13
「マジで?」
「マジで。」
レイは、部員達に財布を持っているか聞いて回る。
しかし、『盗難被害防止のため』と顧問に口うるさく言われていたせいか誰も持っていなかった。
「先生ならあると思うけど。戻って来たら聞いてやるよ。」
うっわ、オレってば超ダセェ。
全員の帰り支度が終わり、相手にあいさつを済ませた。
まだ戻らない、顧問と龍二を校門で待つ事になった。
「バスケ、やらないの?」
1人だけ私服で浮いているオレに話しかけて来たのは、マネージャーの五十嵐だった。
「あァ?オレ?なんで?」
「五十嵐。なんでも何もコイツ、『紫亘先輩の弟』と思えないほど下手クソなんだよ。」
レイが横から口を挟む。
「ッざけんな!テメ、黙ってろ。」
実は、入学してすぐアニキや部員に「適性検査」を受けさせられた。
が、結果は散々。
「だから言ったじゃねェか。曙覧、ツラじゃなくて運動神経が俺に似りゃあ良かったのにな!」
そう、大爆笑された。
その時オレと一緒にいた龍二の視線に気が付いたのが、レイだった。
「やってみる?」
細い目をさらに細めて問いかけるレイに、龍二は遠慮がちに答えた。
「…でも俺、目が…。」
「試合すんワケじゃねェし!ホレ。」
アニキはバスケをやりたいヤツなら万人歓迎。龍二に向かってボールを投げた。
龍二はそれをリズミカルにドリブルし始めた。
その音がだんだんと早くなりバスケットに向かって走り出したと思った時、ドリブルの音は止んだ。
位置は、手前のバスケットのすぐ近く。
その場所から龍二はショットを打っていたのだ。
離れたボールはまるで自らがバスケットを目指しているかのようななめらかな弧を描き、そして音もなく吸い込まれた。
ボールが床に落ちた、その音で我に返る。
「スウィッシュ…。」
まさにショットに相応しい、レイの静かなつぶやきがその場に響いた。
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