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二次創作/夢
おまえのせいで……?


凄く…物凄く、痛い。突き刺さっている。



「―…公評は以上だ、質問はあるか」


何がって?

先生の公評を耳にしながらも、此方をガン見してくるヒーロー科の面々の視線が、だ。


「質問無いんなら今日はこれで終いだ、今日はこのまま帰って良いぞ」


相澤さんの言葉が終わる前にグッと脚に力を込める。目ざとく轟がそれに気づくが、もう遅い。素早くモニタールームの開いている窓の向こうへ身を投げ出した。


「えっ!!?」


「ちょっ、逃げたぞ!!!窓から!!!!」


「さっきも思ったけどアレ個性じゃねーんだろ!?どうなってんだよあいつの身体能力!!」


「誰か捕まえ…駄目だもう姿が見えない!」


「速くね!?」





先生が私を戦闘訓練に参加させなければ、こんな風にはならなかった。大人しく人質役のみやっていれば、自分が全力疾走することはけして無かったのだ。
演習場からある程度離れた場所で速度を緩めて立ち止まり、深い深い溜め息をつく。一度捕まってしまえば質問責めにあうことは想像に容易い。かと言って、この選択が正解だとも思えない。
何故なら、明日以降の事を考えると嫌な「予感」がいつになくするからだ。憂鬱で仕方がない。


基本岸川朔という人物は、面倒な事を回避して日々を過ごしている。やっと手に入れたコントロール能力、そして平穏無事な毎日。堪能したって罰は当たるまい。
しかし、ここ最近はその平穏が見事に遠退いていた。ヒーロー科との接触、それに伴う個性の暴露、またそれに関連してヒーロー科の戦闘訓練への参加。目立って仕方がない上に、今日に至っては散々である。

―とりあえず、明日まで普通科は休講だ。

精神的に疲れ切った体を休めるべく、心なしか重く感じる足を自宅へ向けて動かす。数日と経たない内に必ずやってくる面倒ごとに、頭だけでなく体ごと抱え込んでしまいたい気分だった。























「今日も来ていませんわね…」


「流石に長いな」


教えてくれた普通科の人に対して礼を言い、八百万と轟は踵を返す。


あの戦闘訓練から一週間。


普通科の集団食中毒による休講期間も終わり、朔も普通にその教室にいるはずだった。
あの謎の身体能力について興味津々なヒーロー科の面々は、毎日普通科を訪れては朔が登校していないか確かめている。しかし、目当ての人物はこの一週間姿を全く表さないままであった。


「ここまでくると、轟さんが言うように説明が面倒だから休んでいるとは思えませんわね」


「ああ…みたいだな。単に体調が悪いのかもしれねぇ」


自分たちのクラスへ帰る道すがら、ぽつぽつと話をする。会話の内容はやはり、依然として姿の見えない朔についてだった。


「轟さんは、あの身体能力に関しては何も知らないのですか?
中学からの腐れ縁だと朔さんは仰っていましたが…」


「個性に関してはアイツが襲われてたのを助けた後に無理矢理聞き出した」


「む、無理矢理…ですか」


八百万が戸惑うように漏らした言葉には返事をせず、言葉の先を轟は語り続ける。


「中学の時はカメレオンを使いこなせていなかったからな。毎日のように狙われてたはずだ。
それで、」


「私達が見たように、敵を回避したりいなしたりしていた…ですか」


「ああ」


「それでは中学の時には既にあのような動きが出来ていた、と」


二人の頭に、つい先週見たばかりの超人的な身のこなしをする朔の姿が思い浮かぶ。


まるで重力を感じさせず、壁や障害物を足場にして爆豪の攻撃を避ける。体を反転させて回し蹴りのように脚を突き出し、それが避けられると反撃にそなえて素早く宙を回転し距離を取る。
時に蝶のように軽やかに舞い、時に鋭い攻撃を繰り出す朔には、平時に漂う緩やかな雰囲気は感じられない。

