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二次創作/夢
特別隊員の受難―わんぱく高校生編―




あの変態はどうやらこっぴどく本部長に絞られたらしく、最近(といってもここ数日)は朔を追いかけ回すことは無かった。しかし、だからといって彼女が狙われないわけではない。追いかける人数が、太刀川一人分減ったというだけである。

朔は今日も今日とて全力疾走するはめになっていた。



「なーいーじゃん岸川さん!模擬戦やろーぜ!!」


「いや弾バカじゃなくて俺とやろーぜ朔さーん」


「なっテメェ槍バカ!お前いつの間に下の名前で呼んでんだよ!!」



背後から聞こえてくる会話に耳もくれず、朔は足を動かすことに専念する。止まれば最後、二人に捕まって100戦以上付き合わされるのだ。たまったものではない。トリオン体だから体力が削られない云々の問題ではなく、気力の問題であった。


「いい加減諦めてくれないか…!!」


いくら朔が追われる側とはいえ、通路を走るのは隊務規定以前に公的な常識に反している。不毛な鬼ごっこを続けるのはやめにしたいのが彼女の本心だった。


「えーじゃあ朔さん20戦でいいから!!お願い!!!」


「岸川さん俺とも!!!」


「(ら、埒があかない…)」


堂々巡りとなりつつある会話に、朔は内心涙目である(しかし表情は変わらない)。もうかれこれ30分以上駆けずり回っているのに、どうしてああも高校生達は元気なのか。二十歳を越えている身としては何か切ないものがあった。

ここまできたら何が何でも逃げ切りたい朔の視界に、丁度通路を曲がってきたであろう後輩が入ってくる。しかもそれが自分の味方だと分かった途端、朔はその人物に飛びついた。


「三輪…っ!!」


「っな、」


多少驚きながらもしっかりと先輩を支えるその仕草は、慣れたものである。それもそのはず、朔は戦闘バカ達に追われている時、味方を求めてまず訓練室付近に向かって逃げるのだ。ストイックな三輪が自主訓練を欠かすはずもなく、時間があえば毎度のように出くわすのである。最初こそ彼にしては珍しく動揺したものの、日々繰り返しとなれば慣れないはずもなかった。


「お前たち…また懲りずにやっているのか」


短期間とはいえ戦闘面で世話になった先輩を無碍に扱う事無く、三輪はむしろ朔を背中に庇いながら同級生を叱咤した。これも割と毎度のことであり、如何に二人が学習かつ反省しないかが見て取れる光景である。


「えーだって朔さんが逃げるからさあ。逃げられっと追っかけたくなんじゃん?」


「そうそう。あとやっぱり岸川さんの匂いってなんかこう…戦闘欲を掻き立てられるっつーか…なあ?槍バカ」


けらけらと笑いながら会話をする後輩二人を前に、朔は眉を下げて肩を落とした。そんな理由で毎回追われるのは身が持たないから勘弁してほしいものである。そう思いながら、彼女は身を縮こまらせた。
朔は庇ってくれている後輩とは10センチ以上身長差があるため、屈んでしまうと前からは頭しか見えていない。そんな朔をのぞき込むようにして、米屋が話しかけた。


「なー悪かったって朔さん。次からは普通に声掛けっからさ」


「陽介、あまり近付くな」

自隊の隊長に牽制されながらもにこやかに話す後輩に、疑り深く様子を窺って朔も口を開く。


「…太刀川みたいに変なことはしないか?」


「言ったからにはちゃんとしま…、えっ太刀川さん何かしたの?」


「オイどういう事だ出水」


会話の成り行きを見守っていた出水は、突然話を振られた事と自隊の隊長の不祥事に関して尋ねられた事に狼狽えた。いつもより二割り増し目つきが鋭い三輪と、いつものようにハイライトの無い瞳の米屋に見つめられ、思わず視線を逸らす。


「あー…岸川さんのこと噛んだって俺は聞いたけど」


今度は二人の目線が朔のきっちりしめられた詰め襟シャツに向かった。普段は緩やかなカッターシャツを好んで着ているため、改めて見てみると違和感の拭えない格好をしている。
無言で朔の肩をやんわりと三輪が押さえ、米屋が首筋を覆っていた詰め襟のボタンを二つほど外す。あまりにも自然な流れ作業だったので朔には驚く暇もなく、状況を理解できずに瞬きするに留まっていた。


