[携帯モード] [URL送信]
大晦日3


雰囲気に耐えられなくなったその後のハルヒの考案により、題して『SOS団内大ゲーム大会』が行われた。なぜゲームの類が無いと言ったばかりの古泉の家でそんなことができたのか。

簡単である。古泉が『涼宮さんが興味をそそるように思われる』娯楽の類は無いと思ったからだ。つまりテレビゲームなる機材は無いものの、いわゆるアナログゲームが探せばいくつか――と表すには多すぎるそれらがゴロゴロと別室から発見された。

定期的に部室にそういった物を持参してくるくらいだから、勿論家にも何個かストックはあるんだろうな、くらいには思っていた。しかし押入れの一角を占領するまでに積み上げられていようとは誰が予測できただろうか。
俺もハルヒはこうチマチマとした遊戯には目を向けないものかと踏んでいたが、意外にも「やろう」と言ったのだ。

ダイヤモンドとかモノポリーとか人生ゲームとか……メジャーなものから麻雀やらツイスターまで。……というか何でツイスターゲーム?

あとは俺とハルヒが偶然持ち合わせていた某2画面タッチパネル式携帯ゲーム機で二対三に分かれて勝負したり。

誰に白星があがるかなんて大体予想できてしまうのも悔しいが、ならば勝敗は気にせず普通にゲームを楽んでやろうという気にもなるってもんさ。


大ゲーム大会も終わり、今は女子三人が台所で腕を振るっている。一時間前まではきっつきつだったこたつには男二人が残るというなんとも質素なものだ。

わいわいと賑やかな台所とは対照的、知らんうちに冷えピタをはがした奴とトランプで暇を潰しているのだが、

「たかがババ抜きくらいでそんな何分も悩むなよ」
「と、言われましても……どれがジョーカーかと疑り始めたら、どれを引いたらいいのかと思い始めてしまって」

相手に見せないように持ったカードたちの上でふよふよと行ったり来たりする右手を見つめて、こいつ絶対「いつか使い道があるだろう」と思って物を捨てられず溜め込むタイプだと思った。

「……だからいつもこの家に来ると物が散乱しているのか」
「はい?何か言いましたか」
「いや、何でもない」

アナログゲームの数々は押入れに仕舞っておいて、なんで機関の重要書類くらい片付けられないのかが理解できない。機関の資料ってそんなに他の目に触れていいモノなのか?

「いや〜。それにしても今日は驚きましたよ」
「俺がこの前部屋片付けてやったばっかでよかったな。ハルヒがあの惨状をみたら完全閉鎖空間行きだぞ」
「……ですね」

あはは、と生気無く笑っているのを見ると、本当に危ないところだったようだ。

「それもそうですが、僕が言いたかったのは貴方のことですよ」
「……は?」

ふいをつかれている間に、俺の手持ちが一枚減る。

「一年の最後と最初を好きな人と過ごせるなんて、素敵だと思いませんか?」
「っおま!!……ハルヒたちに聞こえたらどうするんだ……!」

咄嗟に顔から火が出そうになったが、勿論ひそひそ声で嗜める。その瞬間、ちょっとだけ古泉の形のいい眉が下がった気がして。何でかな、いつもの微笑と同じはずなのになんとなく居心地が悪くなった。
まともに目が合わせられなくなって、ベランダに向ける。

「っ雪、やんでたんだな」
「おや、本当ですね」

明らかに話をそらしたのが伝わったのか、クスクスと苦笑された。
古泉を除いた四人が買い物を済ました頃にチラチラと振り出した雪は、完全に止んでいた。ここについたときにはまだ振っていたから、きっとボードゲームに興じているうちに止んでしまったんだろう。

「冬の星空はよく見えるといいますが、月はどうなんでしょう」
「まぁ見えるんじゃないか?……なんでまた」
「いや、偉大な故人はこのような夜に、恋慕う人に思いを告げるのかと思いまして」

さっぱり意味が分からん。

「本当、さっきまで降ってた気がしたのにね」

台所から戻ってきた一人が窓を明けてわざわざベランダに出る。

「は、ハルヒあっちはもう大丈夫なのか?」
「あと筑前煮と昆布巻きが煮え終わらなくてね。それができたら食べましょう。どれも絶品間違い無しよ!」

いきなり現れたハルヒに、もしかしたらさっき話していたことも聞こえたんじゃないかとどもってしまったが、みくるちゃんと有希もきなさーい!と言う笑顔をみたところ、それは杞憂らしかった。
何故大晦日に『おせち』なのかと問われると、それは「ハルヒだから仕方ない」としか言いようがない。

