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二次創作/夢
特別隊員の受難―セコム爆誕編―





「…慶が本当にすまないことをした」


「…いえ、本部長のせいではないので気になさらないでください」


―直轄の上司に頭を下げられることほど気まずいものはない。

いつもの鉄面皮に加えて瞳から光をも無くした朔は、目の前の思いつめた表情の上司を見てばれないように小さくため息をついた。























それは、何の変哲もない本部の通路で起きた事件だった。

入隊時から注目されていたその特殊な“欲を刺激する”トリオンを生かすため、朔はしばしば鬼怒田のもとへ訪れていた。そのトリオンを提供し、新たな武器やトラップ作りに役立てているのである。凄いところと言えば、提供のみに留まらずそのプログラミングまで手掛けているのだから、彼女はもはや一介のオペレーターではなくエンジニアにまで片足を突っ込んでいた。

それはさておき、事の始まりだが。
朔は鬼怒田のもとで用件をすませた後実験結果の報告をすべく、忍田がいる一室へと向かっていた。
その時、奴はやってきたのだ。さながら餌につられた待ての出来ない肉食獣…、
―太刀川慶という男が。


事件の内容は割愛するが、ちなみにこの時二人は初対面である。
太刀川慶17歳、岸川朔18歳の時の事だった。






















謝罪を終えて朔を帰した後、ため息をついてソファに腰掛ける。
忍田は頭を抱えたい気分だった。

(自分が通りかからなければどうなっていたことか…)

目を掛けている部下は特殊なトリオンを持つために、普段の訓練や模擬戦に参加していない。また、よく鬼怒田のもとへ訪れているため、人目に付きにくい。それ故か、己が紹介したり本人が接触しようとしない限り、彼女は周囲との関わりが薄い。
もちろん、自分の弟子との接触があろうはずもなかった。

ということは、その“匂い”につられて弟子が彼女に手を出した時、二人は初対面だったはず…

そんな結論に行き着いて、彼はますます眉間にしわを寄せる羽目となった。
いくら自分が彼女の存在を教えて不用意に近付かないよう注意をしなかったとはいえ、弟子がここまで本能に忠実だとは。
戦闘狂の気があるのは薄々感じていたが、そういった欲や、場合によっては色欲まで刺激するトリオンを持つ彼女は、ある意味バカ正直な輩にとって格好の餌であることを再認識させられた―…奇しくも自分の弟子によって。

彼女は今までエンジニアやオペレーター等、年上や同性とばかり接していた。故に気がつくのが遅れたが、ボーダーの隊員はまだ自制のきかない若者ばかりである。そんな所へ放り込んでしまえば……

考えただけで忍田は背筋がひやりとしたのを感じた。しかし、いつまでも彼女を今のままでいさせるわけにはいかない。
現に、彼自身が稽古をつけたり彼女自身に訓練を積ませたりと、元々はオペレーターだった少女は立派に戦力となる隊員へと成長している。ボーダーに所属している以上、使えると判断された者は戦力として数えねばならないのだ。前回の会議でも、まずはB級の隊と組ませて防衛任務にあたらせよう、という話が上がっていた。

もちろん皆が皆自制できないと思っているわけではないが、深く考えずに彼女と他隊を組ませてしまえば収拾のつかない事態になることは目に見えている。


(上司として…私が目を光らせなければ……!!)







―…こうして忍田真史の戦いは始まった。





















「いい加減にしろ、慶…!!私の部下に近付くんじゃない!!!」

「えっ近付くことも駄目なの?」

「(本部長最近過保護…?有り難いが)」

―幾度となく注意しようとも接触してくる弟子に、




「……」

「…(すごく見つめられている)」

「二宮、私の部下に何か用か」


―一見無害そうでも彼女を前にしてひたすら見つめ続ける二宮に、




「あっ岸川さん!聞いてください、今日福と佐補がですね誕生日プレゼントをわざわざ俺に(以降弟妹の自慢話が延々と続く)」

「(相変わらずの家族愛だな)」

「…(嵐山も注意すべきか)」


―爽やかな笑みで朔の隣を陣取って話し続ける嵐山に、




「あ、岸川さ…」

「何か用か、迅」

「いや忍田さんじゃなくて…」

「何か用か」

「(流石です、本部長)」


―性懲りもなくセクハラを働こうとする迅に。





他隊と組んで任務に参加させてからというもの、朔の周りには驚くほど人が集まるようになった。あまり表情は変わらないが、話してみれば意外に付き合いやすく、実力も申し分ない。逆に今まで輪の中心に居なかったことが不思議に思えるものだった。

