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二次創作/夢
籠絡される不落の城(特別隊員番外編・If/荒船がおせおせ/匿名希望)






ここ最近、朔は違和感を感じていた。




―…気のせいか、




「こらっ荒船、!近いぞ!!」

「いや、こんくらい近くねえと」

「…まさかコンタクトなのか、お前は」

「いや?視力2.0の裸眼だ」




―…後輩兼弟子が、




「隣良いか」

「ああ、構わない…うどんか」

「あんたは…カツカレーか…」

「?何を機嫌悪く…むぐっ」

「ほら食え、あんたが物欲しそうにしてたうどんだ」

「(自分で食べれたのだが)…おいひい」




―…何かと、




「だから、私ならここは先に援護射撃を遮ってから…荒船、覆い被さるな!暗いぞ」

「…続きは」

「肩に顎を乗せれば良いとでも思ったのか…?」

「うりゃ」

「いた、痛い!刺さってる…!」




―…近いような気がする。




「という訳なんだが、辻くんはどう思う」

「いや…何で俺に聞いたのか、そちらの理由の方が俺には気になりますけどね」

「そこじゃないでしょう、辻くん。これは由々しき問題よ」


場所は二宮隊隊室。

珍しく走り回っていなかった朔は、曲がり角で後輩二人に遭遇した。二宮隊アタッカー・辻新之助と、オペレーター・氷見亜季である。そこでお茶に誘われた彼女は、特に急ぎの用事もなかったのでその提案を受けたのだった。


「由々しき事態?」

「ひゃみさん、そんな大事なの」

「当然じゃないですか…!このままだと、朔さん食べられてしまいますよ」

「…それは確かに大変だな」

「待て二人とも、私は食用ではないぞ」


ちょっとした相談をしたつもりだったのに、後輩達の顔が一気に真剣なものになって朔は内心うろたえた。それでも動かない表情は流石は鉄面皮と称されるだけある。
何やら作戦を立て始めてしまった二人は、最早彼女の声など聞いていなかった。手持ち無沙汰になってしまったので、大人しくコーヒーを飲んで会議(参加者二人)が終わるまで待つことにする。と、その時、隊室の扉がシュンッと音を立てて開いた。


「あれっ?朔さんじゃん!
えっ何どうしたの?俺に会いに来てくれたの?」

「犬飼!今日も元気そうだな。私は二人に誘われたからお茶しに来たんだが…」

「…見事に放っておかれてるね。あの二人は何の会話してんの?なーんか妙に真剣だけど」


姿を現したのは二宮隊のシューター・犬飼澄晴である。腰掛けてカップを傾ける朔を視界に入れると、表情を華やがせて近付いてきた。素直に慕ってくれているのが分かるので、彼女もその雰囲気につられて薄くほほえむ。隣のイスをひいて座った犬飼を見て、朔は小さく零した。


「うん、やっぱりこれくらいが適度な距離だな」

「え?何が?」

「いや、荒船が最近どうも近いような気がしてな。犬飼くらいの距離がちょうどいいと思ったんだ」

「…ふーん。
ねえ、もしかしてその話してから?二人が話し始めたの」

「?ああ、そうだが」

「ちょっと俺も参加してこよっと」


そう言って彼が席を立ってしまったため、朔は再び一人でコーヒーを啜るはめとなってしまった。ちょっとした寂しさを感じながら、参加者の増えた会議を見守る。何故荒船の話で会議になったのかが理解できなかったが、氷見が出してくれた焼き菓子が思いの外美味しかったので気にしないことにした。

因みに、この会議は二宮がやってくるまで続いたらしい。朔は途中で退室したので、そのことを知る由もない。

























「…やはり近くないか」

「そうか?いつも通りだろ。

それより朔さん、オペレーターがどんな風に射撃地点を洗い出すのか教えてくれ」

「、ああ…そうだな」


こうもしれっと返されてしまうと、自分の感覚がおかしいのかと疑いたくなってしまう。

朔は、長い間相手をせず前例のようになってしまわないように、連日荒船の訓練に付き合っていた。
前回は援護射撃有りのシューターとの戦い方、今回はオペレーター視点でのスナイパー対策である。彼女の解説や考えを最後までしっかりと聞いた上で、自身の考察を含めた意見や疑問を述べてくるので、荒船は弟子の鏡と言えた。パーフェクトオールラウンダーを目指すだけあって、知識の吸収かつ活用に余念がない。

