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二次創作/夢
溺れる熱帯魚(特別隊員番外編・If/忍田と付き合う/雪様)



その知らせはを聞いた者は、皆が皆驚愕した。



No.2アタッカーが手にしていたコーヒーを零したり、シスコン(シリアス)が壁にぶつかったり、大学生(笑)が餅を喉に詰まらせたり、帽子がトレードマークの高校生が鋭い瞳をぎらつかせてどこかへ歩き去ったり。

様々な者が実に多種多様な反応を示したが、その中でも一番に驚いているのは張の本人―…忍田真史その人であった。




「私が、朔と付き合う…………………!?」




自分のことなのに驚き過ぎである。























その日、朔は久々に忍田と沢村と三人でお茶をしていた。

彼等の関係はといえば、元々が上司部下であり戦闘面における師匠弟子である。そんじょそこらの輩とは比べるまでもなく、その仲は非常に近しいものであった。


「朔、最近は開発室に入り浸っているみたいだが…ちゃんと休暇はとっているのか」

「…とってま」

「せんね。
騙されないで下さい、朔は毎回こう言って逃げ出すんですから。今回はしっかりと調べましたよ!

でも、本部長も朔のこと言えた口じゃないですよ。二人とも休暇取らなさすぎです」


きっぱりと言い切られてしまった上にそれが図星だったので、朔は何も言えずに気まずそうな顔をした。また、部下を心配して注意したはずが、自分にも返ってきてしまった忍田も、同時に苦笑いを浮かべる。どうもこの二人は何かと似ているようであった。
仕事熱心研究熱心は結構だが、事務の方からいい加減に休めとの通達が二人には来ている。一つため息をついた沢村は、あきれ顔でこう言った。


「二人には休んでもらいます、けど!放っておいたら仕事をしかねないので、休日には共に過ごして互いを監視すること!!以上!!

何か異論は?」


ある、と言えない似たもの同士は、力無く頷いた。























「…する事が無いのも困りものですね」

「全くだ…」


休暇といっても特に何もする事が無い二人は、結局忍田の執務室に腰を落ち着けていた。朔はコーヒーを注いだカップを自分と忍田の前に置き、彼の横へと腰を下ろす。二人分の重さをソファのスプリングが押し返し、小さく音を立てて軋んだ。二人の距離は肩が触れ合うくらいに近い。


「…近くないか」

「そうですか?風間とはいつもこれくらいですよ」


何でもないように返した朔に、忍田は眉をひそめた。余りにも危機感のない言葉とその態度は、隙だらけである。

―ふと、ここで邪な考えが彼の頭をよぎった。

二人きりの室内、近い距離、妙齢の交際相手の居ない男女。普通ならこの状況下にあれば、誰だってそういう雰囲気になることを想像するだろう。

ほんの少しの本心とちょっとした悪戯心が、彼の行動を後押しした。


「悪い子だ…そんな風に風間の事も誘惑してたのか?」

「、!?」

「覚えておきなさい。こういう状況に置かれた時、男ならまず手を出す…こんな風にな」


狼狽える朔の手からカップを取り上げて机に置くと、ソファの背もたれに手をついて顔を近づけた。端から見れば覆い被さるような体勢な為、彼女の顔に自分から伸びる影がかかる。
そこでようやく現状を理解したのか、朔はその頬を赤く染めて視線を彷徨かせた。近付いてくる師匠の体をなんとか止めようと腕で突っぱねる姿からは、どこか必死さが伺える。

そんな抵抗も容易く抑えつけてしまえば、二人の力量差は歴然としていた。忍田は、自分より幾分か小さな白い手に指を絡ませて、その甲に唇を落とす。羞恥と驚きに満ちた悲鳴が落ちてきた時、その反応が面白くなって喉で笑い、その色付いた頬にも口付けをした。

それを最後に、パッと身を離す。
自分の欲望の赴くままに事を進めてしまった感が否めないが、これでこの状況の危なさが分かっただろう。


「これに懲りたら、あまり男との距離を見誤らないことだ」

「…っ、し、忍田さん」

「これから気をつけ……朔?」


体勢を直して冷めかけているコーヒーを口に運んでいると、何やら部下の様子がおかしい。どうしたのかと思って横を向いてみると、顔どころか耳や首まで真っ赤になった朔が肘掛けの辺りに寄りかかっていた。…どうやら、腰が抜けたようである。
ここまで男に迫られることに免疫が無いとは思わなかったため、忍田はその顔を驚きに染めた。


「…ど、どうしてくれるんですか…っこんなの、恋人にする事でしょう…!」


冷静さを欠いた言い方は、どこか幼くて可愛らしい。涙の光るその瞳に恨めしげに見つめられて、彼は体を強張らせる。少なからず抱いていた度の過ぎた好意が起き上がるのを感じながら、忍田は口を開いた。


「、私が―…」























「…で、責任取るために付き合うって仰ったんですか?
そこにちゃんと朔に対する愛情はあるんですか?恋愛感情の方です。親愛とか言ったらぶっ飛ばしますから。確かにあの子は色々と引き寄せる不純物ホイホイの癖して危機感が人一倍無いですから心配ですけども…。

本当に!朔の事が好きだって言うなら!仕方ないですけど、認めますよ。本部長、大切にしてあげて下さいね。

…万が一泣かせたら私から手痛い報復が待っておりますので悪しからず」


自室で休んでいた忍田は、長々と沢村に言われた忠告を思い出していた。今思い返してみると、中々に恐ろしい内容である。特に最後が。交際の始まりが始まりであっただけに疑われるのも仕方がないが、この想いは本物である。

(まあ、釣り合うものではないと思っていたから隠し通すつもりだったんだがな)
だから、この現状は嬉しい誤算だった。動揺しながらも、好機を逃さずに交際を持ちかけて良かったと思う。


「…しのださん?どうしたんですか」

「ああ、何でもない…
朔、私の名前は?」

「………ま、まさふみ、さん」


微睡みの底から帰ってきたのか、朔が舌っ足らずな様子でもたれ掛かっていた相手を呼ぶ。可愛らしい恋人の言葉に頬をゆるめながら忍田が訂正を加えると、照れながらも結局は言う通りにする所も愛しいものである。
柔らかく指通りのいい髪を撫でて後頭部に手を添えると、何をするのか理解した朔は目元を赤く染めた。恥ずかしそうにしながら忍田の服の裾を掴み、その瞬間を待って彼の瞳を見つめる。熱に浮かされたような眼差しに溶けてしまいそうだ、と彼は思った。


ああ、此処まで夢中になってしまえば、手放すことなど考えられない。




「―…悪い子だな、朔」






















溺れる熱帯魚










* * * * * * * * *

第二弾は雪様のリクエストでした。忍田さん書いてると「これでいいのか」という疑念が湧いてきてきりがありません。こんな思いにされるなんてまじ忍田さんギルティ。


まだよくワートリを知らなかったとき、ザッと全体を読んで誰が好き?と姉に聞かれて思い浮かんだのが忍田さんでしたね。

「えっと…ほら、あの黒い服の…あー…なんだったか」

「え?太刀川さん?」

「ちがうよあんな不審者じゃなくて…
あっそうだそうだ背景に虎が出現してた一番強い人!!」

「忍田さんな?名前覚えろ?」

みたいな会話してました。名前覚えてなくて正直申し訳なかった。実を言うと忍田さんより背景の虎の方がインパクト強かった。


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あきゅろす。
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