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Novel
04*男主【DV】



「畜生……」

計算が合わない会計書を眺めながら一樹はため息をつく。颯斗や翼の目はなんとか誤魔化してきたが、発覚するのは時間の問題であった。

「仕方ねぇな……」

ギィ、と重厚な音を立てた会長の椅子から腰をあげる。携帯電話を取り出し目的の人物に電話をかける……。

「もしもし」








【DV】







〜〜〜♪

「っ!」

ゲーム画面がいきなり着信画面に切り替わったもんで、俺は慌ててスマホを手の中で浮かせてしまった。画面には【不知火一樹会長】と表示されていて、「いいところだったのに!!」という文句を飲み込んで画面に指を伸ばし、スワイプさせた。

「あんだよ会長」

『帳尻が合わない、今から行く』

「は!?え、ちょ、おい!会長!?」

その一言だけで電話が切れてしまった。その一言だけで、じわりと手の平に汗が滲む。
俺は星座科3年、名無しだ。会長の強烈な新人への挨拶に惚れ込んで話しかけたのがきっかけで、今では休日に共に外出したりするくらいに仲良くなった。それがいつの頃からだったか、あいつは……。……いや、今日こそハッキリ言ってやる。これから俺の部屋に来るってんなら好都合だ。俺は部屋をテキトーに片付けて会長が来るのを待つことにした。
……待つこと10分。部屋の呼び鈴が鳴ったんで、俺はいそいそと玄関まで歩いて行った。
がちゃりとドアを開けると、電話での声色が嘘のようないつもの笑顔で「よう」と言われて調子が狂う。

「なんだよ会長、今日はまた急だな」

「悪いないつも急で。取り敢えず入れてくれ、暑い」

「オヤジには堪えますか〜この気候は」

「なにぃ!?」

軽口を叩く俺の口は乾いていた。何を求められるのか、断ればなにをされるかわかっているからだ。でも今日の俺はいつもと違う。絶対に、この権力から抗ってやる。
会長を部屋に通し、水出しの緑茶を出してやったら美味そうに一気飲みした。そういうところがオヤジくさいんだが……。

「……ふぅ」

「ふぅ、じゃねえよ……」

「そんな緊張した顔するなよ名無し、いつもどおり貰えるもん貰えりゃ帰るからよ」

会長は口角を上げると、不敵に微笑んだ。
会長が俺の所に来る時は、遊びたい時か……金が必要な時だ。高校生という時分からなにをやってんだと俺は思うが、会長は生徒会の金の一部を遊びに使ってしまう悪い癖がある。それの帳尻合わせに俺から金を奪っていくんだ。俺が拒絶すれば殴る。今は綺麗に洗濯したが、現在会長が座ってるクッションだって一時は血まみれになっていたんだ、俺の血液で。

「そのこと、なんだけどさ……」

余計に口が渇く。いじめっ子が弱者から金を強奪するより質が悪い。“友達”から獲っていくんだ。

「俺もう、お前に金は出さない」

「……あ?」

冷房の温度がガクンと下がったかのようにその場の空気が凍りつく。

「はぁー……」

「俺だってまだ学生で、お前が使い込んだ金払えるくらいの蓄えないのわかるだろ!?いつまでお前に怯えて生活してればいいんだよ!!!」

「……」

「っ、とにかく、今日はもう帰ってくれ。帰ってくれたら、今までの事は全部なかったことにするから」

言った……言ってやったぞ!!俺は絞り出すように言葉を会長にぶつけ、荒く呼吸を整えた。言葉を発せず、じぃ、と俺を見つめる会長から無理矢理目をそらし、飲み干されたコップを受け取ろうと手を伸ばす。そうだ、もしなにかされたら星月先生に言えばいい。そうすれば全部解け

ガつんッ

「何言い出すかと思えば……」

「ぐッ……!?」

なんだ…なんだ……!?俺が見たのは、手を伸ばした先のコップが消えた所までだった。直後、頭に激痛が走り、俺は床にぶっ倒れてしまった。皮膚を伝う生ぬるい感覚……血だ。
会長がクッションからゆっくりと立ち上がり、俺を殴ったコップを投げ捨てる。衝撃でヒビが入っていたのか、床に当たった瞬間パリンと音を立てて割れた。

「かい、ちょ……」

「大人しくしてれば……こういう思いはしなかったのになぁ?」

「ぐあぁ!!」

恐らくそこが傷口なのだろう、会長が踵で俺のこめかみを踏みつけ、ぐりぐりと力を加える。更に血液が溢れる感触があり、ガラスで殴られた衝撃に加えた鈍痛が俺の脳みそにジンジン響いた。靴下に染みた血液の感触が気に食わなかったのか、それはすぐにやめてくれたが、代わりに会長は腰をかがめ、俺の襟首を無理矢理掴んで力任せに体を起こさせる。

「ぅぐう!!」

「分かってるだろ……?俺に逆らったらどうなるのかって……なぁ、名無し…」

「会長……っ、不知火ぃ…!もうやめてくれ!」

「だから、出すもん出したらな」

いきなりパッと手を離され、バランスを崩した俺の頬に思い切り拳が叩き込まれる。その勢いのまま俺は足をもつれされ、倒れこむ。涙で滲んだ視界の先にテーブルが見え、このままいくと頭をぶつけてしまうと悟った俺は力を振り絞って腕で頭を守った。ゴンッと腕をテーブルの角にぶつけたが、なんとか頭はセーフだった。

「口だけは達者だよな……名無しは」

「うぅっ…う……」

「財布はいつもの所だよな?」

抵抗する力が湧かない。恐怖心が俺の身体を抑制している。
会長が俺のカバンから財布を取り出し、万札を1,2,3と数えている……。

「5か。まぁこれでも足しになるか……」

「っくそ……!!」

「そういえば名無し、お前の弟もうちの学園に入学するって話だったよな……?」

「!?」

俺と少し年の離れた弟は、俺と同じく星座を愛していて、兄貴と同じ学校に通いたいと言ってくれた可愛い奴だ。会長がほのめかした言葉の意味を悟った俺は、グッと言葉を飲み込む。

「わかってるよな……?」













少しの間気絶していたようだ。既に会長は部屋からいなくなっていて、割れたグラスと俺の血液が部屋に飛び散っていた。

「片付けるか……」

彼の絶対的な信頼の前では、俺のような小さな存在が何を喚いても無駄なのだ。
命があっただけよかったと思おう。
それが最近の俺の心の中の口癖になっていた。










2019.6.28


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