[携帯モード] [URL送信]

銀魂
怖いこと(銀沖)
昨日、久し振りに旦那に会った。
「や、久し振り」
旦那がそう言って右手を軽くあげた時、捲れた袖口から腕に巻かれた真っ白な包帯が見えた。
「旦那、それ…」
俺が指差すと慌てたように手を下ろし、袖を引っ張って包帯を隠す。
「ちょっと怪我しちゃってね。平気だっつってんのに新八の奴が大袈裟に巻きやがって…」
旦那が困ったように笑う。

旦那は、死ぬことが怖くないのだろうか。
俺は怖ェ。
怖ェし、死にたくねェと思う。
だから強くなりてェと思う。


 
怖いこと


「旦那は」
「ん?」
平日の真っ昼間。
公園の隅にはベンチが3つ。
一番左のベンチに座る旦那と、その隣のベンチを丸々占領して寝そべる俺。

旦那は俺の声に反応して此方に顔を向けた。
「旦那は、怖いと思ったことありやすかィ?」
「あるよ。看病してくれてるはずの女に薙刀向けられたときは怖かったね」
乾いた笑い声が聞こえる。
笑い事じゃないでしょうに。
つくづく面白いお人だ。

「沖田くんは?」
「はい?」
まさか聞き返されるとは思ってなかったので間抜けな返事をしてしまう。
「だーかーらー。沖田くんはないの?怖いこと」
いつもと同じ、ふざけた口調なのに瞳がどこか真剣で。
不覚にもドキリとして目が逸らせなくなった。

「…怖いこと、ですか」
漸く口を開いて、考える素振りを見せると、旦那が笑う。
「今、沖田くんさ。俺に見惚れてただろ」
「…は?自意識過剰なこって。おめでたいのは髪型だけにしなせェ」

勘が鋭い、というかなんというか、取り敢えず旦那はそんな適当な言葉で騙されるような人ではない。
「ひっでー。名誉毀損で訴えるぞコノヤロー」
また笑い声。
俺はこの人のこの声が好きだ。

「で?怖いことはねェの?」
「まだ終わってなかったんですかィ、その話」
いつの間にか俺の方へ身を乗り出して、上から覗き込むように俺を見ていた旦那。
上に目線を上げれば、必然的に目が合ってしまう。
「勝手に終わらせんな。あ、お前には怖いことなんざねェか。なんたって泣く子も黙る真選組の一番隊、斬り込み隊長だもんな」
「…嫌味ですかィ。そんな」
怖いこと、そんなもんありますよ。
あるに決まってるじゃねぇですかィ。

「俺は、近藤さんが危険な目に遭うのが怖ェです。真選組が危険な目に遭うのが怖ェです。
アンタが死ぬことが、怖ェです」
「…やっぱいいわ、お前」
「は?」
俺の言葉を聞いた旦那がしみじみと息を吐く。
そしてぽん、と俺の頭に手を置いた。

「俺も怖ェよ。死ぬことは。お前らに会えなくなるのも、お前らの中の思い出になっちまうのも」
そしてそのまま髪をわしわしと掻き回される。
「ちょ、旦那…ッ。やめてくだせ…」

「総悟、好きだよ」

旦那の手を掴んで止めさせると、今度は唇が降りてきて髪にキスを落とされる。
「…俺も、俺も大好きでさァ」

いくら公園の隅とはいえ、平日の昼間。
ガキやその親共がいるわけで。
「沖田くん、落ち着きなさい」
勢い余って抱きついた俺を旦那が優しく引き離す。
「場所を考えようね」
「…すみません」

旦那が立ち上がる。
俺も上体を起こした。
「万事屋来るか?茶くらい出すぜ」
「行きやす!」
笑顔と共に手が差し出される。
俺はその手を握りしめた。
「行くか」

右手には温もり。
あぁ、俺って愛されてる。

 
銀沖。サイト初の甘。
終わり方を考えてなかった。
あれれ、甘いのか?

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!