いをしていたが、これは…。



「いいなぁアンタ。楽しませてくれよ、岸川」


「善処しよう、太刀川くん」









「よっっわ!!!!」


「ふふふ、すまないね。期待に添えなくて?」


「えええそりゃ無いだろ!?手加減とかした訳じゃ…」


「無いな。これが私の対人戦闘力の全開だ」


「ええええええ…」



至極おかしそうに笑う朔の横で、絶望したように太刀川が顔を歪める。

彼による彼女への勝手な期待が裏切られたのは、二人の様子と会話からして明らかだった。そんな二人をモニターで眺めていた迅は、手にしたぼんちあげを頬張りながら近くへと寄っていく。周りのギャラリーのざわめきには目もくれず、彼はお疲れ、と労りの言葉を彼らに投げかけた。



「全然お疲れじゃねーよ…10戦中10勝だぞ迅……」


「ああ、これありがとう迅くん。君に返すよ。正規のトリガーを使うのは初めてで中々新鮮だった」


「いえいえ。というか、そのトリガーまだ持ってて良いよ」


「おや、サイドエフェクトかな?それならそうしよう」



迅はトリガーを受け取る代わりに、ぼんちあげの袋を朔の取りやすい位置に持ってくる。彼女も差し出されたそれを有り難くいただきながら、にこりと感謝した。
そんな穏やかな様子の二人を、未だに不服そうな太刀川が眺める。納得がいかん、と零した彼を振り向いた朔と迅は、何が?と訝しげな顔をした。



「岸川、お前あんなもんじゃないだろ。もっと絶対強いはずだ」


「太刀川さんさあ…その自信なんなの?根拠は?」


「無い!勘だ!!」


「えー…」


「そもそも、俺はお前がデキるって話を聞いたからふっかけたんだぞ!?」


「うーん、それは誤解かな。
私は君たちみたいにトリオン体での戦いのために訓練していないからね」


「はあ!?この前諏訪さんから聞いたんだぞ、トリオン兵一撃で倒したって」



困ったように眉を寄せていた朔は、太刀川のその言葉に苦笑した。

あの試作品の性能を確かめるテストは、ある程度終えていた。後は隊員の意見が聞きたいと思った朔は、手っ取り早くそれなりの人数分の意見を集めたかったのである。そこで迅に尋ねたところ、荒船らと共に帰れば良いと言われたからああしたのだ。まさかこんな所でこんな風に詰め寄られるとは思ってもいなかった。

そもそも、太刀川の言う朔が「強い」ことと「戦闘員として強い」ことは似て非なるものなのだ。

駄々をこねるように本気でもう一戦やれ!と言い募る彼に、彼女は小さく嘆息した。これは、一度やってみせた方が早いだろう…そう思った朔は、単身訓練室へと向かう。奇しくも、迅が言った通りになってしまったようだった。



「悪いね迅くん。君のトリガー、もう一回だけ借りるよ」


「どうぞ〜。
ほら太刀川さん、今から岸川さんがいいもん見せてくれるってよ」


「えっ俺とは戦ってくれないの!?」


「良いから良いから」



迅と太刀川の会話を背中に浴びながら訓練室に足を踏み入れた朔は、タッチ式のパネルに手を伸ばす。

ステージは市街地、仮想トリオン兵を二体、バムスターとモールモッドを一体ずつ。

設定完了のボタンを押して転送された先は、開けた広場のような場所だった。仮想訓練開始の合図が鳴り響き、彼女は閉じていた目を開ける。



「さて、さっさと終わらせよう」



迫り来る敵を前にそう呟いた朔は、特に焦るでもなくそこに佇んでいた。

―真正面と右から、一閃。

鋭い攻撃が自分にどう向かってくるのか分かっているかのように、彼女は難なくそれを避けてみせる。

モニター越しに眺めていた太刀川は、はて、と内心首を傾げた。
紛れにしては初期対応が速すぎる。しかも一度のみならず何度もひょいひょいと攻撃を避けているではないか。これはどういうことなんだ、と頭をひねっていると、横にいた迅が口を開いた。



「岸川さんはさ、根っからの研究者で理系人間なんだよ」


「それがどうかしたのか?」


「ああいうトリオン兵も元は作られた兵器でしょ?作られた物ってことはなんかしらの計算式が使われてるわけ」


「なに難しいこと言ってんだお前…」


「え、分かんないかなあ。岸川さんはトリオン兵が計算式の塊にしか見えないんだよ」


「分かるかよ!」


「そんな難しいこと言ってないでしょ!?だからぁ、岸川さんはトリオン兵の動きを“知ってる”ってこと!!」



迅が自棄になりながらそう言うや否や、モニターの向こうで光が瞬いた。その光は朔が放った攻撃の軌跡だったのだが、勿論二人はそれを見ていない。ハッと顔を上げた時には、彼女の前に倒れた二体のトリオン兵が映っているだけだった。



「は?何?終わったの?」


「もーほんと太刀川さんさあ…」


「俺のせいか!?」


「それ以外にないでしょ」


「…とりあえず岸川は強いんだな?よし、戦おう」


「なんなのこの人…」



早々に引き上げてきた朔は、決め顔をした太刀川とうなだれる迅の姿を見た。しかも、太刀川に至っては言ってくることが先程と何も変わっていない。

迅が色々と説明してくれたのだろうが、太刀川の理解力の乏しさは並大抵のものではなかったらしい。A級一位と聞いていたからさぞ能力値の高い人なのだろう…と考えていた朔は、戦闘面以外のその先入観は捨てるべきだと悟った。正しい判断である。



「なあ、結局は強いんだろ?だからブース入れ」


「…ごめん岸川さん、俺の手には負えなかった」


「なに、気にするな…私も此処までとは思っていなかった。先入観とは恐ろしいものだな」


「なー戦おうぜ岸川〜」


「やれやれ…君は中々に曲者だな太刀川くん。良いかい?君は人間、トリオン兵は人工物。此処までは分かるな?」


「は?人間だけど」


「よし。
端的に言うなら、私は人工物なら勝てる、だが訓練された人間にはそうそう追いつけない。だから私は君には勝てない。分かったかな?」


「…強くないのか。じゃあ強くなれ」


「………」


「いや、太刀川さんこういう人だから。助け求められても困るから」


「まあ岸川は期待だな。じゃあ迅、やろうぜ」


「やだよ!なに当然の流れみたいになってんの!!?」























「数式は良いものだ。
その形を変えてみればある程度その先が予測しやすくなる。人類の叡智と言うべきツールだね。何が良いって?一番良いところは必ず答えがあるって事さ!

それに比べたら、人間はなんて難解な生き物なんだろうね。あんなに素晴らしい道具を生み出しておきながら、自身の存在や行動に答えがないなんて…。訳が分からない。でも其処が面白い!
私だって自分の「答え」なんて分からないさ。でも、「答え」を求める人間になりたい。え?何を言っているのか分からない?これは失敬。

まあとどのつまり、芯の通った人でありたいって事さ」


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あきゅろす。
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