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二次創作/夢
そして終わるモラトリアム (特別隊員番外編・If/風間とデート/ナギ様)




「………」

「……何か言ってくれないと困るぞ、風間…」


―其処はボーダー本部のエントランス。

目の前には普段着ないような女らしい服装で恥ずかしそうに佇んでいる昔馴染み。どうやら薄く化粧もしているようだ。
そしてその後ろには身振り手振りでエールを送ってくる自隊の隊員たち。
人が持ちうる鈍さに輪をかけて鈍い、と言われている朔と(たとえ相手に正しく認識されていなくても)デートをする機会が来ようとは…。

何か感慨深いものが胸にこみ上げてきたが、今日はまだこれからが本番である。風間は注目を浴びている彼女の腕を引き、見せつけるように体を寄せた。
途端にざわめく周囲に優越感を覚えながら、彼は優しく微笑む。


「似合ってる。

―デート、行くぞ」


























事の始まりは、煮え切らない二人の仲にしびれを切らした風間隊の隊員たちが行動を起こしたところからだ。特に、隊の中で一番二人が付き合ってほしいと考えているオペレーター―三上歌歩が、声高にこう言ったのだった。

―こうなったら、無理にでも意識させるべきですよ!!

風間と朔の距離感は、二人を見て本当に親しいんだな、と誰もが感じるようなものである。しかし、そこから先には全くと言っていいほど何も進展がないのだ。是が非でも恋人同士になってほしいと思う彼女が立ち上がるのも、当然の事と言えた。
そしてそれに乗っかったのが菊地原士郎と歌川遼の両名である。風間と同じくセコムのメンバーとしてその名を連ねている二人だったが、彼らもまた縮まらない距離感にやきもきしていたのでここぞとばかりに三人で作戦を立て始めたのだ。そして風間に腹をくくるよう促し、朔を言葉巧みに言いくるめ、今日のデートへと漕ぎ着けたのである。


着慣れない服に落ち着かない様子でいる朔も、恥ずかしそうにするだけで満更でもなさそうであるし、風間に至っては(隊員からすれば)非常に機嫌が良く見える。
わざわざ「ボーダー本部のエントランスで待ち合わせ」と指定したのも、我等が隊長がその意を汲んでくれたので周りへの牽制はバッチリだった。そのあたりも抜かりはない。


(頑張って下さい、隊長…!!)


熱いエールを眼差しに乗せ、彼等は寄り添って歩いていく二人を見送るのだった。


























「…!!」

「お前、確かこういう所好きだっただろう。気に入ったか」

「すごいな風間、私の好みぴったりだ…!」


風間の誘導によってやってきたのは、可愛らしい海中動物が悠々と泳ぐ水族館だった。毛皮を持つ動物はアレルギーの可能性があったので、朔は昔から動物といえばペンギンやアザラシが好きだったのである。普段は見られない服装で瞳を輝かせる朔の姿は、風間の目にいつもの倍は可愛らしく映った。

ペンギンが列をなしてよちよちと歩く様を食い入るように見つめる彼女を、風間は横目で見やる。自分が視線を送っていることにも気付かず夢中になっている様子には、いつもの表情の固さは見受けられなかった。そんな昔馴染みに、思わず彼も口元を緩める。傍目から見れば、彼らは完全なるカップルであった。

その後、同じ位置から動かない朔に付き合って風間は暫く横に立っていた…のだが。

ペンギンと自分たちを隔てるガラスに手を置いて柔らかい顔をしている朔は可愛いが、如何せんその眺める時間が長い。いい加減しびれを切らした彼は次の場所へ移動しようと促すも、相方はまだまだ見足りないようである。言っても聞かないようだと悟った風間は、おもむろに朔の手を絡めとってイルカの水槽まで連れて行くことにした。


