幼馴染奇談A

しゃくしゃくと、果物をかじる音だけが響く。

お互い幼い頃から同じ町に住んでいたにも関わらず、話す話題の少なさに、スノウは人知れず困惑していた。

いきおい、思いつく共通の話題は、クールークとの戦いの時の事か――共通の幼馴染、ジェドの事になる。






いきなりその話題に飛びつくには気まず過ぎたスノウは、とりあえず互いの近況へと思考を移した。

「・・・羽振りがいいって言ってたけど、今日は、バジルはもう仕事はないのかい?」

「んー、仕事ねー。海上騎士団の団長が変わる度に治安が良くなるから、最近は時間ずらしてんの」

けろりと言い放ちながら、バジルはまたリンゴをかじる。

「そろそろ、副業の割合増やした方がいいかな、って感じかなー?」

「・・・副業って・・・・・・治安って・・・」

思わずうろん気な目になるスノウの前で、バジルは青空を背に笑った。

「うん!!後ろ暗いヒミツのお仕事!!」

「言い切ればいいってもんじゃ・・・ああもう、騎士団に通報した方がいいのかなぁ・・・」

「もう多分、ケネスには諦められてるよ?」


現副団長の名前が入った抜け目ない自己申告に、スノウはがっくりとうなだれた。








「何でまたケネスは・・・って、ああ、そうか・・・。ジェドの時の・・・」

弱々しくツッコミつつ、自分で結論を出し、スノウはため息を吐きつつ、うつむいた。

「話が早いね。そ、密航屋さん。って、何スノウまた暗くなってんのさ。町の人間のほとんどが終わらせてる話題、まだ1人で気にしてんの?」

「気にしないわけがないだろう?僕のせいでこの町が・・・」

スノウの懺悔を背景音に、バジルは足をぶらぶらさせた挙げ句、好き勝手なリズムを刻みながら、踵で木箱を叩く。


「まー、気にしてなかったらなかったで、叩かれる理由になるから、それくらいがちょうどいいのかもね〜。反省するだけマシって感じ?・・・あーヤダヤダ、そんなんだから権力者なんてなりたくもないし、関わりたくもないんだよねー」

「・・・権力者に、恨みでもあるのかい?」

「ん〜。まー、ジェドに会った時が、ちょうど秘密知った俺が殺されそうだった、ってのはあるけど、それとはまた別の話」

バジルの笑顔が、清々しく輝く。

「単に儲けにもならない危ない話と、無能なくせに意味なく偉そうにしてる権力者が、生理的に心底大っ嫌いなだけ」


――スノウの心に、必殺の勢いで何かが突き刺さった。


「一番上の奴を指差してあざ笑うのって、底辺にいる人間の嗜みで楽しみだよね〜」


今にも歌い出しそうなバジルの声を聞きながら、スノウはくじけて折れそうな心を、先程の「反省するだけマシ」という言葉で支え、何とか質問を続けた。

「・・・何で、底辺じゃないと駄目なんだい?僕の時は・・・」


スノウの脳裏に、かつてラズリルの町民に受けた仕打ちが浮かぶ。

恨んでいる訳ではない。

今では、ある意味自業自得だったのだと分かっているし、納得もしている。

――だが、それでも、思い出すつど、スノウの胸は鈍く疼いた。

「はい、そこが違うトコー」

バジルは独特のペースで、スノウをビッと指差した。

「そーいう奴らって、普通こっちの事景色以下にしか見てないもんでしょ?こっちを人間扱いしてない奴らなんて、こっちも人間扱いする必要ないじゃん」



――バジルには余程経験に裏打ちされた、確固たる人生哲学があるように見えたが、この話題にかけては、スノウの方にも反論があった。


「・・・オベル王や・・・ジェドは、違ったじゃないか」

「まぁね。ジェドは置いとくとしても、世の中って広いみたいだね〜」


持論をひるがえされてもこだわる様子なく、バジルは飄々と言い放つ。

――スノウは、何度目かの肩すかしを食わされた気分になり、路地裏の壁に寄りかかって思わず天を仰いだ。





「だから、また何か暗くなってない?」

スノウの様子に、バジルは早くも2個目のリンゴをかじりながら首を傾げ――欠片が喉につまりかけ、苦しそうに胸を叩く。

「俺、別にスノウの事恨んでないよー?クールークに無血開城したから、少なくとも誰も怪我してないし」

ようやくリンゴを飲み込めたのが嬉しいからか、バジルはいつにもましてスッキリとした笑顔だ。

「愛想つかした町の人間は、沈みかけた船から逃げるネズミみたいに、ラズリル見捨てて退散しようとするから、逃がし屋もガッポガッポ儲かって美味しくてさ〜!!ハイエナ稼業的には一度お礼しなきゃ、って思ってたんだ〜!!」


――どうやら、今食べているリンゴも、そのお礼の一巻なのだと、スノウはようやく気付く。

バジルの笑顔には、裏はない。




だが、裏が無ければいいというものでもないという事を、スノウは先程までの比ではない言葉の暴力に打ちのめされながら、悟った。

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あきゅろす。
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