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短編
2011年バレンタイン
3Z沖神



「フォンダンショコラがいい。」

「……?」

「バレンタインだよ。オレはフォンダンショコラが食べてぇ。」

「…どうぞ。」








2011年バレンタイン









「なんでィ。くれねぇの?」

「あ、ほしいアルか。」



それはバレンタインまで1週間となった日の放課後。


「どうして意外そうな顔してんでィ。」

「毎年たくさんの女の子にたくさんのチョコもらっているから、わたしからはいらないと思ったアル。」

「そんなの、別にほしいって言って毎年もらってるわけじゃねぇし。」

「それにわたしがおきたにチョコをあげる義務なんてこれっぽっちもないネ。」

「………そーだけど。」


仲良く帰る2人の関係は友達以上恋人未満だ。



「別にくれたっていいだろィ。」

「ん〜。」

「楽しみにしとく。」

「………考えとく。」



いつまで経っても進展しない2人の仲が動く季節になった。

今の関係をどうにかしたいのは2人の友人だけではなく、お互いもである。

想いを伝えるタイミングも言葉もなくしてしまうほどの近い距離は、バレンタインをきっかけにどうにかすることができるかもしれない。



沖田はバレンタインをきっかけに2人の関係を変えるつもりでいた。

お互いがお互いの気持ちに気付いているのに、意地や照れが邪魔をしてそれを口にすることができないでいた。

本当はクリスマスに想いを告げるつもりだったが、2人で別の友人と過ごしてしまいタイミングを逃している。

なんとかしたくてチャンスをうかがって今がやっと現れたチャンスなのだ。

今は逆チョコなど流行っているが、自称肉食系男子の沖田自身は神楽にチョコをわたさないつもりでいる。




なんとか、想いを伝えたい。





2人の想いをシンクロさせて向かえたバレンタイン当日。






結果的には何ももらえなかった。



今現在、放課後の下駄箱前までは。




散々楽しみにしていた神楽からのバレンタインチョコは、チョコのチの字も漂わせることはなく、
沖田から神楽に話し掛けても「あぁ、」や「そうアルな」などそっけない。


楽しみにしていたチョコへの期待は段々と薄れていき、放課後になると沖田の執着心は抹消され、逆チョコを用意すればよかったのではないかとまで考えはじめて、それはイライラに変わり始めていた。




「おきたっ……!!」




靴箱から靴を取り出そうとしていた時である。

いつもの瓶底眼鏡をはずした神楽が息を切らせて沖田に向かって叫ぶ。


「帰るのはまだ早いアル!!」


そう言いながら沖田の手を掴み早足で歩き出す神楽。

そんな神楽の姿を見ながら今までの後悔と焦りが全て吹き飛び、「おせーよ」と笑いながら手を握り返すのだ。







着いたのは家庭科室。

机に座らされて目の前に出てきたのはフォンダンショコラ。


「……まじか。」

「まじアル。」

「どこで買ったやつ?」

「手作りアル。バカ。」

「まじか。」

「まじアル。」



机の上のフォンダンショコラは湯気がたっている。
きっとこれを温めるために家庭科室を選んだのだろう。


「放課後すぐに準備したかったのに、銀ちゃんに呼び止められて大変だったアル。おきたはすぐに帰っちゃうし準備しなきゃだし、わたし廊下めちゃくちゃ走ったネ。」

神楽は口を尖らせながら話す。

「銀八、なんだって?」

沖田はフォンダンショコラにフォークを入れる。

「なんか、オレは甘党なんだよなーとか、チョコ大好きなんだよなーとか。」

「知ってんな。」

「知ってるアル。」

「神楽はなんて?」

「そんなの知ってるって言ったら帰してくれたネ。なんとなく、銀ちゃんの背中寂しかったアルな。」


ははっと笑う沖田は会話中に食べ終わったフォークを皿の上におく。


「おいしかっただロ?」

「自分で言うな。」

「自信があるアル。」

「どうして。」

「1ヶ月前から練習していたから。」


沖田の目が見開く。


「オレそんな前からフォンダンショコラ食べたいって言ってたっけ?」

「ウウン。わたしが1ヶ月前からフォンダンショコラをバレンタインの日におきたに食べてもらいたいって思ってたアル。だからこの前おきたからフォンダンショコラを食べたいって聞いてびっくりしたネ。」

「すげーな。テレパシーかよ。」

「そうかもナ。」


なんとなく目が合う。


「なんでィこれならもう」








「付き合うしかねーな」
「付き合わないとダメだナ」










そこで再び目が合って、
気がついたら手と手が重なっていた。


ははっと笑いながら大きく息はく。


「…………やっとだ。」

「ウン。」

「なぁ、フォンダンショコラもう1個ねぇの?」

「ある。たくさんある。」

「食べる。」

「わたしも食べるアル。」



それからいつも通り、たわいのない会話をしながら2人でフォンダンショコラを食べた。








翌日の朝は、バレンタインの日の沖田と神楽の様子を扉の影から見ていた3Zの生徒の何人かによってミュージカルショーが開催されており、時間かからず全校へと広まっていった。













あとがき
意地っ張り通しのバレンタインを書きたかったんです。相変わらずの日にち過ぎてからの更新ですが。
銀ちゃんは神楽の邪魔したかったんです。

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あきゅろす。
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