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短編
お話の中で
この話は前作の『2010年神楽誕生日』を読んでから読むのがよさそうです。







お話の中で




11月3日は毎年ごく普通の日だった。



だから普通に仕事で江戸を出ることができたし、それに集中することもできた。




神楽の誕生日が今日と聞かされたのはついさっきのこと。


俺は江戸の町並みを眺めることすら忘れて必死に走る。


どうしてここまで必死になっているのだろうか。
別に俺と神楽は付き合っているわけでもないし、顔を合わせたらすぐに喧嘩をするような中だ。




でも俺にとってはもう、それだけじゃない。




出会った時から片想いだ。



―――最初は一目惚れだったんだと思う。

ずっと目で追っていたし、すぐに喧嘩をしかけようとした。


その喧嘩にのってきてくれるチャイナに嬉しい思いが募って募って、『好き』の気持ちがどんどん大きくなっていった。




ひたすらネオンが通り過ぎる。
万事屋銀ちゃんが見えてきた。




今日が誕生日。
片想いの俺にとってはどうしても祝ってやりたい記念日だ。



普段から全然会うこともできないし、会ったとしても最近はすぐに喧嘩になってしまう。
他にアイツに気を引く手立てがねぇ。



だから今日。
祝いたかったのさ。















「お……き…た。」

「……ようチャイナァ。」



もう秋の夜中だというのに汗は滝のように流れてきて、体力はあるはずなのに切れた息はなかなか調わない。
頭を下げ、膝に手をついて、気付かないうちに相当走っていたらしい。


でもその日のうちに会うことができて、嬉しい気持ちでいっぱいだ。



「何しに来たアルか?銀ちゃんなら今は仕事でいないアル。」



俺はチラリと神楽をみた後ゆっくりと息を整え頭をあげる。



「旦那じゃねぇ。」



1歩だけ距離を縮める。


「今日、チャイナの誕生日だろ?さっき近藤さんから聞いた。……どうしても今日中に祝いたくってな。」



髪をポリポリとかきながら言う。






「誕生日おめでとう。」








普段から知っていることだが、扉が開いた瞬間の神楽は可愛かった。

それでも目には少しだけ涙が浮かんでいた気がしたのだが、
俺の一言によって更に涙が溢れ出す。




「仕事はどうしたアルか。またサボリアルか。」




いつもの喧嘩が始まるかのような一言だ。
でも今日に限ってそれはない。




チャイナが俺の服の裾を握っているから。




「サボリじゃねぇよ。ちゃんと済ませてからこっち来た。………チャイナ、1人なのか?」


「ウン。銀ちゃんと新八お仕事行ってる。」




なんでぇ旦那。チャイナの誕生日を1人にしやがって。

でもこれは旦那の気遣いだってことぐらい気付いてる。
近藤さんは、チャイナの誕生日を旦那から聞いたって言ってたからな。




「そんで寂しくて泣いてたのか。」


「泣いてなんか「俺が、しばらく一緒にいてやるよ。」


「……お茶ぐらいはだすネ。」




神楽はうちの中に入っていった。


裾が引っ張られていた感覚が心地好かったのだが、これから一緒にいられる時間のことを考えると、裾がなくなったっていい。















お茶が出てきた。

リビングにあるソファに向き合って座る2人。



気まずい空気が流れていた。



顔を合わせた瞬間は会えた嬉しさや、お祝いのセリフを伝えることができてお互いの胸の奥が満たされた感覚になったのだが、今はその先にきている。

その先は、想定の範囲外だ。

テレビが着いているわけでもなく、ただシンとした部屋の中にお茶をすする音だけが響く。



時計は短い針が9と10の間を指していた。




「今日は……」

神楽のソプラノが控えめに響く。

「江戸にいないって銀ちゃんに聞いてたアル。」

沖田はあぁ、と腕を組みながら答える。

「真撰組の頭脳強化というか。地方から頭のいいやつを真撰組に引き入れたり、真撰組自身も知識を増やしたりっていう日で、江戸じゃ集中できねぇってんでちょっと地方行ってきた。」

「ふぅん。沖田、……勉強してきたアルか?」


神楽は信じられないと言ったような顔をする。


「俺は他のやつらの監視役。」

「あぁ、どれだけ勉強しても意味ないから?」

「どつくぞ。」


神楽はふふと笑う。


「チャイナは――今日お祝いしてもらったのか?」

「ウン。銀ちゃんがね、ケーキを手作りしてくれたネ。それを姐御とか九ちゃんヅラエリーと8等分したからケーキがすごく薄くなっちゃった。」


沖田は指を1本ずつ折り曲げながら、
「ケーキ1個余るけど、でけぇ狛犬に食わせたのか?」と首をかしげる。

「定春は食べられないアル。………あれ、あと1個どうしたんだっけ。」




…………………マダオ。






そうやってたわいのない話をしていた。
まるで仲のいい兄妹のように。



「沖田、お茶のおかわりいるアルか?入れてきてやるヨ。」


そう言われて沖田は自分の湯呑みを見ると、中はからっぽだった。


「あぁ、俺がいれるからチャイナは座ってろよ。」

「オマエは客なんだから、わたしにもてなされろヨ。」

「テメーは誕生日なんだから、俺にもてなされろよ。」



そう言いながら沖田は立ち上がる神楽の前に立ち、神楽の手から急須を取ろうとする。




目と目が合った。

一瞬の間。





この距離が、
この静かさが、
この状況が。


望んでいたような
望んでいなかったような


嬉しいような
そんなことないような。




一体どういう状態なのだろう。










「沖田。」






目と目が合ったそのまんま。






「わたし、今なら言えなかった気持ち、言える気がする。」

「………俺も。」


神楽は一層距離を縮める。

「わたし、ずっとずっと、沖田のことが――…」









ゴトンと急須が落ちる。






部屋におちる影が1つとなっていた。







「ずっと好きだった。」


沖田は神楽の背にきつくきつく手をまわし、神楽が逃げていかないように閉じ込める。



「先に言うなヨ。」


神楽は逃げる様子もなく、沖田の隊服を濡らす。



床に落ちた急須からは少しだけ残っていたお茶が流れだして、それを止めるものがない。





そうやって長年の片想いが同時に2つ叶った11月3日であった。








「…おきた」

「ん?」

「…………あせくさい」

「……うっせー。」







あとがき
かぐ誕完結です。
実は裏話があって、銀ちゃんの手作りケーキにお酒か本音薬みたいなもの(明確ではない)が入っていて、それによって神楽ちゃんが素直というか大胆になって、そーごもそれにつられて頑張ってみたという銀ちゃんの思惑通りになったお話なんです笑。


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あきゅろす。
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