11
それは第4Qが始まってすぐだった。
「10番、トラベリング!」
龍二は味方にパスする予定だったボールを、側にいた相手チームのメンバーに手渡した。
なんだっけ、トラベリングって。体育の授業では実際の試合よりルールは甘いが、コレはあった気がする。
「ボールを持ったまま軸足が動いちゃう事だよ。」
さすが毎日、隣で見てるだけあって詳しいな。女子バレー部。
「ピボットが出来てない。そんな左足痛いのかな…。」
ピボットがなんなのか分からんが、多分足首は相当痛いんだと思う。
ウチの顧問が席を立ちスコアラーに近付く。それがまたファウルになるんじゃないかとヒヤヒヤしたが、まさか先生がそんな事をするはずはない。
そんな事を考えながら向かい側から様子を見ていたら、ボールがデッドになった。
「チャージド・タイムアウト!」
審判がホイッスルを鳴らし、声を出す。
ウチのプレイヤーは瞬時に集まり、作戦会議を始めたようだ。
「この流れじゃ、浜荻君チェンジかもね。ケガしてるし。」
もうすぐ1分、という時、プレイヤー全員が龍二の背中や肩を叩いた。
そこに、熱い激励がこもっているのが見て取れる。
「えーっ、あの足でショット打てるのかな?」
聞けば、これがいつものスタイルだと言う。
大差で勝っているならディフェンスに徹する事もあるらしいが、基本的に第3Qの中盤辺りから一気にオフェンス姿勢に切り替える、と。
だが今回は要となる龍二の負傷により、メンバーも流れがつかめずにいたようだ。
[前へ][次へ]
無料HPエムペ!