自分が持つ圧倒的なハンデを物ともせずに爆豪と凄まじい攻防を繰り広げ、終いにはタイムアップにまで持ち込んだ彼女に、轟除くクラス一同は驚きを隠しようもなかった。


「個性については聞けたが…朔はあの身体能力に関しては何も口を開かなかった」


ただ、と轟は一度間を置いて続ける。


「自分は自由になるために強くならざるを得なかった、と言っていたのは覚えてる」


























―嫌な夢を見た。

まだ私が弱くて、何もかもが縛られていた時の夢を。




鳴り響いたチャイムの音を聞き、うまく回らない頭を押さえながらベッドから抜け出した。インターホンを確認もせずに玄関の鍵を開けて、扉の前に立つ人物を迎え入れる。インターホンを窺っていたその人物は、少し目を丸くしてから呆れたような表情をした。


「インターホン確認しないで開けないでよ岸川さん。
…昨日も言ったじゃん」


「私を訪ねてくるのは君か宅配便屋さん位だし。ま、上がりなよ心操くん」













学校で配られたプリントや課された宿題を記したメモ、コンビニで買ったと思われるゼリー飲料が入った袋を朔に手渡しながら、心操は言った。


「…というか一人暮らしの女の子の部屋に上がる俺もアレだけど、岸川さんも大概だよね」


「心操くん最近口うるさくない…?なんか出会い頭によく注意されてるような…」


「分かってるならまずインターホン確認しなよ」


いつものように軽口を叩き合いながら、小さなリビングにある二人掛けのソファに腰掛ける。それは、朔が休み続けている間の日常の風景となっていた。


「体調はどうなの」


寝間着のままの朔に近くにあったタオルケットを羽織らせながら尋ねる声音は、ひどくやさしい。
その暖かさに思わず頬を緩ませて、朔は答えた。


「だいぶ良くなったよ、明日には行けるかな」


数日前には嘔吐を繰り返していた事を考えると、彼女が言うようにかなり元の調子に戻りつつあるようだ、と心操は安心した様子で朔の髪を梳くように撫でた。
全体的に柔らかい白のようなそれは、指の中で淡く色を変える。朔が個性を隠していたことは知っていたが、いざ目にするとその美しさにしばし言葉を忘れてしまったものだ。黒髪黒目で大きめの黒縁メガネをしていたはずの彼女が、この姿でクラスに戻ってきた時はクラスから音という音が消えたのを覚えている。


数度手を往復させて朔の頭を撫でながら、その顔を見やる。目を細めながら自分の手を享受しているその姿に、中々懐かない猫を懐けたような感覚を覚えた。


「聞いて良いのか分かんないけど…

岸川さんさ、一週間も休む何か―学校であったでしょ」


何の前触れもなく降ってきた問い掛けに特に動じることなく、朔はゆるりと顔を上げる。


「…やっぱり分かっちゃう?」


「バレバレだよ」

小さな笑みを交わしてから、互いに口をつぐんだ。


若干開いていた二人の隙間を埋めるように、朔が少し上に位置する心操の肩に身を預ける。まるで甘えるかのようなその仕草に、寄りかかられた方は所在なさげに視線を彷徨かせた。暫く逡巡した後、割れ物を扱うかのような優しい力加減で朔の肩を抱く。

何処までも自分にやさしい友人に、朔は思わず小さく吹き出した。


「…何だよ」


「いやいや…なんでも。


―…ね、心操くん…いや、人使くんって呼んで良いかな」


長いまつげに縁取られた瞳がつい、と上を向き、心操と目が合う。

今更そんな事で許可を求めるなんて、変なところで謙虚な少女である。返事の代わりに、心操も彼女の名を呼ぶことにした。


「―何、朔」


すると一瞬驚きに顔を染めるも、嬉しそうに彼女もそれにならった。


「どうせ話すなら、人使くんが一番目が良いな。
…人使くん、重いかもしれないけど、聞いてね」


何が、とは言わなくても、すでに心得ている。自分に一番に話してくれることに確かな歓喜を覚えながら、朔が不安に感じないように軽く笑った。


「当然だろ」






















おまえのせいで……?

(俺に身を預けてくれている事が、どうしようもなく嬉しい)






* * * * * *


そして続くまさかのシリアスストーリー(笑)

いつもいつも文字を打ち始めてから話を考えるからこうなるんだよ〜馬鹿かよ〜〜〜




……馬鹿だよ!!!!!!!!!!!!!!

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