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二次創作/夢
「知に生き、知に全てを捧げ、知を求める。そのためにその身を以てして知を体感する、愚鈍な者さ」







その夜のことを、彼等は決して忘れないだろう。



―戦闘員ではない彼女がトリオン体となり、比喩ではなく本当に宙を舞い、一薙でバムスターを倒してしまった、その光景を。


場所は移り変わって、警戒区域外のレストランになる。

地に降り立って換装を解くと、朔は様々な質問を浴びせられた。これは当然のことと言えよう。なんせその光景は、彼らにとって凄まじい衝撃の連続だったのだから。
質問による猛攻撃を受けながら、朔は楽しそうに笑って、こう言ったのである。



「な、最高に面白いものが見れただろう?

君らの感想も聞きたいし、質問にもちゃんと答えよう。ここは一つ、私の奢りで食事でもいかがかな」



ボーダー隊員とて、一般市民と比べて懐はかなり暖かい方である。しかし、個人でスポンサーをする程の財産の持ち主である彼女には、誰も勝てないのだ。彼らは大人しくその提案に従い、―誰が見ても高級と言うであろう―レストランの個室に入ったのだった。



「なんでわざわざこんなすごい店に来てんだよ…」


「おや影浦くん。こういう店だからこそ、だよ。秘密話をしたいときには最適なのさ」


「は? …ああ」


「どうした、カゲ」


「いや、他の店と違って何の感情も向けられてねーなと今気づいた」


「完璧なるプライベート空間ってことか」



確かにボーダー関連の話をするのであれば、守秘義務という言葉はどこまでも付きまとう。それはボーダー隊員である彼らも例外ではなく、開発に携わる彼女もそうであった。
運ばれてくる料理に手をつけながら、会話を重ねる。高級そうな外観に反して、このレストランはピザやスパゲティ等の定番メニューばかりであった。もちろん、味はファミレスの冷凍のものとは比べ物にならないが。



「さて、じゃあ君らの質問に答えよう。一気に聞かれても困るからな…じゃあ村上くんから順にどうぞ」


「、俺か。
…うーん…じゃあ、そのトリガーは正規の物ですか」


「正規ではないね。私が作った護身用トリガーなんだが、色々といじってある。だからレーダーは何も反応しないんだ」


「えっじゃあ今頃諏訪さん驚いてるんじゃあ…」


「なに、心配ないよ。城戸さんと忍田さんには連絡しておいた」


「朔ちゃんすげえな!司令と本部長の連絡先持ってんのかよ!!」



村上が懸念したことも既に終わらせてあると言った彼女は、実に用意周到だ。また、上層部のアドレスを所持かつ使用するというその度胸に、彼らは口がふさがらない思いだった。自分なら間違いなくそんな軽々しくメールできない。これが高校生達の総意である。



「ふふ。さ、当真くんは?」


「え〜。じゃあバムスター倒した時一撃だったけど、訓練でもしてたの?朔ちゃん訓練室で見たことねーけど」


「特別開発室の、私の作業デスクの奥に訓練室があるのさ。そこまで入ったことが無いから知らなかっただろう?

そこで訓練…というより実験をしてた感じかな」


「次、俺の質問いっていいか」


「どうぞ、荒船くん?」


「あの時、空飛んでただろ。あれはなんだ?前に言ってたやつが完成したのか?」


「それの試作品かな。足元に自身のトリオンで不可視の薄い足場を作って、その上を滑走するイメージさ。まだ完成はしてないな」


「じゃあ、バムスターを倒した時のあのトリガーは?スコーピオンか?」


「おい、」


「確かに、あれはスコーピオンだ。ただし、攻撃するその瞬間だけ伸ばした刃を強化する試作トリガーを搭載してみたやつだが」


「スコーピオンの耐性を強化したのか…!さっきの滞空トリガーとその試作トリガーは俺にも使えるのか!?」


「ちょ、荒船興奮し過ぎだろ!落ち着け!!」



一人だけ多く質問を重ねる荒船の瞳は、未知なる物に対する好奇心に溢れている。穂刈の静止も耳に入らないのか、ひどく興奮した様子で朔に詰め寄っていた。心なしか前のめりになり、椅子から腰が浮いているように見える。



「悪いが、あれはまだ上に提出できないな。もっとトリオン消費の割合を低くしないとな…気づかない間にトリオン消費過多でベイルアウト、だぞ?」


「…そうか」


「まあ荒船、落ち込むなって。朔さんのことだからすぐに何とかなるだろ」


「うるせえ穂刈」


「買いかぶりな気もするけどねえ…努力するよ。
お次は穂刈くんかな?」


「あー…じゃあ、朔さんはアタッカー以外もできるんすか?」


「ふむ、そもそも固定したポジションに付いたつもりはないのだがな。
…どのトリガーを扱ったかと聞かれれば、とりあえず全部、と答えるよ」


「は?全部!?」


「なにも完璧に使いこなすことを目的にした訳じゃない。性能の確認と改良の余地があるか否かの判断のためだからな」


「…なるほど。
カゲ、お前は?質問しなくて良いのかよ」


「…ねーよ」


「じゃあ俺から最後に良いか、朔さん」


「何かな、荒船くん?」


「今更かもしれないが、あんたは何を目的としてトリガーを使ったんだ?」



その言葉に、彼女はにこりと微笑む。それは、彼らが今まで見た中で一番と言っていい程綺麗な笑みだった。



「知識を得ることこそが、私の最大の幸福なのさ。他の何もそれに代え難い、ただそれだけの話だよ」



その後食事を終えた彼らは、朔と別れて自宅へと歩を進めていた。
途中まで会話らしい会話もなく歩いていたが、静寂を破るようにして当真が口を開く。今日見たこと聞いたことが尾を引いているような、そんな話し方だった。



「いやー朔ちゃんすげえなー。なんつーの?研究者魂っていうの?」


「戦闘員に転向してもあっという間にA級まで行きそうだな」


「俺もそれは思った。というかあの人、自宅に帰る方が珍しいんだろ?」


「ってことはあの性格からして…」


「…訓練室籠もってそうだなー…」


「ほんとすげーわ。なあカゲ」


「あ?
つかお前ら見るところ違ぇだろ」


「?どこがだ」


「考えてもみろ、トリオン消費の激しい試作品二つにスコーピオンだぞ」


「ん」


「あ」


「お」


「え」


「俺はそっちの方がどんだけすげえのかが気になるけどな」
























「私は知識を求め、それを得ることで幸せをも得る。

あなたも覚えはないだろうか…好きなことを自分の目で、耳で、体の全てを使って体感し、新たなことを知る。そのことに深い喜びを覚え、新たな知識を更に求めたくなる、そんなことが。

娯楽だのなんだのと多くの物が出回ってはいるが、私にとっては幼い頃から馴染みのある物ではない。

私にとって一番の娯楽は、やはり身の回りにある新たな知識、これに限るのさ」



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