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短編
傘と木陰とドSと私
沖神





傘と木陰とドSと私






よく晴れた日の午後。

季節は春だというのに、夏が始まったといわんばかりに太陽がサンサンと照らし、室内にいても額にはジンワリと汗が滲み出るぐらいに暑い。


これは仕事をしちゃいけねぇと頓所を抜け出し、サボりという名のパトロールに出かける沖田総悟。


しかし外に出ても風はなく、日の光りで汗は増すばかりだった。



――――神楽は、今頃何をしているんだろうか。



万事屋とは、会いたくなくても会ってしまう。行くところに必ずいる。
この腐れ縁に後押しされて、俺は神楽を好きになった。


恋人になったのもつかの間。腐れ縁を使うこともできずに、しばらくの間神楽と会っていない。


万事屋は年中暇なのだから俺が休暇を取ればいいのだが、最近は攘夷浪士が暴れてくれやがってなかなかそうはいかない。
………年中サボっている俺が言える事じゃねぇがな。




暑いことを理由にアイスでも食べようと駄菓子屋に向かう。
これでうまいこと酢昆布を買いにきた神楽に出くわしたりできたらいいのだが…。


その駄菓子屋へ向かう最中、公園の真ん中によくそこで遊んでいるガキ共がある物体に群がっていることに気が付いた。


どうせ巨大な狛犬あたりが捨てられているんだろうと思ったのだが、チラリと見えた物体が赤かったら話は別だ。


世の中赤い物が落ちているなんてそうそうあることじゃねぇ。あるとしたら……財布ぐれぇだな。


そしてその赤いものに見覚えのあるような…
最近見ていない
俺の愛しい、



「神楽!!」



沖田はガキを掻き分け神楽に近づき、抱き抱える。


神楽の顔は真っ青で、夜兎特有の白い肌が一層青さを強調させる。
その顔を見て、沖田も顔が真っ青になる。


「てめぇら!!神楽に何しやがった!!」


沖田は周りのガキを睨みつけながら叫ぶ。


「なにもしてねーよ!!俺達がここに来たときにはすでに倒れてたんだ。」


がき大将と思われるタラコ唇デブが答える。


「呼んでみてもずっと倉庫ってつぶやくだけだし…」

「倉庫?」


最近のくそガキは何を言っているのかイマイチわからねぇ。
ガキ共が 何かしたわけではないようなら、きっと原因は日の光に当たり過ぎたせいだろう。
愛用の傘が見あたらねぇ。


とりあえず日の当たらないところへと、10mほど向こうにある木の木陰へと移動する。
なぜかガキ共もついて来る。














今日は天気がよくなることは知っていた。
暑くなることも。

テレビでお天気お姉さんが言ってた。

新八にも今日は特に傘が必要だって言われてた。

銀ちゃんは興味なさそうにジャンプを読んでた。


それでも傘を持たずに外へ出たのは、今日は青空を見たい気分だったっていうのと、
……もし日の光で倒れても、今日はそーごが助けてくれる気がした。

しばらく会えていないけれど、どこで倒れたって、私の名前を呼び続けてくれる気がした。


なんとなく、そんな気がした。


だから案の定倒れて苦しくても、私もそーごの名前を呼び続けたの。
気づいてもらえるように。






―――身体が涼しくて、気分がだいぶ楽になった気がする。

そろそろ意識が戻る。
まぶたが軽くなり、自然と明るさが目に飛び込んでくる。











「神楽、」

「そーご…?」

「……………やっと起きた。」



沖田は額から流れる汗を拭いながら、神楽にポカリを渡す。


「これ……。」

「あぁ、ちょっとひとっ走りして買ってきた。その冷えピタと。」


沖田は神楽の額を指差す。

「もういねぇが、公園で遊んでたガキにちょっとだけ神楽を見てもらってる間にな。あと万事屋から傘も持ってきたぜィ。」


神楽に平行に紫色の見慣れた傘が横たわっている。


神楽は公園の1番大きな木の1番大きな木陰で、木にもたれ掛かっていた。
額には自分の額より少し大きい冷えピタが貼ってある。

沖田は神楽の隣で木にもたれ掛かっており、なぜか沖田の額にもぴったりとちょうどいい大きさの冷えピタが貼ってある。


「……はぁー…。今日は暑ィなチクショー。」


沖田は上着を脱ぐ。


「そーご…私がなんで傘を持っていないとか、聞かないアルか?」


神楽はポカリを持ちながら俯く。


「んー?まぁ、傘を持ちたくなくなる日もあんだろィ。」


少しだけ、風が吹いてきた。


「……ごめんアル。………私、倒れてもそーごが必ず助けてくれるって思ってたネ。」


沖田は神楽を見る。
神楽は俯く。


「たぶん…全然会えなくて、そーごの気を引きたかったんだと思うネ。」


神楽は涙声になりながら、ゆっくりと話す。


「こんなに長い間会えなくなるなんて思わなかった。それがこんなに寂しいことだなんてっ……」











沖田はそのまま神楽を抱きしめていた。


神楽の手からポカリが落ちる。









「…………心配した。」



肩に顔を埋める。



「神楽が倒れたことも。全然会えなかった時も。」



神楽は沖田の背中をギュッと掴む。



「今何やってんのかなとか思ってたら、神楽倒れているんだぜィ。心臓……止まるかと思った…。」

「私、もう元気になったアルヨ?」


2人はお互いの顔を見る。


「あぁ、それはよかった。。」


眉を下げ、神楽の頬を撫でる。


「ウン。そーごのおかげアル。……アリガト。」

「本当だぜィ。こんな暑ィ中走って汗だくになるしよ。ご褒美の1つでもねぇと割に合わねぇよなぁ。」


神楽の眉間にシワがよる。


「………何を望んでいるアルか。」

「そうだねィ…」


沖田は神楽の肩を掴み、顔に近づく。神楽の肩に力が入る。





「そのポカリを俺にくれや。」


沖田はニヤリと笑う。


「……ポカリ?」

「キスするかと思ったかィ?」

「なっ!!」

「なんでィ。そんなにちゅーが好きなのかよ。」

「そーごが紛らわしいことするからネ!!」

「俺は顔を近づけただけだぜィ。」

「それなら、どれだけ顔を近づけられるか勝負アル!!」

「いいぜィ!!かかってきやがれェ!!」











「あーあ。どうせあの後ちゅーしちゃうんでしょ。もう見てらんねぇよ。」

「でも、神楽ちゃん元気そうですね。これなら様子を見に行かなくてもよかったんじゃないですか?」

「だって、あの2人が普段何やってるか気になるだろ?様子見に来るなんて、見つかった時の言い訳だよ。言い訳。」


ジャングルジムの後ろにある2つの影。

1つは天然パーマ
1つは眼鏡。


神楽が倒れたと汗だくになって傘を取りに来た沖田見て驚いた2人は、「だから傘を持てって言ったのに」「ジャンプ読んでたのに」などとぶつぶつつぶやきながら沖田の跡をつけてきたらしい。


もちろん2人の普段の様子が気になるなんて理由はただの言い訳で、神楽の元気そうな様子を見て安心している。


「さぁ、帰ーるぞ。新八ィ。」


そう言葉を残して立ち去った10m先の木陰の中では、唇と唇が重なり合う気配がした。







あとがき。
よくある日の光パターンをやってみたくてやってしまいました。風が2人の寂しさを表しています。銀さんと新八の出演は管理人にもびっくりのことで、「知らない間に勝手に出てきたー!!」って1人で笑っていました。……自分で考えたのにね。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました(^-^)






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