3
さわさわと吹く風が、少し長めの龍二の前髪を揺らした。
下から、整った黒目がちな瞳が覗く。だがそれはメガネのレンズに邪魔されていた。
「あの…、聞きたい事があるんです。」
ついに意を決した女子生徒の発言にも、ヤツは一切表情を変えはしない。
「絵里香は、どうしてダメだったんですか?」
「え?」
乱れた髪を邪魔そうにかき上げながら首を傾げる。
「石垣 絵里香です。3日前、センパイに告白した…。」
オレ達は思わず顔を見合わせた。
「ああ。俺、ちゃんと理由を言ったと思うんだけど、それで納得してもらえなかったのかな。」
疎んじているような様子はないが、その態度は頑なだった。
これ以上話す事などない、と。
「あ…っ。そう…だったんですか…。」
視線をそらしてうつむく女子生徒。
その向かいに突っ立っている龍二。
どちらも交わす言葉はもう、ないらしい。
「…。それじゃあ。」
「あ。待って下さい!」
龍二はいくらか気怠そうに振り向いた。
「阿部センパイのウワサ、本当なんですか?」
「どっちの?」
「え?」
ヤツは短いため息をついた後、吐き捨てるようにこう言った。
「2年の阿部 真由美か3年の阿部 典子か知らないけど、どっちも俺がフッたってウワサなら本当だよ。じゃあ。」
女子生徒3人は、唖然としていた。
もちろんオレ達の表情も、彼女達と似たり寄ったりだった。
「はぁ〜…。」
帰り道、誰のものともつかないため息ばかりがもれる。
「しかし、意外っちゃー意外。」
「だな。」
性格はともかく、あのルックスから考えるとオレは特に意外な出来事だとは感じていなかった。
けれど、仲間達が意外だと言っていた理由はそんなんじゃなかった。
「何つーか、思ってたより普通の奴だなって。」
「は?」
他の奴らから見たアイツって普通じゃなかったワケ?
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