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大晦日1


『忘年会兼新年会するわよ!!』

――ブツッ!!

携帯がお決まりの着信音で鳴り響き、通話ボタンを押すと、大声を張り上げて用件だけを述べられ耳に優しく無い音と共に通話を切られた。
ちなみに俺は一言も発しておらず、「もしもし」とすら言う暇を与えられなかった。

「……」

電話は普通耳に直接当てて活用するものなのだが、耳とスピーカ部を敢えて離した状態で電話に出た自分を褒めてやりたい。素直に電話に出てたら鼓膜が破壊されるところだった。

掛かってきたのは携帯だからディスプレイを見れば相手は一目瞭然。しかし、挨拶もなしにいきなり耳につんざくような声量で簡潔に用件だけという一方的な電話を仕掛けるのは、名乗ろうが名乗らまいが俺の人生上涼宮ハルヒこの一人だけである。
いや、本当はマナー上注意すべきなのだろうが、こいつと関わってきた者にとっては既にそこいらの常識はどうでもいいことである。

無言で耳元から携帯を離し、通話を終了した後だと言うのに黒い画面を見つめる。
何故かって?すぐ分かるさ。

――ピピピピピピピ……
ほらきた。

「今度は何だ?」

初めて会話が成立した記念すべき俺の第一声だ。

『言い忘れてたわ、場所は有希んちだから。駅前集合ね!多分なんか買うと思うからお金持ってきて。あ、でも無理なら別にいいのよ?あんたなんかいなくてもこっちでキョンが羨むくらい楽しむつもりだから。暇を持て余してんのに来なかったら死刑だから!じゃ!!』

ブツ……ピーピー――

『遅刻絶対厳禁!』な団長とは思えない発言である。が、それはハルヒなりに気を使っているのだ。
なんせ今日は大晦日。まだ昼過ぎとは言え、一般的には、一年間の家中の垢をそぎ落とし家族といつもより豪勢な料理をつつきあって過ごすか、はたまた彼氏彼女と二人きり……なんて輩もいるのだろうか。

醜い嫉妬とか悔しいなんてくだらない感情は特に無いぞ、あぁないとも。

…それはさておき、集合時間を言わないということは、それ自体を言うまでも無く、つまり今すぐ来いということなのだろうか。

頭では疑問に思いつつも、体が勝手に既に出かける準備をしているのことに気付き、何だかんだ言って自分もすっかりハルヒに馴らされてしまったなとクローゼットの前で苦笑いした。
さて、外出の旨を妹にどう言い訳しようか。


その後駅前について俺は幾分か驚くことになる。
集合場所で俺が毎回浴びることになっている団長様のお言葉も今日は少しだけ違った。




この時期チャリは使えないので、白い息を吐き出しつつ徒歩でいくと、見慣れた集団が見えてきた。
まだ昼下がりだと言うのに暗い雲が空を多い、召集されなければ出歩くのも億劫になる気温。雪が降って無いのがせめてもの救いだね。

「キョンおっそい!」
「来ても来なくてもいいっつったのは誰だよ」
「来るんならせめて団長より早く来るなりの誠意を見せなさい!……と、言いたいところだけど、残念ながら今日はキョンよりも失態を犯した団員がいるから特別に許してあげる。
でもペナルティとしてあんたは荷物運びだから」

俺(とたまに古泉)が荷物運びじゃないときなんかあったか、と心で突っ込みつつ、そこでハルヒの言わんとしていることが分かった。

なんといつもハルヒを待つ側に回っている、何かと律儀な副団員がいなかったのだ。挨拶する間もなくハルヒに説教を強要されたために気付いていなかった。すまん、古泉。
……いつも五人で行動しているから変な感じだな。

まあ大晦日なんて日にわざわざ部活で集まる方が、よっぽど律儀なのか暇人なのか。

「今日古泉いないんですか?」

ハルヒはプンスカしているので、代わりに朝比奈さんに聞いてみた。淡いピンクのコートがこの寒空の下では心まで温かくしてくれる気がする。

「古泉くん、なんだか風邪を引いちゃったみたいなんです…。皆さんにうつすといけないからって来れないんだって…」
「副団長が風邪で欠勤なんて許しがたいわ!一応今日は大晦日だし?用事があるなら仕方ないなーと思ったけど――ほら、古泉くんって一人暮らししてそうだし、大晦日は実家に帰るのかもしれないし。それがまさか…」

体調不良だなんて情けないったらうんぬんと愚痴をもらしている。

「てことは、古泉なしの四人で長門んちに行くことになるのか」

ぼやきながら長門にをちらりと見る。視線に気付いたのか、ちいさく長門が首を振った。それにしても何も喋らないから本当に存在が分かりにくいな。
と、問題はそこじゃなく、首の振幅方向が何故か縦じゃなくて横だったことだ。

……じゃ、何処に行くるんだ?と思ってたらいきなり「バカねキョン」と呆れられた。

「だから有希がここにいるんじゃないの。このまま有希の家に行くんだったらいる意味無いでしょうが」

確かに。長門の家に行くのに長門が外でわざわざ集合する必要は無い。ということは……。
ハルヒが口の端と目の端を器用に吊り上げてにやりとした。その隣で朝比奈さんがあわあわしている。

「今からみんなで古泉くんの家に行こうと思います!」

一人で年越そうなんてさせないんだから!!




……と、白い息を眼前に盛大に吐いてくれた涼宮ハルヒの宣言により、俺たちは今とあるマンションに来ていた。

勿論、俺と朝比奈さんは病人の家に押しかけるなとは何事かと止めたのだが、それぐらいで止まってくれるのならハルヒの扱いに苦労しないわけで。
聞けば古泉は今は治りかけであり、電話では「大事を取って」という言い訳らしいので、まあ押しかけても取り返しのつかないと言うことは無いだろう。

……実は俺にも、古泉の癖にという分けの分からない感情が少なからずあったから本気で止めなかったのは秘密である。


ここまでの道のりはというと、「行く」と自分で言ったくせに古泉の家を知らないハルヒの命で俺がナビを仰せつかった。
住所を知っていることに、内心怪しまれないかとひやひやしたのだが、男友達として知っているのは不思議でないとでも思われたのだろう。

そんなわけで、ただ今俺たちはとある一室のドアの前にいた。どこの扉なんか言うまでも無いだろ?
来る前に近くのスーパーで買い物を済ませてある。デカいビニール袋をぶら下げた若者四人が突っ立っている状態とは、他の者の目にはどう映るのかね。(荷物持ってんのはほぼ俺だが)

長門が入り口の右側に備え付けてある押しボタンに人差し指をかければ、期待通りの電子音が聞こえた。
だんだんとドアの内側から人が動く音が近づいてくる。「はーい」なんて奴にしては間の抜けた声まで聞こえてきた。

「……どちらさまで………へ?」

ガチャリとドアを開けた瞬間見えたのは、いつもスカした顔とは対照的に目を見開き口を半開きにしたこれまた間抜け顔の古泉一樹だった。

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キョン君はそれなりに古泉宅に訪れているようです。


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