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大晦日2


その表情が余りにも学校でのそれとかけ離れていたために、俺とハルヒは思わず吹き出した。だって寝癖に冷えピタに古泉にあこがれてる女子にしたら考えられないくらいヨレた部屋着という最高装備だぞ?

これくらいいつも年相応の反応をしていればもう少し親近感も沸くのにな。

腹を抱える俺たちを見ていまいち状況が飲み込めていない古泉は頭に更にクエスチョンマークを増やし、朝比奈さんはどうしたものかととりあえず「こ、こんにちは」と挨拶、長門は「……よかったら」と左手に持っていたビニール袋を差し出した。

「えーと…あ、ハイありがとうございます。……皆さんどうなさったんですか?今日はSOS団で長門さんの宅に集まると聞いていたのですが」

長門からさっき買ったスポーツドリンクを受け取り、ようやく言葉を発す余裕を取り戻してきたようだ。

「そうよ?『SOS団で』だからここに来たのよ。一人でも欠けるなんて許さないわ。夕飯も作るつもりだから食材も買ってきたし」

場所は変わっちゃったけどね。とニヤニヤしながら言うハルヒは、最初の電話とは随分と違うことを言っていた。欠席は仕方ないみたいなこと言ってなかったかお前。

「て訳だから!おっじゃましまーす」
「え、ちょ…っ!風邪うつしたらよくないですから!」
「……お邪魔します」
「お、お邪魔します〜」
「…あのっ」

勝手に浸入するハルヒに続いて長門、遠慮がちに朝比奈さんが乗り込み、ようやく状況を把握した病み上がり(?)の男は情けなくおどおどしている。
で、最後に俺。

「思ってより元気そうじゃねえか。……まぁそういうことだから諦めろ」

肩にポン、と手を置く……とは生憎両手がふさがって出来なかったので「邪魔するぞ」と一言だけ断って靴を脱いだ。適応能力が高いのかそれとも単に観念しただけなのか、家主は後ろに黙ってついてきた。

初めて古泉の家に入ったハルヒはキョロキョロとあたりを見渡し、

「古泉くんって意外と普通のところに住んでるのね。結構きれいなマンションだけど、もっとこう、リッチなところに住んでいるイメージがあったわ」

それに広さでいうなら一人暮らしにしては大きい方なのでは無いか?経験は無いのであまりよくは知らないが。
というか、お前は一体高校生の生活に何を期待しているのだ。さすがの古泉も苦笑してるぞ。毎日必死にキャラ作って思わぬところでイメージダウンだな。ざまあ。

「はは、ご期待に沿えず申し訳ありません。あ、冷蔵庫はそちらにありますので。いくつかお持ちしますよ」
「…助かる。スーパー出たたあたりで雪も降り出すし、この気温で持ち歩いていたから正直手が痺れてんだ」

さすがジェントル。お言葉に甘えて殆ど感覚の無くなった手から買い物袋を渡す。
他の人には悪いが、一足先に居間のファンヒーターに当たらせて貰うとしよう。赤くなって稼動している家電の前にそそくさと移動しようするが、その前に目に付いた冬季限定家具に惹かれた。

そう、おコタである。一人暮らし用のそれなりのサイズだ。

「古泉。お前コタツなんて出したのか?」

台所で女子たちと冷蔵庫の中身を収めている古泉に声をかけると、白菜片手に振り返ってくれた。

「え、ああ。冬休みに入ってからですね」
「ふーん。……入っていいか?」
「どうぞ。電源は入ってますので」
「サンキュ」
「軟弱ね。少しは古泉くんを見習いなさいよ。病人だってのに、押しかけ客にまで気遣う甲斐甲斐しさ、アンタにもこういう紳士的なものあればいいのに」

うっせ。大量の買い物袋を持って歩いてきてもう暫くは手が動かないんだ。飲み物類とか地味に重いんだよ。ビニールが指に食い込んでた。
というか、お前無理矢理押しかけてるの自覚してたんだな。

「でも、キョンくんいなかったら確かにこれ運ぶの大変でしたよね」

朝比奈さんの弁護にハルヒも黙ったところで、暖かそうな掛け布団に手を伸ばす。
はぁ〜〜。これぞ文明の利器。素晴らしきかな科学の時代。
……生き返る……。

掛け時計に目をやれば、現在三時前。一時過ぎに電話が来て、それから駅に行って、買い物してからここに来たからな。そこそこの時間だ。

「お疲れ様です」
「あ?……ああ」

声に反応すると、古泉がいつの間にか台所からこっちに来ていた。その後ろから三人も現れて各々こたつに足を入れた。
俺から左手がハルヒと朝比奈さん、正面が長門、右手に古泉と言った具合だ。

「さて、料理するのに今からじゃ早いし、なにしましょうか」

朝比奈さんが人数分、手ずから入れてくれたお茶を一気に飲み干し、暇つぶしを要求する。と、おずおずと古泉が口を開いた。

「あの……いらしてくださったことは本当に嬉しいのですが、これで良かったのでしょうか…?
治りかけとは言っても風邪をうつしてしまう可能性もあるわけですし、恥ずかしながらうちには涼宮さんが興味をそそるようなゲームやら娯楽の類は何もありませんし…」

何を言い出すかと思ったらこいつは。今更過ぎる。kyか。
ハルヒも目を丸くしてる。

「古泉くんちにテレビゲームとかあったらそれはそれでギャップがあって面白いけど、特に期待してかなったから気にしなくていいわ。有希んちにも無いと思うし。それに見てみたかったのよね〜古泉君の家!」

結局お前が来たかっただけかよ、とも思ったが、病人の家にお邪魔するというある意味ハルヒの非常識のおかげで顔を見れたんだからそれは言わないでおく。
なんだかんだで団員を気にかけてんのはハルヒだけじゃ無いってことさ。
それは朝比奈さんも…きっと長門も同じだろう。その証拠に、

「実は集合場所に集まったとき、一人いないだけですごく物足りなく感じちゃって。涼宮さんが古泉くんの家に行くって言ったときは、迷惑じゃないかなって不安もあったけど…こうしてみんなでいると何だか安心しちゃうんですよね」
「……同意」

俺が駅前に着いたときと同じことを彼女らも感じていたようだ。長門が珍しく意思表示をしているのだから、よっぽどなのだろう。
それを聞いた古泉は一瞬ぽかんとして、そこからはにかむようにして困ってんだか照れてんだかよくわからん表情をした。だが、不満におもっているそれではないことくらい誰にだって見て取れる。

SOS団は五人でSOS団なのだ。一人欠けたらそれは違う何かになっちまう。


さっきさらりといいことを言った気がするハルヒだが、何となくいい雰囲気をぶちこわしたのもまたハルヒだった。

「あああ〜〜もう!なんでこんなしんみりしちゃってるの?!これから年を越そうってのに、これじゃお通夜でもするみたいだわ。もっとパーッと行きましょう!パーッと!!」

そのまま頭を掻き毟りながらムキャー!っと奇声をあげんばかりの勢いで立ち上がった。
まぁ、確かに俺たちにこんな辛気臭い空気は合わないかもな。


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