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短編
2010年クリスマス
3Z沖神



2010年クリスマス






「ほらよ。」

手渡されたのは携帯電話。

「………誰のアルか?」


見上げる神楽の眉は若干下がっている。


「神楽の。
………クリスマスプレゼント。」


そう言う沖田の顔は照れ隠しで横を向く。




本日は12月24日。
クリスマスイブなのだ。





「クリスマスプレゼント!!」

そう言いながら手渡された携帯をいじり始める神楽の鞄から何か出てくる様子もなく、沖田へのプレゼントはないようだ。


「それでさ、」


いじる携帯の画面にゴツゴツとした大きな手が現れ、上を見ると沖田の顔がすぐそこにあった。


「前々からクリスマスは24日じゃなくて25日に過ごそうって言ってただろ?あれさ、無理になっちまった。」

「どういうことアルか?」


以前クリスマスはどうするか話をしていた時に神楽が24日に過ごすのは無理だから25日だけ一緒に過ごそうという話になっていた。


「…剣道部の忘年会が急遽25日に決定しちまった。全員が絶対参加だと。近藤さんのいうことはさからえねぇ。」


もちろん、近藤がクリスマスにお妙と過ごせなかった腹いせがこれである。


「そんな…困るネ!!今日は無理アル!!」


神楽の顔からは汗が流れ始める。

「なんか外せない用事があるとか?」

「いや用事はないんだケド……」

「じゃ、今日でいいだろ?」

「今日は駄目アル!!」

「どうしてでィ」

「や、理由は……」

「はぁ?」



沖田が何度24日にしようと言っても「駄目」「無理」ばかりで、理由を聞いても口を割ろうとしない。
しまいには


「もう!!どうして25日に忘年会アルか!!そーごサボってヨ!!」


とかいう始末。


「神楽が25日じゃなきゃいけねぇ理由を言ってくれんなら忘年会の合間を抜けて神楽に会うって!!でも駄目とか無理とかじゃ話が解決しねぇだろ!?」

「だって……!!」


神楽の視線は完全に泳いでいてこちらに合わせようとしない。


「………もういいアル。クリスマスに会うのはやめよ!」

「はぁ?」

「そーごなんて知らない!!」


そう言って校外へと走り去る神楽。
これから授業だというのにどこへ行くのだろうか。


「おい神楽ぁ!!」


もちろん振り向かない。


「―――なんでィあいつ。」


小さくなっていく恋人の後ろ姿に向かってつぶやいた。







その日の授業に神楽の姿はなかった。

朝の沖田との喧嘩を見ていたクラスメイトが理由を聞きに来たが、神楽がいない理由なんて沖田にはわからない。
確かに喧嘩の当事者ではあるが。



しかし今日はクリスマスなのだ。

周りのムードを見ていると、沖田は今日喧嘩したことをちょっとだけ後悔するのだった。















太陽が沈み空気はひんやりとしている。



神楽は制服のまま夜道を歩いていた。



「どうして喧嘩しちゃったんダロ。」



鞄を抱きしめながら空を見上げる。


付き合い初めてから初めてのクリスマス。
プレゼントは気合いを入れたかった。


お妙に一から習ったし、似合わず本を読んだ。

…―知恵熱も出た。




渡して喜んでもらうはずだったのに喧嘩してしまったら意味がない。


携帯だって嬉しかったのに、お礼を言えていない。


だから今向かっている進行方向は間違っていない。


本来25日のこの時間に待ち合わせをしていたのだ。





すると制服のスカートのポケットから控えめに音が鳴り響く。


今日もらったクリスマスプレゼントはなかなか使えずにすべてが初期設定のままだ。


画面を見ると『王子様』の文字の下に数字の羅列がある。

そしてこの携帯には沖田の番号しか登録されていないはずだ。



神楽はゆっくりと通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。



「もしもし」

「どこ。」

「開口一番がそれアルか。」

「今どこ」

「………学校の前。」

