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二次創作/夢
特別隊員の受難―追う肉食獣、眠れる肉食獣編―



風間助けて。



「なあいいだろ…ヤろうぜ、朔さん」

「いや、荒船…(ちっ…かくないか!?)」


訓練ついでに試作トリガーつかって仮想トリオン兵おびき寄せてたらなんか違うのも寄ってきた。高校生のくせしてフェロモンたっぷりで非常に怖いです。


























風間隊が防衛任務にあたっているとき、大抵朔は彼らの帰りを待つついでに訓練室へ籠もっている。この日も変わらず一人で訓練していた朔は、休憩のために外へ出たところで一人の人物と出会った。


「おーいたいた、岸川」

「冬島さん」


どうしたのか尋ねてみると、かねてより作成していた、朔のトリオンを使ったトリオン兵をおびき寄せるトリガーの試作品が完成したという事だった。


「出来たんですか…!」

「そうそう。で、訓練してるって聞いたからさ。ついでに」

「私が使ってみろ、と?」


その申し出は正直ありがたい。この公害にもなりうるトリオンが役に立つのなら、と開発室に出入りしていた末の成果を自分で確かめられるのだから。


「分かりました、一応データにも残ると思いますが…後で報告に向かいます。報告はどちらに?」

「直属の上司でいいよ。会議でも話し合うらしいから」


じゃあ宜しく、とその試作トリガーを渡して去っていく冬島を見送り、意気揚々と訓練室へと戻る。

(仮想トリオン兵を十体に設定して、…まずは何匹おびき寄せられてくれるか)

閉じていた目をゆっくりと開いて、深呼吸を一回、二回…


「―さ、始めよう」


























結果は上々。
十体中九体はこのトラップに引っかかり、朔のスコーピオンの餌食となった。残り一体は食いつきはしなかったものの、トラップの近くを徘徊していたので少なくとも効果はあったに違いない。

この成果に満足した朔は、喜色を顔全体に滲ませて訓練室を出た。今まで散々な効果しかもたらしてこなかったトリオンだが、今回ばかりはボーダー全体に良いことを与えてくれそうだ。トラップの数が増えるということは、すなわちその数だけ戦略が多彩さを増すということである。これからは朔自身が囮になってトリオン兵を引きつける、というやり方も減りそうだ。

ほくほくとした気持ちで、さて飲み物でも買いに行こうと踏みだした朔の頬に、突然冷たいものが押し当てられた。


「っ!?」

「よ、朔さん」


振り返ると、缶コーヒーを持った後輩―荒船がそこに立っていた。私服にキャップ帽を被っているスタイルで、口元には不敵な笑みが浮かんでいる。


「…荒船、驚かさないでくれないか」

「“常時気を抜くな”って前に本部長に言われてませんでしたっけ?」


確かに言われたがそれとこれとは別である。何故戦っていないときでさえ気を張っていなければならないのか…。
不服そうな朔の視線をものともせず、荒船は缶コーヒーを差し出しながらなお笑っていた。


「お疲れ様です。見てたぜ、さっきの」

「いつから居たんだ?」


飲み物を欲していたのは確かなので有り難く缶のプルタブを開けてコーヒーを口に含む。
試作トリガーを使う所を見られるのは一向にかまわないのだが、一体いつから其処にいたのかが気になる。朔は、同じようにコーヒーを飲む後輩に目をやった。


「あーまあ割と最初の方ですかね」

「そうか。前から試行錯誤していたものがやっと完成したからな…訓練ついでに性能を試していたんだ」

「例のトリオン使って、ってやつっすか」

「うん、そうだよ」


トリオン体だから疲労は感じないはずだが、喉を滑り落ちていく液体の冷たさが疲れを癒していくようだ。冷ややかなそれが腹に満ちていくのを感じながら缶を空にすると、横から視線を感じた。


「どうした?」

「…なぁ、最近アンタ付き合い悪いよな」

「は、」


最近、といえば確かに前は誰かしらとやっていた訓練をやっていなかったかもしれない。荒船に関して考えてみれば、一体いつからそういう事をしていなかったか。思い出すのも危ぶまれる程だ。
アタッカー寄りのオールラウンダーであることから、パーフェクトオールラウンダーを目指す彼が声を掛けてきたのは彼女が表にでてからすぐである。周りよりも懐いてくれている自覚はあったので、朔は後輩はもしかして拗ねているのでは、と考えた。