しかし忍田が危惧した通り、そういう魅力的な人物に寄る者が皆無害である筈がない。彼は持ち前の感でそういった奴らを見定め、出来る限り牽制し、朔の身の安全を守り続けた。
そんな風に奔走して己の貞操(決して大げさな表現ではない)を守ってくれている上司を見て、朔は自然と尊敬と感謝の念を抱くようになる。


暫く経てば、二人は普通の上司部下よりももっと緻密で確かな信頼関係を築き上げていた。





「忍田さん、この資料なんですが…」

「ああ、それは私がもう受理したから問題ない。
朔、少し休憩しよう。コーヒーでもどうだ」

「はい、頂きます」


双方珍しく穏やかな笑みを浮かべて会話する姿は、見ていて微笑ましいものがある。
コーヒーを用意していた本部長補佐―沢村響子は、自分も口元に弧を描いた。
本部長直轄の部下である朔は、言い換えれば沢村の部下でもある。もう前線から退いた身ではあるが、オペレーターだった少女を沢村が鍛え上げたのもまた事実だ。そんな彼女にとって、朔は自分が一から面倒を見た唯一とも言える後輩である。可愛くない訳がなかった。

敬愛する上司に可愛い後輩。
雇用やブラック企業問題などで世間が沸く中、自分の労働環境は非常に恵まれていると強く感じる。二人のために買った甘さ控え目の茶菓子をコーヒーに添えて渡し、自分も朔の隣へと腰を下ろす。会話は疎らながらも穏やかな雰囲気が包むこの時間が、沢村は特に好きだった。














後に、忍田の名で守る必要はないほど成長したと判断された朔は、正式に独立したソロの特別隊員として活動を開始した。今では名目のみが「本部長直轄」となっている。以前のように忍田・沢村と共に組織運営に携わることはほとんどなくなった。
本部長の庇護下から出た彼女ではあったが、二人にとっては目にかけて育てた可愛い部下…簡単に部下離れなど出来ない。形式上は直接の関わりがなくなってしまったが、やはり心配は心配である。立場を気にして遠慮する朔を、二人で丸め込んで定期的に茶会を開いていた。
ちなみに、その際に交わされた会話の中で怪しい者がいれば、忍田がすぐにその名前を頭にインプットしていることを沢村は知っている。かくいう自分もその名前を基に情報を集めているのだから、人の事を言えないのだ。

かくして、名前のみの上下関係となった今でも、忍田は沢村の協力を得ながらセコム一号の役割を果たしているのだった。











―この暫く後に、朔と風間が昔馴染みな上自分と似たようなことをしていると耳にした忍田が、彼と個人的な繋がりを持つのは…また別の話である。




























特別隊員の受難―セコム爆誕編―

(―失礼します、お呼びですか)(朔、良い時に来たな)(え、)(そろそろ来ると思って、準備してたのよ。さ、座って)(は…はい、ありがとうございます)












* * * * * * *


おっと、どうやら暑さで頭がおかしくなったようだ(勉強しろ)







〇本部長、本部長補佐:
記念すべき我らがセコム様第一号とその協力者。今では表立って活動はしていないが、二号がその役割を果たしてくれており、二人は主にその後片付け担当。



・セコム第一号:
ボーダー最強の名の下過保護を爆発させたデキる苦労人。トリオンの性質上鍛えなければならない、と自分の所へ放り込まれた部下に最初はどう接しようか迷ったが、真面目で優秀(弟子とは天と地の差)である主人公に好感を持つ。後、トリオンにつられて人が寄ってくると、目を彷徨かせながら服の裾を控えめに掴んでくる部下を見て、忍田ウォールは陥落した。たまに自分と沢村にのみ見せる年下ならではの甘えは心のメモリーに永久保存してある。つまりは部下が可愛くて可愛くて仕方がない。

・一号補佐:
運営面でも戦闘面でも世話を見た人物は彼女しかおらず、初々しい主人公を一番かわいがっていたある意味羨ましいポジション。忍田に淡い想いを抱いているが、中でも主人公と一緒に居るときの穏やかな顔を見るのが好き。主人公の正式な戦闘隊員化に伴って癒しの時間が減ってしまったため、姿を見かければ必ず執務室へと引っ張って三人で茶会を開く。女性陣の中では一番溺愛度が高いので、主人公との関係を進展させたい者にとってはラスボスに近い鬼門の一つ。

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