越えてはダメ 「あれだけ計算高いあのコが、損得勘定しなかったって言うんだから! アナタとの事をね。」 「私…。」 けど…、私は失格だと思う。 彼の妻として。 彼を愛する者として。 形は違えど『側にいる人間』として、アーヤサンより私は格下…。 私は、心の中で泣いていた。 「気持ちだけじゃ、どうしようもない事もあるの。この残酷な現実にはね。 愛してる。 それだけで何もかも叶うなら、誰も涙は流さないわ。」 「アーヤサンは、どうして…。」 「ん?」 聞きたい事はたくさんある。 だいたい、アッケだって詳しく知らなかった話し。 それを何故龍二サンが知っていたのか…。 「なぁに?」 彼女は押し黙った私に、優しく問いかける。 「…いえ、なんでもないです。」 誰にだって触れられたくない過去を持っている。 私にも、ある。 私は彼女の『聖域』に踏み込んじゃいけない。 夫の仕事仲間。 そして彼女からしたら、仕事仲間の妻。 私たちの関係は、ただそれだけ。 [前へ][次へ] |