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二次創作/夢
幸せの泥沼に沈む(特別隊員番外編・If/迅といちゃいちゃ/優月様)




―とある日の玉狛支部で事件は起こる。

それは三雲修、空閑遊真、雨取千佳の三人がそれぞれの師匠に付いて訓練を重ねていた昼下がりのことだった。


「うわ…」

「わ〜迅さん遂にやっちゃったか」

「ちょっと迅、あんた…!!」

「いやー…あはは!

拉致ってきちゃった、特別隊員」


朗らかに笑って扉をくぐってきた迅の片腕には、小柄な黒髪の女性―岸川朔―が抱えられている。気まずそうに、だが不機嫌な様子を隠していないその人物を見て、烏丸や宇佐美、小南は思い思いの声を上げた。中でも小南に関しては、迅を指差して体を震わせている。
状況が飲み込めていない三雲隊の三人は、彼女が怒りに体を震わせているのかと身構えた…が。


「…っよくやったわ迅!!
朔を連れてくるなんて大金星よ大金星!!!この人といったら全然玉狛に寄り付きもしないんだから!!!」

「小南先輩、大金星の使い方間違ってますよ」


どうやら歓喜が抑えきれず表に溢れていただけのようである。嬉しそうに迅から朔をぶんどった小南は、マシンガンのごとく話しかけ始めたのだった。あっ、と残念そうに声を上げた迅などもはや視界にも映していないようである。


「久しぶりじゃない、朔は元気にやってたの?相変わらず本部を走り回ってるって聞いてるけど…いやそれはいいのよ!問題はあんたがここに長いこと来てないって事よ!!」

「…小南ちゃん、一つ訂正してくれ。
私が自発的に走り回ってるんじゃない、追いかけられてるんだ」

「ああそうなの、大変ね…ってそうじゃなーーい!!!」

「まーまー落ち着きなよ、修くん達に朔さん紹介してあげなきゃ」


話しながら沸々と怒りが沸いてきたのか、責め立てるように言葉を連ねる小南を前にして、朔は気まずげに目線をそらした。話を逸らそうとはぐらかした答えを返すと、案の定、彼女は更に声を張り上げる。
遂に困った顔をした朔を助けたのは、二人を笑いながら見守っていた宇佐美だった。


「それなら、昼のついでに話したらどうだ。ちょうど飯ができたところだ…岸川も食っていけ」


騒ぎを聞きつけてキッチンから顔を覗かせていた木崎もそれに便乗して声をかける。手にしていた大皿からは、食欲を誘う匂いが立ちこめていた。
宇佐美の宥めが効いたからか、はたまた空腹故か、ぐっと口をつぐんだ小南は悔しそうに朔の頬を掴んで引き伸ばす。


「…そんな易々と許さないわよ。
今日は泊まっていきなさい!栞も一緒に三人で女子会やるんだから!!」

「、ふん…わはったぞ」

「何言ってるのか分からないわよ!!」

「いや、それ小南先輩が引っ張ってるからっすよ。というか俺も触りたいです、朔さんの頬」

「うるさいわよとりまる!!」


騒ぐ先輩達をぽかんと眺めていた修は、横から聞こえる小さな笑い声に気が付いた。見てみると、千佳が口元に弧を描きながら楽しそうにしている。彼の視線に気づいた彼女は、大きな瞳を細めて言った。


「好かれてるんだね、あの先輩」

「ああ、そうだな…小南先輩と大分仲良いみたいだし」

「楽しそう。ね、遊真くん」

「おお、中々に面白そうな人だな」


三人で顔を見合わせ、テーブルに昼食を並べている木崎をいそいそと手伝いに行く。食事が早く始まればあの先輩のことも早く紹介してくれるだろう、と考えたからだった。





















「気に入らないわ…何で迅が朔の隣なの!?しかもちゃっかり端に座らせてるし!片側しか座れないじゃない!!」

「えーだって俺が連れてきたんだよ?ちょっとくらい良い思いしたっていいじゃん」

「小南、デザートもつけてやるから落ち着け」

「うっ…分かったわよう…」


賑やかな食卓に、あまり大人数で食事をしない朔は無意識に頬を緩めていた。普段は一人、もしくは二人三人といった少人数で食事をとっている事を考えれば、この騒がしさは身に馴染みのないものである。だからこそ、たまのこういった大人数での食事はいっそう楽しさを感じるのだった。
朔を無理やり連れてきた迅の意図は分からないが、きっとこういう配慮も含めてのことなのだろう…そう考えた彼女は、少しだけ彼に感謝をした(ただし、出会い頭に拉致をするように拘束されたことはまだ許していない)。