ちなみに俺が買い物カゴに入る食品がどれも新年にお目にかかるものばかりだったために、その旨の質問をしたら「そっちの方が蕎麦とかより見栄えいいじゃない」とのことだった。

「っ寒いです〜……――わぁきれいですね」
「冬ってすっごく寒いけど、星を見についつい外に出ちゃうときがあるのよね」
「……」

美少女三人が狭いベランダできゃいきゃい騒いでいる。(実際きゃいきゃいしてるのはほぼ二人だが)

「あんたたちも見ないの?すっごく綺麗よ!」
「えぇ、ここからでも十分見えていますよ」


その次に奴がほざいた言葉を俺はきっと十年は忘れられないだろう。
世界一気障ったらしくて、むかつくくらい世界一それが似合う俺の恋人。


「特に……そうですね。とても、月が綺麗だと思います」

ね?と俺に微笑んだハンサム野郎。

「は?あぁまあ。…………ッ!!」

ああ、ああもう!そういうことかよ!!
二学期の中ごろくらいに英語教師が授業の合間に言っていたうんちくがフラッシュバックすると同時に顔が熱くなる。あのときに限って俺は不貞寝をしていなかった過去の自分を呪ったね。もし寝てたらこんなこと記憶も思い出しもしなかったのに!!

「月?そうね!地上から見えるのは星だけじゃ無いわ」
「ええ。もちろん星も綺麗なのですが、今は特に月が綺麗に見えまして」

最後に(俺から言わせて貰えば)すっとぼけた風に「なぜでしょう」と言い、その前の台詞で『今は特に』の箇所のイントネーションが若干強調されていたのを聞き逃さなかった。
こいつ、完全に俺で遊んでやがる……!

もしこの場に俺意外いなかったとしたら、部屋の端から端まで転がりまわって悶絶していたくらいの自信があるね。

しかしここで俺ばかりがやられっぱなしでは性に合わない。ヘタレ男にしてやられただけとは俺の自尊心に関わる。


とある文豪は“あなたを愛しています”という英文を“君といると月が綺麗ですね”と訳し、またある偉人は“貴方のためなら死んでもいい”と訳した。
さて、俺にとっての“I love you.”とは何なのか。


「……そろそろ料理が煮えた頃」
「あ、そうだったわね。身体も冷えちゃったし、料理運びましょうか!」
「あたしお茶の準備しますね〜」
「このこたつだけではとても並びそうにないですね。もう一つテーブルもって来ましょう」

女性陣に続いて立ち上がった古泉の腕を掴む。
本当はもう数時間後に言うべき台詞でるが、これが俺の答えなのだろう。


これから――ずっと、きっとハルヒに振り回され続け、けれど自分でも気付かない心の底では、実はそんな非日常な日常が楽しかったりするんだ。

そんな現在進行形で未来まで続くような親愛なる相棒として、


「古泉、『これからもよろしく』な」


――と、あとの残り時間はずっと一緒にいろという少しの自惚れを込めて。


このバカな男はいつもどこか遠慮がちで傍観者を決め込もうとしているが、そろそろ自分は必要とされていることに気付くべきだと思う。
世界からでも機関からでも、ましや超能力者としてでも無く、他でもない俺たちが『古泉一樹』という個人を必要としていることに。

ま、いつかは直接言ってやらんこともないが、それはもう少し後に取って、今はこいつの幸せそうなふやけ顔に密かに心を綻ばせていてもいいはずだ。
料理店顔負けのご馳走をつつきながら。



(今はこんな方法でしか、神様の前で貴方に思いを伝えられない僕でも、いつか)


======================
あけまして おめでとう ございました (`・ω・´)キリッ(二月現在

なんだかやりたかったことが半分も表現できんかった。なにこの最高に消したいほどのgdgd!!作文難しい!!
結局この子たち年越せて無いよwwwなんとwwww
長門とみくるの存在感の希薄さに泣けて来た。なんでこんなにハルヒ動かしやすいの?orz

果てしなく納得できない出来になりましたが、一応終わらせとかないとアレなんで。終わっとけ。

もう二度と見切り発車の軽はずみな季節ネタはしないことにします。


あきゅろす。
無料HPエムペ!