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二次創作/夢
生きる、その為に努力せねばならない者としなくてもよい者に人は二分される。ではその違いとは何か。それは生まれ落ちた環境、ただそれだけである。




シュッ、と電動の扉が開く気配を感じて、朔はキーボードの上で忙しなく動いている手を止めずに顔を上げた。



「おや、来客か…おっと。これはまた大人数のようだ」


「突然お邪魔して申し訳ない。俺達は広報を担当している嵐山隊の者です」


「…OK、理解した。
君達にここへ足を運ぶよう進言したのは根付さんだね?」



赤い隊服が特徴の彼等が揃って特別開発室に訪れたことに驚くでもなく、朔は会話と並行して続けていた手の動きをより速め、エンターキーを押して画面を閉じた。



「すいません、お邪魔でしたか?」


「なに、気にすることはない。会話していようがいまいが出来る作業をしていたのでな…それも今終了したが。
さ、そこのソファにでも座ってくれ。コーヒーでも用意するとしよう」


「ありがとうございます」


「ところで…隊長さん、君はいくつかな?
私はこの間二十歳になったばかりでね。もしかすると年が近いのではないかと思ったのだが…敬語を使われると背中がかゆい。できればはずしていただきたいものだ」


「そうか?じゃあ遠慮なくそうしよう!
俺は嵐山准、この隊の隊長を務めている。で、こっちの女の子が」


「木虎藍です。嵐山隊オールラウンダーです」


「じゃあ自分も…。
時枝充、同じく嵐山隊オールラウンダーです」


「次俺か!俺は嵐山隊のスナイパー、佐鳥賢です!ツインスナイプでおなじみですよ〜」


「最後は私ですね。嵐山隊のオペレーターを務めている、綾辻遥です」


「ご丁寧にどうもありがとう。
私はこの特別開発室の責任者兼スポンサーである岸川朔だ。よろしくたのむよ」



そう言ってコーヒーの入ったカップをそれぞれの前に置き、朔もまた彼等の向かいのソファに座った。自分のカップを持ち上げて、彼女は前へちらりと視線をやる。



「そう身構えなくていい。
資金繰りについて話に来たんだろうが、私はあの額を変えるつもりはないから安心してくれ」


「いや、問題はそっちではなくてだな。岸川さんが投資してくれた金額があまりにも大きくて、根付さんが仰天していてな。急遽、挨拶と礼を言うように言われたんだ」


「…成る程。そういう事か」


「改めて、今回の投資に感謝する。我々広報にここまで回してくれるスポンサーは中々居ないからな!」


「役に立ったなら何より…と言いたいところだが。そこの、…ああそう、木虎さんだったね。質問なら何でも受け付けよう」



突然話を振られた少女は一瞬焦りをにじませたが、それよりもある疑問が彼女の中で勝ったのだろう。促されるがままに、その口を開いた。



「…先程言っていたように、貴方はまだ隊長と大した年齢差は無いですよね。何故そこまで大きなお金を動かせるんですか?」


「そうだね、君達全員が少なくともそう思っているだろう事は私も理解している。
隠し立てすることでもないから、教えてあげよう。他に漏れても困りはしないしね」



そう何でもないことのように言ってのけた朔は、中身を飲み干して空になったカップを机の上に置き、おもむろに机を二回タップした。
すると、机の天板を画面として、世界地図が映し出される。その地図上には幾つか赤い点が印のように浮かび上がっていた。



「これは…!!すごいな岸川さん、どうやってこんな風に?」


「そろそろ荒船くんとか迅くんから話を聞いた誰かしらが来るだろうと予想してたから、君達が使用しているマップを世界規模に発展させたのをつい先程完成させたのさ。これがあれば、私について説明しやすいからね。

ま、予想は外れて根付さんからの差し金だったが」


「荒船さんとかも気になるけど…先程ってことはつまり…?」


「えっ!!?ちょっと待ってよとっきー、それって」


「ん、君達が此処に入ってきた時だね」



その言葉に唖然としている顔を見て可笑しそうに笑った彼女は、モニターとなった机をもう一度タップした。
今度は、宗派の違いによって激しい紛争が繰り広げられている、中東のある地域がアップになる。其処には赤い点が印されており、横に小さく「birth」と書いてあった。



「此処が、私の生まれた場所さ。

―私は紛争中、国連の職員だった両親がこの場所で活動している時に誕生した」




























「他の人がどう思うかは知らないが、確かに私はこの世の地獄という地獄を見てきたのだろうよ。詳細は語らないでおこう、これはおいそれと話して良いものではないからね。しかし、他人の言うその地獄とやらを見てきた私は、今見てどうだ。悲しそうか?苦しそうか?見えないだろう、なぜなら実際そうではないからな。

確かにあの紛争は見るに堪えないものがあったよ。今でも目に焼き付いている。私は何も力を持たなかったからな、その時私は初めて力に興味を抱いた。もちろん、傷つける方ではなく人々にとって救いになる方だ。

私は考えることを武器にした。見て、感じて、その結果得られる知識を武器にした。こうして私は生きてきたのさ。そんなに軽い問題かって?軽いわけがあるか、そりゃあ死に物狂いだったよ。

耳に痛いかもしれないが、努力が無ければ何も生まれまいよ。私はこう見えて人様に公言出来るほど努力していた…ただそれだけの話さ」





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あきゅろす。
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