双頭激突A
「――それじゃはっきり言わせてもらいますが、リノ王、あなたは自分の娘を何だと思ってるんですか?継承権が下がる事は、戦いの中にいるフレアにとってはむしろ望む所なんですよ。オベル命のフレアにとってみれば自分が死んだとしてもオベルの存続が約束されるわけですから!」
「・・・・・・・・・うぐっ・・・!!」
思わず呻いたのは、オベル王が先か、家臣団が先か。
その微妙な空気にかまわず、ジェドは立て板に水の勢いでまくし立てる。
「確かに、守るべき民の存在はフレアの足枷であり、同時に王女の暴発への人質足り得るでしょう。でも、民を思うからこそのフレアから、枷が減るのは危ないんですよ、ものすごく!!」
――余談であるが、当の王女が祖国占領時、まったく同じような論法で、忠臣によって脅迫を受けた事を、この時の彼らはまだ知らない。
「――フレアは『私がオベルの盾になる』と確かに言いました。継承権と言う枷が外れたフレアなんて、導火線に火のついた爆弾と一緒ですよ!?」
――いくら親しいとは言え、一国の王女を差して随分な言い様だが、誰も気にした様子はない。
「・・・お前、人の娘に向かって散々な言い様だなー」
率先して怒るべき父王は、呆れながらも納得の面持ちである。
フレアを直接見ていない海賊連中や仲間はどことなくうろんげであるが、短いながらもオベル脱出前に交流のあった面々は何となく納得し、忠実なるオベル家臣団は、申し合わせた様子もないのに、しっかりと目をそらしあっていた。
デスモンドにいたっては、涙目で胃の辺りを抑えている。
「いくらオベルの民が枷になってくれるとは言え、あわよくば、とばかりにトロイの暗殺くらい企みかねませんよ!?初心者には酷ですから、アレ!!慣れない内は、武術に疎くて油断だらけ隙だらけな人材・・・フィンガーフート伯くらいから始めた方が無難ですから!!」
――壁の隅で話を伺っていた流刑騎士団メンツ、ことケネスとタルは思わず、といった体でぼそぼそと会話を交わす。
流刑以降、むしろ色々と生き生きしてきた親友に対して、ケネスが向ける眼差しは複雑なものだった。
「・・・そんな、『初心者はカレーから』みたいなノリで暗殺を奨めるな」
「まぁ、元雇い主っていっても、全く庇ってくれなかったしなー」
「いや、そういう恨みがあるのならむしろいい・・・かどうかは分からないが、そういう心情はたぶんないだろう」
――ラズリルを出る前夜、鉢合わせになった少年、バジルの言葉を思い出す。
『あいつに尽かす程の愛想、あるのかな〜?』
『スノウ坊ちゃまっていうより、むしろフィンガーフート家との契約が切れた、ってだけじゃないの?』
――スノウよりよほど正しくジェドの幼なじみにあたる少年の言葉は、確かに正しかった、とケネスは確信した。
タルも似た事を思いだしたのか、腕を組んでうんうん頷いている。
「確かに、単に思い出したから言ってるだけみたいだしな〜」
「・・・というか、ジェド。グレン団長も一目置いてた程の『海神の申し子』トロイを『アレ』呼ばわりとは・・・よっぽど逆上してるな、珍しい」
「リノ王相手だと、結構スラスラ喋ってるよなー、目上なのに。何つーか、楽しそうで良かったよなー」
「まぁな。・・・しかし、このままだと始まらないな。楽しみ過ぎて」
ケネスとタルが、もはや弟の運動会を見守る保護者の心情を理解しつつある一方、ジェドとリノの論争は、ヒートアップの一途を辿る。
「そういう訳ですので!以上の理由を持ちまして、俺を後継者に、なんて世迷い言は、娘の命が惜しければ、冗談が冗談の内に即刻撤回してもらいましょうか」
「・・・お前はどこの誘拐犯だ…?」
リノのツッコミの言葉が、虚しくその場に響いた。
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