「「……」」


白い肌に浮かび上がる、痛々しい赤。

明らかに襲われましたと言わんばかりの噛み痕に、無言で眺めていた二人から表情が消える。 まだ熱を持っていそうなそこを指でなぞり、三輪が尋ねた。


「…まだ痛いですか」


「い、いや…もう痛くはないが…。
噛まれた時は驚きすぎて変な声が出そうだったよ」


何とか現状を理解した朔がそう返すと、三輪の動きがぴたりと止まる。
不思議に思って呼び掛けると、彼はおもむろに顔を上げて自隊の隊員に声をかけた。何故か妙に目がギラギラしている。二人の間で無言のやりとりが交わされた後、出水の首根っこをふん掴まえて、なんと訓練室の方へ踏み出したではないか。


「三輪?米屋?
出水を連れて何処へ…」


「岸川さん、心配しなくていい
…害虫を駆除するだけだ」


「そーいうこと!とりあえずここはお開きってことで…
あ、ちゃんと今度からは普通に模擬戦誘うから安心してね朔さん」


「おい!俺だってあのバカ隊長ぶっ潰すことには賛成なんだから首つかまなくても…イタタタ」


半ば引きずられている出水も、今度からは俺も普通に誘うんで!付き合ってくださいね!と言い残し、曲がり角の向こうへと消えていく。
追いかけてきたかと思えば唐突に去っていった後輩達に、朔は呆気に取られていた。


「(まあ米屋と出水から追い掛けられなくなるらしいからいいか…?)」


「良くないな」


「っ!?」


まるで心の声に呼応するかのような言葉が、朔のすぐ近くで発される。気配もなくいつの間にか横に佇んでいる風間に度肝を抜かれた彼女は、驚きのあまり声も出せなかった。バクバクと忙しなく拍動する胸を押さえながら、やっとの事で口を開く。


「脅かさないでくれないか風間…」


「すまないな」


台詞の割には全くもって申し訳なく思ってなさそうな表情である。いつもの通りの鉄面皮ぶりだった(人の事は言えないが)。


「で、何が良くないんだ?」


「いや、こちらの話だ」


先ほどの言葉の真意を問うても、風間はそれ以上口を開こうとはしない。こうなったら決して誰にも話そうとはしないことは昔から知っているので、朔も深く掘り下げるのはやめにして口をつぐんだ。


















偶然なのか故意なのか。
高校生三人とのやりとりの一部始終を見ていた風間が心の中で静かにブラックリストのメンバーを書き足していたことを、朔は知らない―…。


























特別隊員の受難―わんぱく高校生編―

(おっ奈良坂はっけーん)(米屋…なんだ、何かあったのか)(いーや、今からちょっと髭狩りに)(は…ああ、成る程。三輪がいるのはそういう訳か)










* * * * * *

書ける内に書き溜めせな…始めたからには責任が……ウッ(胸抱え)






・神出鬼没ルンバ:
遂に生身で隠密機動を成し遂げた次世代型マシン。今日も今日とて排除対象となりうる不届き者に目を光らせる。塵一つ見逃さずに吸い尽くすぞ。手を出そうとしたからには百倍返しだ。恨むんなら迂闊な自分を恨もう。脳内に刻み込まれたブラックリストを基に、今夜アナタの所へ襲撃に伺います。

・わんぱく高校生その1:
その名をいやらしカチューシャ。わざとふざけに走る愉快犯。必死に逃げる主人公(真顔)の後ろから追い掛けるのが好き。何となく焦ってるのが分かるから。まさにいやらしい男。嫌われたくはないから限度は守るよ。手に入れた暁には甘やかして苛めてでろでろに愛したい派。セコムのブラックリストには出会った当初から登録済み。さすがいやらしい男。

・わんぱく高校生その2:
その名をブラックストレンジャー(予備軍)。“匂い”で戦闘欲を掻き立てられてしまっているあたり、間違いなく隊長の影響を受けている。叩かれまくる隊長を見ているため、抑制が効かないわけではない。言うなれば懐きまくる駄犬(某セコム談)。割と純粋な方なので周りと比べてあまり害はない。セコムのブラックリストにはうざったい邪魔者として登録済み。哀れ。

・わんぱく高校生その3:
その名を眉間シワシュージ。風間隊を除く他隊では良い思いをしている奴ベストに入る。オメデトウ。ネイバーころころを目標に掲げて頑張ってるから無害かと思いきや、半無自覚恋慕奴なのだよ。という訳で今回のお触りでめでたくブラックリスト(警戒レベルMAX)に加入されました。なんせ主人公ちゃんが自ら飛びつくくらいには信頼されてるからね。頑張れシュージ。後はあのセコム達だけ()だよ。

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あきゅろす。
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