ふと視線を上げると、向かいに座っていた三雲隊の面々と目が合う。初対面の人にはその固い表情筋のせいで怖がられることもあったので、朔は柔らかい表情を心がけて話しかけることにした。


「三雲くんだったかな。折角知り合ったんだし…何か聞いておきたいことはあるか?」

「…えっと、じゃあ。
あの、特別隊員っていうのは…?」

「ふむ、それは俺も気になるな」

「わ、私も…!」

「、そうか…失念していたな。
特別隊員という言葉は知っていても、その詳細までは分からない、という事で良いかな?」

「はい…自分が本部に居たときは、何となく噂で聞くくらいだったんですけど」


どうやら「特別隊員」という名前だけが一人歩きをして、その詳しい内情が抜けているらしかった。

―長いこと居ると説明しなくてもいい気がしていたのだが…。

そんな内心の思いが漏れ出ていたのか、その言葉に千佳が小さく反応する。修や遊真も驚いたように朔のことを見ていた。


「そんなに長くボーダーに…?」

「うーん…旧ボーダー時代には私はいないから大体四年前かな?今の体制になってからだよ、私が入ったのは」

「それでも長いですね…」

「で、特別隊員の意味だったか…実を言うと私は異色の戦闘員なんだ」

「異色、ですか」

「オペレーターを志望して入ったは良かったんだけど、私のトリオンが問題になったんだよ。どうも“欲を刺激する”らしくてね…」

「よく…」


遊真が首をひねると、朔はおかしそうに肩をすくめた。確かにわかりにくい表現ではあるが、こうとしか説明出来ないので致し方ない。分かり易くするために、彼女は例を挙げる事にしたのだった。


「トリオン兵であれば破壊や捕獲への欲求が私に対して高まるし、人で言えば…いい匂いがするんだそうだ。おかげでよく追いかけられてるよ」

「…いい匂いがして何で追いかけられるんだ?」

「ちょっ、空閑…!!

…すいません、岸川さん」


いまいち理解仕切れていない二人とは裏腹に、修はしっかりとその意味を飲み込んだらしい。彼はほんのりと頬を染めながら、続きを促そうとする空閑の口をあわててふさぐのだった。そんな反応にも、朔は気にしていない風で説明を続ける。いや…どうやら気にしない、というよりは慣れている、というのが正しいようだった。

「まあ、このトリオンの特殊性から戦闘員への転向を余儀なくされたというわけかな。
特殊すぎるが故にランク戦にも参加しない、昇格も何もない。まさに“特別”待遇の隊員だろう?」

「そうだったんですか…」


こうして一通りの説明を終えた朔は、他愛もない話を続けていく。
その横で、他の面々は自身の皿の上を徐々に綺麗にしていった。自分達も会話を重ねながら親交を深めた修らは、名残惜しそうに席を立つ。午後からはまた師匠と弟子同士で訓練をするためだった。そんな彼等とまた夜に話すことを朔は約束して見送る。まず宇佐美が私用で抜け、また二人一組ずつリビングから姿を消していくと、先程までの騒がしさが嘘のように静かになった。

リビングに残った二人は、その日の中で初めてまともな会話を交わした。隣同士に座っていたにも関わらず、彼らは全くもって喋っていなかったのだ。


「やー…朔さん怒ってる?」

「今は怒ってないぞ?食事前は怒っていたがな」

「なら良かったよ」


ソファに移動しようとして朔が立ち上がると、突然後ろから腕を引っ張られる。もちろんそんなことをする人は迅くらいしかいないので、彼女はため息をついて彼の方へ向き直った。


「迅」

「うん」

「…こら、頭を腹に押しつけるな。しかも微妙に胸に触れるんじゃない」

「うーん、中々いいものをお持ちで」


名前を呼んでも顔を見せようとしない迅は、椅子に座ったままぐりぐりと頭を朔の腹に押し付ける。その際に明らかなセクハラ発言をされるも、彼女は呆れたような雰囲気を醸し出すだけでいやがるそぶりを見せなかった。顔を隠してスキンシップをはかってくる時は、彼が精神的にまいっている時だと知っていたからだった。


