私が生まれた頃
「え〜ッ!そんなの全然知らなかった!!」
「考えてもみなさいよ。お父さん、若いじゃないの。」
「普通に結婚したんだと思ってたよ〜。」
「まっさか〜。」
と、父は笑う。
6帖1間のお風呂もないようなボロアパートから、ふたりの生活はスタートしたと言う。
「お前が産まれるまでに、せめてもう少しまともな家に住ませてやりたいと思ってな。
寝る間も惜しんで働いた。」
しかし産まれたら産まれたで、これまた金がかかる。
結局、母はずっとひとりで私を育てた様なものだ、と。
「だからね。お父さんもお母さんもあなたたちの事、認めたでしょう。」
「…けど、お母さんは…。」
「そりゃあ、同じ様な苦労はさせたくないと思ったわ。
可愛い娘だもの。」
一弥は、手のかからない子供だったの。
夜泣きもしないし、ワガママも言わなかった。
貧乏だったのを知ってか知らずか、ただの1度も物をねだった事もない。
「そんなあなたが、泣いて懇願したじゃない。
だからよっぽどじゃない限り、お母さんは許すつもりだったわよ。最初からね。」
親の愛情というものを、初めて知った。
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