真剣に話を聞く様は、目標に向かって邁進するひたむきさが伺える。ここで朔が変に疑って勘ぐりすぎるのも、なにか失礼な気がした。

(夢中になって前のめりになりすぎたのかな)




―その考えが間違いであることに、彼女は気がつかない。
























人のざわめきが充満するラウンジのソファで、荒船は模擬戦をする隊員達の動きを観察するように眺めていた。モニター越しの光景から目を離さず、何か生かせる戦略を持つ者がいないか探す。しかしそういった人物がそうそう見つかるはずもない。不満そうに前のめりだった体を背もたれに預ける姿を見れば、それは一目瞭然だった。
その後懐から出したスマホを暫く触っていたが、ふいに顔を上げる。その視線の先には、緑川が歩いてきていた。


「緑川」

「おっ荒船先輩!模擬戦観戦ですか〜?」

「まあそんな所だ。大した収穫は無かったがな」

「うへえ…よくやるなあ…あっ?」

「?」


荒船が目的としていた事を知って苦い顔をした緑川は、何かを見つけたような声を上げる。不思議に思ってそちらを向けば、荒船の師匠がきょろきょろと辺りを見回しながらラウンジへと足を踏み入れていた。


「あっ荒船!ここにいたのか。緑川も一緒だったんだな」

「俺は今来たばかりだよー」

「朔さん、俺に何か用か」

「あ、そうだそうだ。隣失礼するよ」

促されるままに荒船の横へと座り、持参していた資料らしきものを捲りながら話し始める。そこに書かれている文章をのぞき込みながら、二人は会話を重ねていく。内容は戦闘理論に基づいたもので、まだ中学生である上にそういった話に微塵も興味が無かった緑川は、違うところに気が向いていた。


「…ねえ、」

「あ?」

「ん?どうした、緑川」

「いや…なんか朔さんさあ、荒船先輩とすごい近くない?」


そう、二人の間の距離である。

荒船が師匠に対してアプローチをかけているのは、余程鈍い人でなければ誰でも知っている事だ。しかし、今回緑川が驚いているのは荒船に対してではなく、朔の方であった。


「え?私は普通だと思うんだが…」

「いやいやいや。そんなはずないよ!こんなだよ?こんな!」


ずいっと顔を近づけてきた後輩に、気圧されたようにして朔は思わず仰け反る。
その顔と顔との距離はわずか拳一つ分くらいのものであり、誰かが彼の背中を押そうものならすぐにでもキスできてしまいそうな近さだ。この距離は、到底普通とは言い難かった。


「ち、近いな…」

「でしょ!?やっぱりおかしいって!!」

「いや、でも…うーん?
荒船、そんなに近いか……?」

「さあな」


そう曖昧に返した彼も事の中心人物であるのに、関わろうという気は全く見られない。緑川にその距離感のおかしさを指摘されても、猶首をひねる朔に対してそれ以上何も言わなかった。

近い、近くないと横で話す二人を、荒船は頬杖をつきながら眺める。


その口元には、笑みが浮かんでいた。






















籠絡される不落の城












* * * * * * * * * *




企画第四弾ということで、今回は荒船さんでしたー!お名前わかりませんが、リクエストありがとうございました!!書いてて楽しかったです。

高校生なのでもっと激情的にするか、それとも理論派らしく計画的に進めていくか…と書き始めは悩んだんですが、今回は後者を選びました。こんな高校生いないと思いますけどね!!
でも、ネイバーの襲撃があるかないか、というので大分環境は変わりますもんね。こんな環境下だったら居てもおかしくないかな、こんな高校生…。いるか……?

まあフィクションだからいいよね!!

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あきゅろす。
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