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二次創作/夢
導きの星(三輪兄)




「しゅーじ、お疲れさん」

「…兄さん」

「おーっ朔さん!こんちは〜」

「やあ米屋くん。今日も元気そうだね」


米屋と共に校門をくぐってすぐ、三輪は足を止めた。いつものように穏やかな面持ちでそこに佇んでいた人物は、紛れもなく自分の兄だったからだ。


「ボーダーは…」

「今日は珍しく休みなんだ。鬼怒田さんが有給たまってるから使えって五月蝿くてさー」


自分の後を追うようにボーダーへ入ると言った兄には、戦闘員としての能力はなかった。しかし、その頭の良さと発想の柔軟性を買われて、現在は本部所属のエンジニアとして勤めている。


「母さんが今日しゅーじも非番だって言ってたからさ。買い物二人で行こうと思ったんだけど」


言葉を区切るように口を閉ざし、兄は自分の横にいる米屋へと目を向けた。


「米屋くんがいるなら、俺は退散しよっかな」

「いやいや!わざわざここまで来たのに帰ること無いじゃないっすかー!!
俺はいつも秀次と一緒なんで気にしなくて良いですよ?」

「オイ、陽介…」


止める間もなく、じゃ後は兄弟二人で!!と言って去っていく米屋の背を恨みがましい目で見つめる。深い溜め息をつき、困った笑みを浮かべている兄の方へ振り返った。


「…どこに行けばいいんだ」

「…いいの?」

「良いからさっさと言え」


あからさまに不機嫌な顔をして応えても、朔の顔は不思議と明るい。嬉しそうに声を弾ませて、母さんから買い物頼まれたから、スーパーに行こう!と言う兄を横目に、三輪はもう一度、今度は小さな溜め息をついた。



























久しぶりに家族全員で食卓を囲んだ後、三輪は風呂から上がって自室のベッドに横たわっていた。しかし、布団の上を転がるだけで、その目の下には濃い隈が存在を主張している。あの黒トリガー争奪戦から、ろくに眠れていないのだ。

ふいに扉を叩く音がする。母や父はノックなどしないので、その音の正体はすぐにわかった。


「……なんだ、兄さん」

「あ、しゅーじ?まだ起きてたのか」


返事を入室の許可ととったのか、そのまま室内へと兄が入ってくる。彼もまた風呂上がりだったのか、タオルを肩に掛けていた。用件を促すように視線を投げかけると、うっすらと笑った顔で朔は口を開く。


「最近、しゅーじ眠れてないんだろ?今日もそうなのかと思ってな」

「…………兄さんには、関係ない」

「うん。俺には関係ないね」


自分の領域に踏み込まれたくなくて、三輪は憎まれ口を叩いた。それでも兄は、にこにこと柔和な笑みを浮かべている。





―兄は、昔から苦手だ。

幼い頃の話だ。
自分が姉にくっついて行動したがるように、彼もまた自分と共に居ることを好んでいるようだった。姉の関心が彼に向くのが嫌で、ひどい態度をとった。まとわりつくまではいかなくても、逐一話しかけられるのが気にくわなかった。だから、よく無視をした。
それでも兄は、穏やかな笑みで自分の言ったことを全て肯定するのだ。まるでそれが全て正しく、それ以上の正解は無い、と言わんばかりに。

言い過ぎたとわかっていてもその言葉を撤回する気になれないのは、少なからず彼のそんな態度のせいだった。兄は、弟から繰り出される罵詈雑言の数々をひどく優しく受け止めて笑う。
何故、兄はこんなにも受容的で柔らかい人なのか…それがいつも不思議でならない。加えて、にこにこ、にこにこと笑みを絶やさない所も不可解だった。


故に、三輪は兄が苦手で仕方がなかった。







「とりあえず目閉じてみ、しゅーじ」

「いい、放っておいてくれ」

「良いから良いから〜」


無理やり布団を被せられ、目を閉じるように促される。
普段ならこんなに強引に事を進めないのに、これは一体どういうことだろうか。
ベッドの脇に屈んでいる兄を見ると、いつものように微笑んではいるものの、どこか有無を言わせない雰囲気を纏っている。逃げられないことを悟った三輪は、冴えている目を閉じた。

暫くそうしていると、横の気配が身じろぐのを感じる。疑問に思ったその時、瞼の上に温かな何かがやんわりと乗せられた。どうやら、兄が手を上に被せているらしい。


「何を…」

「しゅーじ」


名前を呼ばれた後、懐かしいメロディが耳をくすぐった。それは、そう、幼い時に聴いた―…



(……姉さんがよく歌っていた、やつだ)



あの時のように、高く柔らかなソプラノではない。しかし、緩やかに口ずさむような歌い方は、昔聴いたそれと同じだった。







閉じた瞼の裏に、幼い自分と姉が映る。
襲い来る強烈な眠気は、暖かな記憶への入り口だった。導かれるままに身を委ねて、沈んでいく。







朔が手を離して歌うのをやめた時には、彼は深い深い幸せの中だった。






――だから、彼には聞こえていない。

去り際に兄が落としたひどく小さな音は、扉を閉める音と共に霧散した。





























「ごめんな、秀次」































導きの星

(舟人は、その星を目印に海を渡ったそうだ)












* * * * * * * *



恐らく、タイトルの意味は続きで分かります。
長編がギャグ()だから、話を考えるとシリアスになる私の限界が来たので短編を設置しました。まじ勉強しろ。





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