「……俺も。」



銀魂高校の校門の前の道の端と端で2人は向かい合っていた。


「チャイナァ。生足晒してると風邪引くぞ。」

「うるさいアル。ジャージはき忘れちゃったの。」


携帯を耳につけたまま、2人の距離を縮める。


「だいたい何アルか。電話が鳴った時の『王子様』って。センスなさすぎネ。」

「チャイナにとっての王子様だろーが。センスは有り余ってる。」

「どこが。」



2人の距離は縮まりきって、気付けば校門の前だ。


沖田は神楽の携帯を取り上げて通話を切る。



「今日何してたんでィ。」

「いきなりサボりやがって。」

「そんなに俺と明日過ごしたかったのかよ。」


沖田の顔は不機嫌そうだ。

この時の沖田の顔は自分に非がないと思っているときの顔だと、神楽は付き合い始めてなんとなくわかった。


「そりゃ俺も当日になって言ったのは悪かったけどさ。」

「もうちょっと融通利かせてくれてもよかったんじゃねーの?バイトしゃねーんだし。」


沖田がそんなことを言っている間、神楽は鞄の中を漁っていた。
沖田の眉間にシワがよる。





出てきたのは、青色の毛糸で編んだ手編みのマフラー。






沖田の顔の前に突き出して、顔はどこかを見ている。


「…クリスマスプレゼント。」


なんとなく神楽の顔が赤くなった。


「1ヶ月前から編んでたんだケド、どうしても24日には間に合わないと思ったからそーごと過ごすのは25日がいいって言ったアル。」

「それでもそーごが25日は無理になっちゃって、
わたしは25日に合わせて作っていたから今日は当然出来てなくて、
だから25日に待ち合わせだったこの場所のこの時間までに編み上げられるように、今日は授業には出ずに家に帰ったアル。」

「……受け取ってくれる?」



神楽の上目遣いが堪らなくかわいかった。


確かに神楽はマフラーの理由をうまくごまかせるような奴でない。
「無理」「駄目」は理由の代用された言葉だった。

それに気付いてやれなかった自分が悪かったなと言葉に出さずに反省する。


そうでなくても手編みのマフラーを用意していてくれたことが本気で嬉しかった。


「ん。」


沖田は少しだけ屈んでいる。


「首が寒ィ。」


神楽は沖田の顔が急に同じ位置にきてかけやすくなった首に自分が編んだマフラーをかける。

そしてマフラーを2周巻いたところでふわりと抱きしめられた。


「……あったけぇ。ありがとう。」

「わたしも。携帯アリガト。」


神楽は沖田の肩に顔を埋める。


「このマフラー、神楽が編んだのか。」

「ウン。マフラーなんて編むの初めてだから上手くできてないケド…」

「確かにな。」

「なっ!!」

「でもめちゃくちゃあったけぇ。」


沖田の腕の力が強まる。


「……当たり前アル。愛がめちゃくちゃこもってるモン。」

「あぁ。」

「ね、」

「ん?」

「携帯、返してよ。」

「…あぁ」



2人は少し離れ、沖田はポケットに入れていた携帯を取り出す。


しかし少し考えた顔をしたあと、またポケットに携帯をしまった。



「?」

「やーめた」

「は?」

「明日渡す。」

「明日は剣道部の忘年会だロ?」

「サボる」

「…はぁ?」

「今日ちょっとしか会えてねぇのに、明日忘年会なんか参加してられっかよ。」

「クリスマスは神楽といてぇ。」



神楽は唖然としていたが、神楽の手をとり歩きだす沖田の背中を見たらふわりと笑うしかなかった。


「そーご、クリスマスケーキ買ってこ!!」

「あぁ、安くやってるもんな。」

「あと北京ダック」

「おぅ。買え買え。」

「シャンメリーも。」

「いいな。」

「全部そーごのお金で!!」

「全部却下な。」





繋がれた手と手はしばらくの間ずっと温かかった。










あとがき
現在2011年1月10日です。
シーズンは見事に過ぎているんです。
でもこのネタは思いついたから書きたかったんです。過ぎたっていいじゃないですかー!!
今年のクリスマスは頑張ります。




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