「あ、ペンギン…」

「また後で戻ってくればいいだろう。
あちらの水槽にイルカとアザラシがいるみたいだぞ」


後ろ髪引かれる思いの朔は、ごく自然に手を繋がれたことに特に反応するでもなく何度も振り返っている。それを良いことに、風間がその繋いだ手を恋人繋ぎにしていたことに、彼女は当分気づかないのであった。

























午前中から水族館を見て回り、昼を済ませてまた館内全体を回った頃にはもう日は傾いていた。
二人は水族館を後にし、帰路を辿っていく。途中で小さな公園を見つけた彼らは、設置されていたベンチに座った。


「ああ楽しかった…!つれてきてくれてありがとう、風間!!」


大好きな動物を存分に眺め尽くして満足したのか、その白い頬を紅潮させて朔はそう言った。今日ばかりは気の知れた人と二人で出かけたという事もあってか、その表情筋も緩いものである。常時の凛とした雰囲気はどこへいったのか、へにゃりとした溶けそうな笑みを彼女は浮かべていた。


「デートだからな、おまえが楽しまなければ意味がないだろう」

「ふふ、そうだな。

…しかし、私とで良かったのか?風間」

「、は?」


柔らかい表情から一変し、途端に不安そうな顔をした朔に、風間は思わず素っ頓狂な声を上げた。

―デートという認識を彼女がしていただけで奇跡と言いたい気分だったが、この問いかけは余りにも…。

中学高校大学…と長い時を共に過ごしておいて、まだ彼女は自分という人間を理解しきっていないようである。風間蒼也という人物は、基本不必要だったり邪魔だと思うものはばっさりと迷うことなく切り捨てる男だ。そんな自分が執着するだけでも珍しいというのに、わざわざ二人で出かけようと言った意味すら理解していないのか。

風間は深い深いため息をついて、重い口を開いた。


「…気づかないのか。

俺はなんとも思っていないような奴と二人で出かけたりしない。手を繋いだりもしない」


驚いたように目を丸めた朔を見ながら、猶も言葉を続ける。その間にさりげなく距離を詰め、その色付いた頬に掛かる髪の毛を梳いた。


「こんな風に触れることをするのは、お前くらいだ……朔」


風間がぐっと身を乗り出したためその距離は小さなものとなる。互いに同じくらいの目線だからか、二人の瞳は真正面から重なり合った。その真剣さを潜めた光に息をのんだ朔は、同時に体の体温が急激に上がるのを感じる。どうしようもなく熱くて、この現状から逃げ出したくて、彼女は震える唇を開いた。


「か、かざま…っ」

「―…蒼也、だ」


口に出した言葉が間違いだったのか、それとも何を言おうとも同じだったのか。朔がその震える声を出したのと同時に、風間は彼女の華奢な体を引き寄せる。

迫り来る、真剣で、でもどこか熱に浮かされたような表情の彼をぼんやりと眺めながら、朔は思った。




―ああ、逃げられない。




その唇が触れ合う瞬間、彼女は観念したように目を閉じる。男は、それを見て満足そうに笑った。





















そして終わるモラトリアム






* * * * * * * *



企画第一弾、ということで…真っ先にリクエストを下さったナギ様から消化させていただきましたー!いつも拍手ありがとうございます!楽しく拝見させて頂いております!!


本編が群がるハイエナ共に常に狙われているだけあって、お陰様で風間さんのこういう話はお初でございます。今までセコムの座に甘んじていた彼が遂にその自制心を打ち破ったと言うべきですかね。

恐らくこの後、ボーダー本部は揺れに揺れます。
素直に祝ってくれる人は風間隊の人々、忍田本部長と補佐(風間だから許したのもある)、佐鳥…くらいですかね……少ないwwなんて事だwwwww
まあ他の人は大体違う人と主人公をくっつけさせようとしているか、もしくは自分が狙っているかの二択ですね。風間と交際しててもガンガン来る奴は絶対に来る。虎視眈々と。

え?誰かって…?まあ色々だよね。




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