「すまない荒船、埋め合わせは必ず…」

「嫌だね」


謝罪をして訓練の約束を取り付けようとすると、鋭い声で遮られる。思わず言葉を詰まらせた朔は、そこで初めて互いの距離が触れ合えるほどに近いことに気がついた。しかも、自分の後ろは壁である。完璧に退路を失っていた。


「ほったらかしにしたことを申し訳なく思ってんなら、俺に付き合ってくれんだろ?朔さん」


ギラリと光る鋭い眼差しが、朔を突き刺す。獲物を狩ろうとする肉食獣を前にした草食動物の気分になった朔は、その視線から逃げるように顔を逸らした。それさえも気に入らないと言わんばかりに、荒船は少し屈んで朔の耳の横に顔を寄せ、囁くように続ける。


「そのトリオンは確かに色々惹きつけんだろうな。今まではその匂いにつられないようにしてたが…今日はあえて乗らせてもらうぜ」

「っ、」

「なあいいだろ…ヤろうぜ、朔さん

撃って、走って、見つかったら迎え撃つ…最高じゃねえか」


耳に時折触れる唇は朔の肩を震わせ、注ぎ込まれる音は頭を痺れさせる。嵐山の時もそうだったが、未だかつて恋人など居たことのない彼女は、滅法こういう雰囲気に弱かった。瞳は潤み、頬は上気している。


「お預けした分、纏めてきっちり払ってくれんだろ…?」


遂に耳をやんわりと噛まれ、ついでにいやらしく頬を撫でられてしまっては、朔はもう観念するしかなかった。
ギュッと目をつむり、何とか言葉を絞り出す。


「わ、かった…っ分かったから、心臓に悪いことはやめてくれ…!!」


その言葉に満足そうな顔をした荒船は、朔から少し体を離した。首まで赤くなっている朔の姿を見て後輩が零した言葉は、彼女は聞かないことにした。


「…その風間さんみたいな喋り方も気にくわないが…まあそれは追々だな」


さあやるぞ、とすぐ側の訓練室へと自分を引きずり込む後輩に対し、今からやるのか、という抗議をする気にもなれない。
可愛い後輩は定期的に可愛がった方が良いらしい。長期間放置すると、結局は自分に被害が返ってくるだけなのだ。

これからはじまる模擬戦ラッシュを予想して、朔は遠い目をした。





























約三時間後。
やっと休憩を許された朔は、心身共に疲れ果てていた。確かに荒船との訓練は楽しいし、得るものも多い。しかし、多彩な戦略を互いに持つ故に、頭を半端なく使うのだ。三時間もやれば、疲れないはずはなかった。
ハア、と溜め息をつきながら風間隊隊室へと早足で向かう。もうこれ以上続けたくなかったので、朔は駆け込み寺へ逃げることを選んだのだった。

隊室まで後わずか、というところで、何やら慌ただしい足音がする。まさか…と耳を澄ませてみれば、案の定自分を探す後輩の声がした。


「朔さん、どこだ…!!」


あの声と荒い足音からして、間違いなく怒っているのだろう。三時間もやったのにまだ足りないのか…と朔は辟易とした気分になる。しかし、そんな悠長なことを考えている内にその気配は確実に近付いてきていた。

どうしよう、と考えたその時―…。

「こっちだ、岸川さん」


聞き覚えのある声が耳に入った途端、曲がり角からのびてきた腕にとらえられる。驚いて声を出しそうになった朔の口を、大きな手が塞いだ。


「(静かにしてて下さいね)」

「(村上!)」

角へと引きずり込んだ相手を見上げれば、そこには村上がいた。どうやら、荒船から助けてくれるらしい。
言うとおりに静かにして身を縮こまらせていると、すぐ近くの通路を舌打ちしながら例の後輩が通り過ぎていく。


「チッ…風間さんのとこかと思ったんだが…」


先読みされていたことに気がつき、朔は内心青ざめた。
村上が助けてくれなければどうなっていたことか…。
一時しのぎとはいえ、彼女は側にいた後輩に多大な感謝をした。足音が遠ざかって完全に聞こえなくなってから、詰めていた息を吐き出す。


「はああ…
助かったよ、村上…ありがとう……」

「いえ、大丈夫でしたか…と言いたいところですが。荒船はなんであんなに?」


村上の口から出た至極当然の疑問に、朔は苦い顔をした。そんな彼女を見て、村上は察したように声を漏らす。


「ああ…そういえば、荒船が岸川さんと長らく模擬戦してないとかなんとか言っていたような…」

「まさにその通りだよ村上、大正解だ。もう三時間も付き合ったんだ…良いと思わないか?」

「三時間…よっぽど不満がたまってたんですね」

「確かにほったらかしにしていたのは悪かったが…もう勘弁してほしいと思って逃げていた次第だ」


成る程、と村上は少し微笑みながら返した。いつまでも通路に隠れているのも変なので、近くに設置してある椅子に腰掛ける。二人だけで話すのは久々だったので、会話は途切れることなく弾むように進んでいった。
ランク戦のこと、来馬隊のこと、試作トリガーのこと…。
色々な会話を重ねていく中で、話は先ほどの荒船の件に戻った。


