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二次創作/夢
おまえのせいで昔話はまだ続く




「お嬢さんは外に出るって事がどれほど危ないことか分かってるのか?」


「…母の記憶はしっかりと残っています。理解も自分なりに出来ていると思います」


拙いながらも強い意志を持った言葉を、朔は返した。

訪ねてきていたらしい目の前の男は父の知人のヒーローであり、あの事件の際に助けてくれた命の恩人である。そんな彼にされた突然の質問は、少しの間彼女を驚かせた。しかし、直感的に悟ったのだ。これは自分の望みを叶えるために、逃してはならないチャンスだ―…と。

朔の返し方はどうやら正解だったらしい。確かな思いが込められたその返事に、男は満足そうに、だが真剣さを失わないまま軽く笑った。


「お嬢さんが望むのなら、手を貸してやってほしいと親父さんから言われたよ」


どうやら、自分の預かり知らない所で二人のやり取りがあったようである。いつの間に、と思うと同時に、父が願いを聞き入れてくれたことに驚いていた。口癖の「ごめんね」を抱きしめながら言われたため、てっきり父は自分を家から出す気などないと考えていたのだ。その驚きは当然である。


「さて、俺は君が外に出るために力を貸すことになった。
でも、本当に君が望むならの話だけどね」

何か含みのある物言いに訝しげな顔をした朔の頭を軽く撫で、その続きを男は言った。


「狙ってくる相手は、君も知っているように手段を選ばない奴らだ。戦闘向きじゃない個性しか持たない君が、唯一対抗できるものといえばなんだと思う?」


「個性抜きで考える個人の戦う力…ですか……?」


「そう。

君が本当に自由を得たいのなら、個性を凌ぐほどの…限界を超えた力をつけてもらわなければならない。

まだ幼い君には過酷すぎる上に、個性に対抗するためには世間倫理から外れたこともしなきゃいけなくなる」


「お嬢さん、君がこれから歩む道は茨の道なんてものじゃないよ。

どんなに辛く苦しい思いをしても、君は自由になりたいと考えるか?」



今ならばまだ引き返せる、と彼は目で語っていた。そこには、奪われた母の個性を取り返せなかった悔しさもあったのだろう。ヒーローとしての責務を果たしきれなかったと彼自身が感じていたから、この人は自分に手をさしのべてくれているのだ。

確かに怖い。自分も母と同じように殺されるのではないか…そう考えて涙を流す夜を、朔は何度越えてきただろう。だがそれと同時に、何度あの青い空に、眩しい日差しに、焦がれたことだろう。




―答えは、最初から決まっていたようなものだった。




「おねがいします。どんなに苦しくても、辛くても、がんばります。

わたしは普通の生活がしたい…自由に、なりたいんです!!」




男は、少女を眩しそうに見つめた。やはり、あの父あってこの娘ありということか。自分は昔から、知人の強い眼差しを気に入っていた。ああ、なんて―…

(……良い眼だ)

父親といい娘といい、人を惹きつける何かを持っている。
この家族に魅了されてるかもしれんなあ。そう思うとあながち間違いでも無いことに気がつき、彼は口を開けて豪快に笑った。























朔は長い間屋内で過ごしていたため、人一倍体力が無い。故に、まずはひたすら体力作りに励もうとした。しかしそんなちょっとしたトレーニングさえも、まだ6歳の少女には成長を妨げる障害以外の何物でもない。だが、成長が止まるまで待つなんていう考えは最初から無いのだ。

少女は、時期尚早だと大人が思わず止めるほど過酷な選択をした。

―そう、全ては自由の為に。






















「本当に良いんだな、お嬢さん。これをしたら、間違いなくひどい副作用が起きるぞ…俺はもうしばらくしてからの方が良いと思うんだがね」


「わたし、そんなに待てない。はやく力がほしいんです」


頑なに意見を譲ることなく、一貫して朔はそう主張する。

わかったよ。
そう重く返事をして、男はモニタリングルームに入っていった。

場所は、病院内で最も奥まった実験ラボである。後部座席に窓が無い護送車に送り届けてもらい、最先端技術を駆使する総合科学医療センターへと一行は来ていた。

朔は腰掛けていた検査台に横になり、放射線治療室の天井をぼんやりと見つめる。やがて合図と共に室内が暗くなった。頭上に放射機能を持つ精密機器がスライドしてきて、暗がりの中でも不思議と輝くその個性を覆い隠してしまう。

<麻酔ヲ噴射シマス>

<脳波調節手術ヲ睡眠状態ニ入ッテカラ3分後ニ開始シマス>







「世間倫理に反するとはこういう事か…」

「…ああ。
いくら鍛えたって引き出せる力は限られてくるし、個性に勝とうなんて夢話だろうよ。だからこそ、」


「脳波操作で身体能力を高める、と?」


「いや…正しくは身体能力を高めるために必要な潜在能力を引き出す、だな」


モニタリングルームからは、暗くなった室内はよく見えない。しかし、隣に立つ男は娘の状態が見えているかのようにモニターへ視線を送っていた。そんな知人の様子を横目で確認しつつ、男はまた話を続ける。

「脳の中でも比較的使われていない箇所の稼働率は、1〜40%だと言われている。そういった所の割合を上げて脳全体…ないしは全身の能力を底上げするってことだ」


<睡眠状態ニ入ッテ3分経過シタコトヲ確認。心拍・呼吸共ニ正常。手術ニ入リマス>


横に並び立ちながら、二人はモニターに意識を集中させる。そこに少女の姿が映ることは無くても、そうせずにはいられなかった。
数分、数十分…と、モニターは暗いまま依然として何も映さない。その代わりに光の反射でぼんやりと二人分の顔が見えていた。


「…頼んだのは確かに私だが、手をさしのべてくれたのは君だ。今回のこの手術だってかなり無理を言ったんじゃないのか?

