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「なぁ、夏音。」
心地良い彼の鼓動を聞きながら、あたしはそのぬくもりに顔を埋めていた。
「愛情と憎悪、どっちが強いと思う?」
「‥愛情?」
自信も確信もないが、そう答えた。
「どうしてそう思う?」
「そう、あって欲しいから。『強い』って言うより、『強いと信じたい』って感じ。
じゃないと、人を愛する意味なんかなくなっちゃうよ。」
「そうか。俺は、憎悪だと思う。」
「どうして?」
あたしは悲しくなって、彼により近付こうと腕に力を込めた。
「『愛してる』故に出来ない事はあるけれど、『憎んでる』故に出来ない事はないからね。」
‥。
どういう意味?
「俺にはお前は殺せない。」
「憎んでる相手なら殺せる、っていう意味だよね?」
「どちらも紙一重なんだけどね。俺は、両方知っている。」
彼は遠くを見ていた。
あたしの知らない場所を、見ていた。
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