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二次創作/夢
孤独とは周囲に何も存在しない事を言う。だから私は知っている、この世に孤独など在りはしないという事を。




「有り体に言ってしまえば、私は生まれてすぐ戦争孤児となった。まあ両親と親しかった現地のある老夫婦に私は引き取られたから、ひもじい思いは周りと比べてしていなかっただろう。なんせ、生まれて暫くしてから栄養失調で亡くなるケースも少なくなかったからね」



朔は再び画面を操作し、今度はヨーロッパへと地図を移動させた。そこにも先程同様に赤い点が数個点在している。そのうちの一つを指差して、彼女は続けた。


「十歳くらいかな。
紛争が激化するのに堪えきれなくなった老夫婦に、私は両親の残した莫大な遺産を使ってヨーロッパへ移住することを進めた。実は、この夫婦は難病を患っていてな。治療のためにも違う地へ移ろうという話は上がっていたんだ」



そして、今度は指さしていた点から次の点へ、ヨーロッパの西側へと移動させていく。最終的にその指が止まったのは、イギリスだった。



「ここでね、私は今まで過ごしてきた土地全ての水質調査の結果をユースの国際科学コンクールに提出したんだ。残念ながら賞は貰えなかったが、ここで私に声を掛けてくれた科学者がいた。まあ師匠、と表現しておこう」



何故水質調査をしていたのか、わざわざイギリスまで移動した訳はなにか、疑問に思ったことを目で問いかけてくる彼等に向かって笑いかけ、朔は一息ついた。



「師匠はいらなくなった研究資料や開発サンプルを、十歳過ぎの子供にまあそれはたくさん与えてくれたものさ。知識に関して貪欲だった私は、一心不乱に読み漁っては実験を繰り返したよ。師匠が一年後のコンクールでもう一度水質調査に関する何かを発表しろって言うもんだから、余計必死だったかもね。
で、知識も技術も身につけた私が発表に使ったのは実際の発明品だった。どんなに泥と混ざっていようが、綺麗な飲み水に出来る技術を使った物さ…有り難いことに金賞を貰ったよ。最年少で実用品まで開発したとなって、どうも話題性に富んでいたらしい。それを求める人が多く居たよ。

ま、私が一番最初にその品を届けたのは私の生まれた土地だけどね」



驚きの経歴に、佐鳥に至っては口を開けて呆けたままだ。そんな先輩を、木虎は容赦なく叩いていたが…。そんな隊員たちを横目に、綾辻がふいに口を開いた。



「じゃあ、ご両親の遺産とその師匠という方の知識的なバックアップでなし得た開発だったんですね…。
もしかして、その水質調査はこの紛争地帯に居た時から?」


「そういうことだな。私が居た所は、特にその水を飲めば死に至るケースが多かったんだ。それが不思議でたまらなくて、拙いながらも調査をしてたんだ。

とまあこんな風に私の研究と開発の日々が始まったわけだ。フリースクールに行くのさえ面倒だったから、先に大学試験を受けさせてもらったり…色々あったな。大学の研究室をほぼ私室化したり…まあこれは置いておこう。
私は始まりがこうだったから、なにも固定された分野だけを研究するわけじゃなかったのさ。他にも珍しい植物を枯らさない育て方とか、燃えにくい素材の繊維の開発とか…とりあえず興味を持ったものは全部だな」


「そんなに沢山のことを研究したんですか…すごいですね。色々と」


「おや、ありがとう時枝くん。
で、私の持つ財産はといえばなんだが。その研究の結果出来ただけの物が、どうやらよく売れるらしくてな…

そうだな、年間二億はくだらないよ」


「えっ」


「二億!!!??」



思わず反応した木虎の横で、先程叩かれた場所を気にしていた佐鳥は素っ頓狂な声を上げた。他の三人も、声を出さずにというよりは、絶句するほど驚いている。
そんな嵐山隊の面々を見渡して、朔は今までで一番楽しそうにに笑った。



「企業や大学が欲しがってくれる物も多く作ったからな。契約金がそれに伴って大きくなるのさ。

…さて、説明はこれくらいかな?木虎さん、満足したかい」


「はっ、はい!
あの…話し難いことまで、ありがとうございました」


「ふふ、最初にも言ったろう?どうせ知りたがる奴が居れば話すつもりだったのさ、気にすることはない。
…ああ、でもこのまま知り合いで終わるには惜しいな。用が無くても、いつでも遊びに来るといい。茶菓子でも用意して待ってるよ」


「えっ、あ…ありがとうございます!」


「えー!岸川さん、俺は!?俺は駄目ですか!!?」


「いーや、皆歓迎するよ。好きな時においで、佐鳥くん」



諸手をあげて喜ぶ佐鳥を見て笑いながら、嵐山がソファから腰を上げた。それに伴って、他の隊員も少し遅れて立ち上がる。どうやらお帰りのようだ、と察した朔は、片手で画面を消しながら自分も立ち上がった。彼等を見送るために、彼女も扉をくぐる。



「ああ、トリガーの調子がおかしい場合も来てくれてかまわないよ。君達は広報で忙しいから碌に点検にも出せないだろう?」


「おお、それは有り難いな!じゃあ今度頼んでも良いか?」


「おやすいご用さ」


「岸川さん!佐鳥は知り合い連れてきても良いですか!?」


「歓迎するよ、1人だといささかこの部屋は広いからね。

じゃあ、根付さんによろしく伝えておいてくれ。投資は来月も同額の予定だよ」




にこやかに手を振り、嵐山隊の面々を見送った。曲がり角の向こうに彼等が見えなくなってから、朔はきびすを返して扉を開ける。先程までとは様子を変えて静寂が満ちる部屋に、彼女は足を踏み入れた。






























「疑問を解消する事は、自分を進化させる事だ。
進化というとなにやら大層な言葉に聞こえてしまうかもしれないが、これが一番的を射ている表現なのでね…我慢願いたい。

まあ単純明快な話だね。
疑問を持つという事は、一種のフラストレーションが溜まっている事を言う。これを人に聞くなり、自分で調べるなりして解消すると、脳はその疑問解消の知識と共に快感を覚える。これが記憶に焼き付いて定着するんだな。自分が強い興味を持つ事なら猶の事。そして、この行為を繰り返すことによってその知識は薄い層から厚みを持った立派な地層へと変貌する。だから進化と言うのさ。納得しただろう?」



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