embrace
彼はそぉっと、確かめるようにあたしの背中に手を回す。
「ゴメン‥。」
あたしの髪に顔を埋め、聞き逃してしまいそうな小声で囁く。
「ううん、帰って、来て、くれたから‥。」
まだ涙が止まらない。
嗚咽をもらしながら、なんとかしゃべる。
抱き締めるその腕により一層、力が加わる。
「違うんだ。俺が謝ったのは、黙っていなくなった事じゃないよ。」
あたしは顔を上げ、信じられないものを見た。
「ヤダ‥っ、どうしたの!!」
彼の綺麗な顔は、酷いアザと血に塗れていた。
「別にこんなの、大丈夫。いつもの事。」
とりあえず部屋に入り、詰問した。
黙っていた彼が、静かに口を開く。
「ゴメン。俺、もう『真白』でいられない。」
静かに、別れの言葉を。
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