「どうした、迅。またなにか見たのか」

「…違うよ。でも、何かこう…漠然とした不安に襲われたんだ」

「…」

「朔さん、…朔、朔」

「…なんだ、悠一」


名前を何度も呼ぶ時は、自分のことも名前で呼んで欲しい時。

嵐山と似た髪型のそれに優しく手を這わせ、梳くようにして頭を繰り返し撫でる。彼の吐く息が胸元に当たってくすぐったい感覚に襲われたが、彼女は構わず柔らかい髪に手を通した。


「悠一、ソファに行こう」

「、動きたくない」

「…心音を聞かせてあげる」


苦笑いをしてそう言えば、迅はすぐに立ち上がってソファへと移動する。抱えられたまま共に移動した朔は、ソファにそっと降ろされてから迅を見上げた。やっと見ることのできたその顔は、自分の知らないどこかに一人置いて行かれたような、言うなれば迷子のような顔だった。
無言で両腕を広げれば、目元を赤くして抱きついてくる。朔の上にのし掛かるようにして腕を回してきたため、一カ所にその重みを受け止める事となったソファが小さくギシ、と悲鳴を上げた。


「生きてる…」

「死んでたら心音なんかしないよ」

「…朔さん」

「お前も生きてる。三雲くんたちだって生きてる」

「うん」

「…まだ不安か?」


とくり、とくりと緩やかにリズムを刻むそれを耳にしていた迅は、少しだけ顔を上げてへにゃりと微笑む。それを見た朔も、小さく笑って彼の体に腕を回した。
未だ朔の胸の上に迅の顔があるが、彼女は気にせずぎゅうぎゅうとその体を抱きしめる。そのせいで更に深く胸元に顔を埋めることとなった迅は、苦しそうな声で笑いながら言った。


「、ふはっ!
苦しいよ、朔さん」

「落ち込んだらこういう風にしてほしいって言ったのは悠一の方だろ?」

「ん、まあね。いや〜、良い弾力だなあ。ばれたら風間さんに三回は殺されそう」

「っこら!息を吹きかけるな!!」


口では風間の名を出して怖がりながら、その表情と行動は全くそんな素振りも見せない。いたずらに朔の胸元で深く呼吸をして遊ぶくらいには、彼の気分は上昇したらしかった。


「落ち着いたなら離れなさい。気は済んだだろ?」

「えー。じゃあ今度は俺の番だね」

「は?」

「こーいうこと!」


諭すように声をかけた結果、何故か朔は後ろから迅に抱き締められる形になっていた。結局二人が抱き合っていることには変わりはないし、首筋にあたる彼の息が非常にくすぐったい。お腹に回された腕に自身の手を当てながら、彼女は小さくため息をついた。


「、もう。悠一、君は今日は甘えたい盛りなのか?」

「だって小南とかメガネくんたちにずっとかまってたじゃん。せっかく連れてきたのに」

「今かまっているじゃないか…」


ちゅ、ちゅ、と音を立てて項や耳、頬に唇が落とされる。心なしか腹部に回った腕の動きもいやらしい。…ここで朔はいやな予感がした。はっきりと拒まなければ、リビングだというのに不味いことになりかねない、と思い至ったのだ。
せめて迅の部屋に、と思ってそう言おうと後ろを振り向けば、それを遮るように鼻の頭や額、唇の端にキスされる。


「ゆ、悠一!待て、せめてお前の部屋に…!っん、ちょっ、悠一!!」

「朔さん…朔さん」

「…っっ、言うこと聞かないと…!!」

「んー…。
……え、うわあ…」


―焦りのあまり大きく声を張り上げた、その直後。

迅は何とも言えないとばかりの声を上げ、ぱっと体を離した。何が起こったのか把握できていない朔は、とりあえず迅の隣へと移動してからその顔を見上げる。口元を抑えて目線を明後日の方向に向けるその表情は、芳しいものではない。


「…何か見たのか」

「セコムに追われる…駆逐される…」

「は?」


突然意味の分からないことを漏らした迅に、朔は思わず聞き返した。それ以上語ろうとしない彼の顔は少々青ざめていて不安になる。が、それよりも彼女は内心胸を撫でおろしていた。あのままでは、誰がいつ来るとも知れない場所で、色々と不味いことになってしまっていたかもしれないのだ。迅には悪いが、朔はその未来を作り出した人物に感謝をした。

