5 「ホレ、あったぞ。」 オレがクッキー片手に呆けていたら、アニキがビデオテープを持ってリビングに入って来た。 「おォ、帰ってたんか。つーか曙覧オメー、それ何!?」 それを目ざとく見つけられた。 「オレんじゃねェよ、龍二の!」 「だろうな。オメーにゃ手作りクッキーもらえるほどの甲斐性ねェよな。」 ムカつくが、事実だ。 「あーざーす!」 龍二はクッキーには目もくれずビデオテープに一直線。 「オイ、それなんのビデオょ?」 手作りクッキーよりいいもんなのか。 「ペイサーズ。先週の。」 「は?」 ペイ…?あんだって? 「NBAの試合。残念ながらオメーが期待してるようなビデオじゃねェぜ。」 「なんも期待なんかしてねェし!」 ッせーな、バスケバカ共が! 「櫂先輩、『見てないんなら紫亘先輩に借りろ』って。」 「おォ、レイちゃん元気?もうすぐWリーグだべ?」 「28日から。すごいピリピリしてるよ。」 「そらしょーがねェだろ。」 「紫亘先輩の『地獄の特訓』を知ってる俺ら2年は平気だけど、1年なんか半ベソもんだよ。」 と、龍二は笑った。 そう。オレの目の前で、今ヤツは笑っている。 コイツのドコが『暗い』?『しゃべらない』? お前どんだけ二重人格なんだよ、とオレは心の中で憎まれ口をたれていた。 「じゃあまたね。」 「なにお前、帰んの?」 龍二はタバコを消してビデオテープをリュックにしまった。 「うん。これ見たいから。」 そう言うと、ヤツはさっさと帰ってしまった。 クっソ。女にドヤされていたの、からかってやろうと思ってたのに。 つーかこのクッキー、どーすんの…? [前へ][次へ] |