君は、どうしてそこまでしてくれるんだ」

今度は男の方から話しかける。視線を交わすことなく、ただ目前のモニターだけを見据えての質問だった。知人の方もまた、顔を動かさずに答える。


「俺は親父がやってたから成り行きでヒーローになったみたいな男でな、信念も何も無かった。

だから俺はお前の守りたいって言ってるもんに興味を持ったんだ。お前ら家族はあったかいよ。良い家族だ。…俺も出来る限り、守りたいって思った」



守れなかった。



溜息のように吐き出された言葉が、男の耳を揺らす。


「だから、コイツは俺の自己満足だ。贖罪だよ。
初めて出来た心から守りたいものを、今度こそ取りこぼさないように必死で抱えてんだ…おかしいだろ」


男は、胸の奥がひどく熱くなるのを感じた。妻が亡くなった後、残されたのは娘だけだと思っていたが…自分が気付いていないだけで力になろうとしてくれている人はいるのだ。自分の視野の狭さを男は恥じた。

「おかしくなんて、ない」


横にある気配がピクリと揺れる。しかし、構わず男は続けた。
そこまでしてくれる人がおかしいなどと、そんな事があってたまるものか。


「おかしくなんてないさ」


念押しするように言うと、知人が不意に目頭を押さえた。泣いているのだろうか…そう思って目を向けると、顔を覆っている手の隙間から覗くいたずらな瞳と視線が重なる。どこか笑いを含んだ色だった。


「君は…」


真面目な話をしているというのに。
思わず溜め息を吐きかけると、悪いとでも言うように片手をひらつかせる。


「ありがとな」


小さく小さく落とされた言葉が耳に入り込んできた時、二人の視線はもう交わっていなかった。






















手術が終わってから、朔は父の知人のヒーロー事務所預かりの身となった。安全性と訓練条件を考慮してのことである。

忠告通り、手術後彼女を激しい副作用―発熱や頭痛、全身に走る鈍痛や吐き気―が襲ったが、一週間程経ってから回復し始める。急激な脳波の変化にやっと体がついてきたらしく、二週間後には本格的に訓練を開始する運びとなった。

ヒーロー事務所に所属するサイドキックの人達にも協力してもらい、様々な体術、護身術、軽やかな身のこなしを習得するためにパルクールやロッククライミングに似たこともやったものである。副作用こそ酷いものだが、手術は彼女の能力全てに影響を与えていた。
一つ上げるとするなら、驚く程学習能力が高くなっている事だろうか。
長い間屋内で本ばかり読んでいたので、知識に関して言えば膨大な量の情報が頭に詰め込まれていた。以前までは、その情報の引き出しをうまく引き出せない上に整理もできていない状態だったのだが…今ではその知識は項目ごとに分けられ、いつでも引用可能な状態へと変化している。
そんな脳内情報を元に、訓練を積むごとに得た経験と照らし合わせながら次の段階へと成長していく姿には、目覚ましい物があった。

それでも、ヒーロー顔負けの力を手に入れるにはそれなりの年月が必要である。日々鍛錬に明け暮れている内に、時は早足で過ぎ去っていったのだった。






















そして六年目を迎えようとしていた頃、その時はやってきた。



「…いま、なんて言いましたか?」


「もうお嬢さんに教えることはない…訓練は終いだ。

よく頑張ったな」


自分が確かに望んだ瞬間であったのに、こうもあっけらかんと言われてしまうとは。
しかし長い間の努力が実を結び、自分は今まさに自由になろうとしていることを感じ、朔の体を言葉にできない歓喜が満たした。


「ほ、ほんとうに……?」


訓練を始めた頃から比べるとかなり身長が伸びていたが、自分の師匠と呼ぶべきヒーローは、昔と同じように頭を撫でてくる。目を丸くして唇を震わせる弟子の頬を両手で挟んでむにむにと弄くりながら、男は口端をにんまりとひきあげた。


「どうする、今すぐにでも外に出てみるか?」


その言葉に、朔は堪えられなくなって大粒の涙をボロボロと零す。途端に焦り始める己の師匠を見上げて、譫言のようにほんとう?と繰り返す姿に感極まったのだろう。それを見ていたサイドキックの面々も、もらい泣きをして目頭を押さえていた。


「朔ちゃん、本当に頑張ったね…っ」


「俺達も鼻が高いな!」


今まで指導していた者が皆集まり、押し潰さんばかりに抱き締めてくる。温かい空気が包む中、いよいよ朔の涙は留まるところを知らなくなってしまった。
どんなに厳しくても弱音一つ吐かず、涙の一滴すら見せなかった少女が声を上げて泣いている。その事実に皆が皆涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら抱き合って、少女の訓練終了を祝った。







「―朔!!訓練、終了したって……っ」


「おどう゛ざん…っ」


文字通り家から飛び出してきたらしく、背広を裏返しに着た朔の父がヒーロー事務所に転がり込んでくる。すると、多少は収まりつつあったその場は、少女の父が感涙にむせび始めたためにさらに泣き声で溢れた。

悲しさではなく嬉しさに染まった雫が、朔と父の頬を滑り落ちる。周りに温かく見守られながら、二人は強く強く、抱きしめ合った。






























おまえのせいでまだ昔話は続く

(やがて抱き合う二人は手をつなぎ、空を見上げ、日差しを浴び、風の音を聞きながら、自宅へと歩を進めた)










* * * * * * *

おい…これ夢って言うんかいな……?
だ、大丈夫か!?駄目か!!!!スミマセンまだ終わる気しねーっすわ!!!!!!!!

さすが学習能力の無い馬鹿()!!!!!!!!!!


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あきゅろす。
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