しかしダラダラと異常な汗をかくほど焦っている彼を見ると、なにか申し訳ない気持ちが沸いてくる。
未来のことは分からないが、お預けをしてしまったわけだし…。
そう考えた朔は、迅の頭を胸元に引き寄せて横になった。突然引っ張られた彼は、先程の表情を一変させ目を白黒させている。その様子がいつも飄々としている男と同一人物とは思えなくて、何だか朔は可笑しくなった。


「ふふ、」

「…何笑ってるのさ。朔さん次第で、俺大惨事なんだよ?」

「なんだ、私が関係していたのか。君が場を弁えてくれれば問題ないと思うのだが?」

「うっ…仰る通りで」

「だろうな。
まあいい、寝よう。悠一」

「え、ここで?」

「生活感のないお前の部屋よりかはよっぽど寝心地がいいよ、きっと」

「…はは、うん。そうだね」


はっとした顔をした後、迅は頬を緩める。最近眠りが浅いことでさえ彼女にお見通しなようだった。はっきりと言葉にしない優しさを噛み締めて、彼は自分の下にある小さな体を抱き寄せる。


「確かに、よく寝れそうだよ」

「だろう?特別だよ、悠一」

「あはは!俺今すごい贅沢してる」


朔が戯れに目の前の首筋に唇を落とすと、それに迅も応えて彼女の額に口づけた。互いに腕を背中まで回して、その体温を共有する。狭いソファに横たわりながら彼らは顔を見合わせ、どちらとも無く微笑んだ。


「隣にいるよ」

「うん、知ってる」



















「はあ〜〜つっかれた!!ちょっと遊真、少しくらい休憩させなさいよね!」

「ふむ、色々試したいことがあったんだ。未だに勝ち越せていないしな」

「そう簡単に追い越されてたまるもんですか!!」


一通りのメニューを終えた小南と遊真は、訓練室から出てリビングへと向かっていた。小南の怒声を背に浴びながら先にリビングに足を踏み入れた遊真は、あることに気が付く。それは、先に訓練を終えていた修や千佳が一カ所に集まって何かを覗いている、ということだった。


「よう、二人とも」

「あっ空閑!」

「遊真くん!」

「お前たちも今終わったのか」

「おー烏丸センパイ。どうして皆一カ所に集まってるんだ?」


皆の視線の先を見てみるとそこにはソファがある。ただひとつ普通のソファと違うのは、その端から二つ分の頭が覗いているという点だった。
それを遊真が認識すると同時に、奥から木崎が出てくる。その手には、大きめのブランケットが握られていた。


「どうも岸川が迅を眠りにつかせたみたいでな。一緒になって寝てしまったんだろう」


そう言ってブランケットをかける姿は、まるで面倒見のいいお母さんである。その手際の良さに遊真が謎の感動を覚えていると、後ろにいた小南が小さく声を漏らした。


「迅がここまでぐっすり寝てるのなんか、初めて見たわ…」

「そうなんですか?」


確かに、すぐ近くで彼らが会話しているにも関わらず、朔はおろか気配に敏感そうな迅でさえ全く目を開けない。かなり珍しい光景を目にしているのだと理解した三雲隊の面々は、まじまじと横たわる二人を眺めた。


「ぐっすり寝てるな…。迅さんはこういう姿を見せない人だと思ってたけど」

「言われてみれば確かに…。」

「きっと、朔さんと一緒だからだね」


抱き合って眠る二人は、完全に無防備な顔でソファに身を預けている。起こさないようにそっとその場から離れた三人は、良いものを見たと言わんばかりに小さく笑いを零した。

台所からは野菜を切る音や鍋でお湯を沸かしている音が聞こえてくる。
いつの間にか姿を消していた烏丸や小南は、晩御飯の支度をしている木崎を手伝っているようだった。自分たちも何かしよう、と修が言えば、遊真も千佳も笑って応える。




―食卓に色鮮やかなおかずが広がる頃、依然として眠る二人の口元には笑みが浮かんでいた。






















幸せの泥沼に沈む









* * * * * * * * *


企画第八弾目でした!!
いやー難産にもほどがある。迅さん難しい…。こんなのでよろしければお納め下さい優月様…

今回は玉狛を舞台にしてみました。なんだかんだいって玉狛メンバー書いたことがなかったので…。他にはどこ出してないかな…いつか21歳組で書きたいな〜。きっとだいぶ先だなー(遠い目)
あと、今募集してるリクエストの中に突然(貞操的に)際どいのをいつかぶっ込みそうで自分が怖い。嫌だったら、あの、ほんと、止めてくださいね…。今回のも中々危ないっすから…。



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