「荒船が…?」

「ああ…。
よっぽど拗ねていたんだろうな、私が何も言わないでいたら耳まで噛まれた」

「噛んだんですか」

「流石に恥ずかしくて死にそうだったよ」

はあ、と相槌をうつ後輩を横目に、朔はおもむろに立ち上がる。凝り固まった体をほぐすように大きく伸びをしてから、未だ座ったままの村上を振り返った。


「じゃあ、私はそろそろ行こうかな。流石に荒船ももう諦めただろ」

「…そうですね」


なにやら煮え切らない返事をした後輩を不思議に思い近付くと、出会い頭と同じように腕を掴まれた。

「っ!?」


結構な力で引き寄せられたため、座っている村上にのし掛かりそうになるのを椅子に膝をつくことで何とか堪える。…残念ながら顔は村上の肩にぶつかったが。
どうした、と口を開こうとすると、それを遮るように顎を掬われて上を向かされた。
本日二回目の至近距離にある顔に、やはり朔は赤くなるのを抑えられない。そもそもそういった方面に免疫が無いのだから、当然と言えば当然だが。


「む、らかみ…何を…!?」


何を考えているのか読めない瞳も、表情さえもいつもと何ら変わりないまま、その指は朔の唇をゆっくりとなぞる。
擽るように撫でたり押したりと、異様な近さでその動作をするものだから気が気ではない。抵抗しようと腕を突っぱねても、両腕とも目の前の後輩に押さえ込まれてしまった。
どうしようもなくなった朔ができたのは、顔を背けることだけである。しかし、それが村上の誘導であることに彼女は気がつけなかった。


「ぅあっ…!?」


朔が荒船に噛まれた耳をまるで上書きするように食み、終いには舐めたのである。その後すぐに体を離した村上を、朔は口と耳を押さえながら真っ赤な顔で見つめた。一日に二度も同じようなことを違う人にされるとはどういうことなのか…。
混乱状態の頭でぼんやりしていると、ふいに村上が立ち上がって椅子に座ったままの朔を見下ろす。その顔は楽しそうで、どことなく荒船のニヒルな笑みと似た雰囲気を感じさせるものであった。


「油断してると、食べられますよ。
―荒船だけじゃないこと、忘れないで下さいね」


そう言い、去る間際に朔の頭をぐしゃぐしゃとかき乱した後輩の背中に、朔が辛うじて発した言葉は力無いものだった。







「…私の方が年上なんだが……」




























特別隊員の受難―追う肉食獣、眠れる肉食獣編―


(くそっ見つかんねー…どこ行きやがった……!!)
(荒船だけじゃないって岸川さん分かっただろうか)

(…後輩恐ろしいな……?)













* * * * * *

新幹線内作品第二弾ー
これに凄まじく時間かかったww



〇肉食獣コンビ:
今まで可愛い後輩の座に甘んじていた追う肉食獣と眠れる肉食獣。どちらかがしかければもう片方も負けじと食らいつく。どちらも理性はガッチガチに固いので主人公のトリオンにつられることはない。だから何かアクションを起こしたならそれは本人の意思。



・追う肉食獣:
後輩の中では一番手解きを受けている。自分が一番構われている自覚があったため積極的に動きはしなかったが、今回ばかりは我慢の限界だった。押せ押せな自分にタジタジになる鉄面皮を赤面させることに愉悦を覚えた。ちなみにこの件は主人公が恥ずかしすぎて周りに何も言わなかったため、まだセコム=リトルンバのブラックリストには入っていない。ただこの後吹っ切れてガンガン迫るのでそれも時間の問題。

・眠れる肉食獣:
荒船と行動を共にする事が多々あるので、荒船に次いで手解きを受けている後輩。ガンガン行くスタイルではないので遅れているように見えるが、期を伺って確実にしとめていくタイプ。気のゆるんだ隙を狙って突いてくるのでものすごく厄介。強かなので中々セコム=リトルンバのブラックリストに載らない。いずれは絶対に載るけど。見えない敵が怖いとはこいつのことを言う。

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