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二次創作/夢
特別隊員の受難―変態襲来編―



「…やぁっと捕まえたぜ、岸川さん」


「っ、」


全力疾走する毎日、いつも逃げきれるわけではない。今日は風間隊は非番、そんな時に限って一番やっかいな奴に捕まってしまった。恐る恐る後ろを向けば、予想した通りの人物が立っている。しかも朔が逃げないようにご丁寧に腕をつかんでいた。


「…離してくれないか、太刀川」


「やーだね!いつも逃げられてる分相手してもらうからな」


格子状の瞳がギラギラと好戦的な光を宿す。この男に捕まった時のことを思い返せば、非常にいやな予感しかしなかった。危惧した通り、壁へ壁へと追いやられている。


「いっつも良い匂いさせてさあ…俺我慢すんの大変なんだけど?岸川さん」


「…なら近付かなければ良い話だろう…っ!」


「いやぁ。
ある程度の距離にいたらもうそのトリオンの匂いヤバいんだよね」


太刀川は“匂い”を堪能するかのように朔の首筋へ鼻を近づけ、深く息を吸う。人通りの殆どない廊下で捕まってしまったため、声をあげても誰も気づいてはくれない。ならば…と腕や足をなんとか自由にしようともがく。しかし両足の間には目の前の男の体が入り込んできていたため、その抵抗も虚しく終わってしまった。


「もう本当にさ…誘ってんじゃねーの?」

「誰が、っ!!」


口だけは自由に動かせるので否定の意を返そうとすると、首筋に鋭い痛みが走る。突然の刺激に対する驚きに、朔はあられもない声を出しかけた。


「なに、して…っ」


「んー、ごめんって」


噛まれた場所がじんじんと痛み、熱を持ち始める。そんなところに追い討ちをかけるように、太刀川は舌を這わせた。
背後から抱き締められたり手をつながれたりするのとは訳がちがう。朔の脳内は与えられ続ける刺激に混乱を極め、自分が頼りにしている昔馴染みの名を呼んで助けを求め始めた。


「やだ、か、風間…っ」


「今日風間さん非番だからさ、大人しくっ!!!!?」


太刀川が妖しい笑みを浮かべて朔に顔を近づけた、その時。

―横から凄まじい勢いで飛んできたトリガーの本体が太刀川の頭に激突。

スローモーションのように地面へと倒れ込んでいく太刀川を尻目に、朔は助けてくれた人物の名を嬉しそうに呼んだ。


「風間…っ」


「大丈夫か、岸川」


武器(トリガー本体)を拾い上げて懐に仕舞い走り寄ってくる昔馴染みに、心底安心した顔で頷く。彼が来てくれなかったらどうなっていたことか…想像するのも恐ろしい。地面にもんどりうっている男を踏みつけて少し目線の高くなった風間は、朔の首筋に赤い歯型が付いていることに気がついて眉を寄せた。
そしておもむろに携帯を取り出し、電話を掛け始める。数回のコール音の後、彼は口を開いた。


「…もしもし、忍田本部長ですか。」


その言葉を聞いた瞬間、足元の男がもがき始める。それもそのはず、電話の相手はボーダー最強と名高い太刀川慶の師匠なのだから。
なんとか逃げようとする太刀川の頭を足で再度踏みつけて大人しくさせた風間は、通話を終了させて朔に向き直った。


「忍田本部長がコイツを回収しに来る。暫く待て」


「ありがとう風間…でも今日は非番じゃあないの?」


ちらちらと気を失いかけている太刀川を気にしながら問いかけると、彼は心底嫌そうな顔で言った。


「この駄男の世話を教授に頼まれてな」


「あ、ああ…」


納得出来てしまうのが悲しいが、事実は事実である。実際太刀川は戦績と成績が反比例している男だ。その一言だけで朔は理解してしまった。























直轄の上司に頭を下げられるという居心地の悪さを体感しながらセクハラ犯を引き渡した後、二人並んで歩を進める。
Yシャツの襟で隠しきれない噛み後は痛々しく、少し考えれば襲われたと一発でわかる代物だった。


「お前のそのトリオンも考え物だな」


「ああ…“欲を刺激する”トリオンだもんね。ネイバーを引き寄せるトラップにはもってこいだけど…
薬とか欲しいなあ」


力なく言う彼女は、瞳に諦めの色を灯していた。心なしか目がはるか遠くを見ている気もする。


「まあ…欲を我慢できない奴が一番の問題だ」


事実太刀川と一部を除けば、朔を近くにしたところで「良い匂いだな」等、好印象を抱くぐらいなのだ。風間は抑制心の無い奴が悪い、とはっきりと言った。

にべもない断定に、朔は口元を緩めて苦笑する。この時二人が歩いていたのは訓練室付近で人通りもそれなりにあった為、否が応でも注目を浴びていた。幸いと言うべきか不幸と言うべきか…朔の一瞬の笑みを見て呆けていた輩は、横にいたセコムによって完璧にマークされていた。流石アタッカー二位、抜かりない男である。


「風間、この後何か用事はあるか?」


女性にしてはかなりさばさばとした物言いだが、存外この話し方を風間は気に入っている。朔の問い掛けに対して無い旨を伝えると、彼女の雰囲気が柔らかくなったのを感じた。


「今日の礼に奢ろう。この前鬼怒田さんを手伝ったら臨時収入が入ったんだ」


「そう毎回助けられる度に奢ろうとする癖はやめたらどうだ。貯金でもしておけ」


「じゃあ訂正だ。晩御飯でも一緒にどうだ、風間」


素直に他人の意見を取り入れ修正する点は、彼女の好いところである。赤い瞳が特徴的な目を細め、彼は微かに笑った。自分の提案に肯定した、と理解した朔も、どことなく満足そうである。
二人はその後も無表情ながらテンポ良く会話を重ね、その場を後にした。




















未だ人影のちらつく場で行われたこのやりとりは、後に噂となる。

―妙に親しげな二人だったが、もしかすると付き合っているのではないか。

密かに朔へと恋慕の情を寄せていた人達はこれを耳にし、その想いと共に涙を飲んだ。どう考えてもあの男に叶うはずはなく、また彼女の表情を動かせる自信も無かったからである。






―…これが風間蒼也の周囲に対する牽制を込めた策略であったことは、誰も知る由はない。


























特別隊員の受難―変態襲来編―

(聞きましたよ風間さん)(…菊地原か、どうした)(噂ですよ噂。最近増えつつあった輩は大半片付いたみたいですね)(なら良い)






* * * * * *

まだ余裕あるうちにアップしとかなあかん
始めたからには頑張って続けるぞ…!!(フラグ)



・二代目セコム様:
今日も絶好調。小型でもゴミ(邪魔者)は吸い残しません、な吸引力の落ちないただ一つの高性能知能付ルンバ。投げつけたトリガー本体は時速百キロの速度で変態の頭を襲撃した。きっと本気出したら頭貫く。一応手加減はしていたらしい。

・変態その1:
その名をブラックストレンジャー。顎に髭を携えた虫の複眼のような目を持つ男。良くも悪くも欲に忠実であり、待ての出来ない駄犬だと某ルンバに言われている。初代と二代目のセコムどちらにもマークされていながら、しつこく主人公へ迫る。恋愛感情の有無は定かでない。

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