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Novel
【拍手】?×03【食人花】
最近話題になっている事がある。中庭にある花……その花が、不定期に花の色を変えるそうだ。水色だったり、赤色だったり。誰かがいたずらしているとか植え替えているとかそういう噂は聞かない。学園の生徒の間では、その花の色の移り変わりを目にしたものは幸せになれるとか、安っぽい噂が飛び交っていた……。

「ふあ…ぁ…」

中庭に細い影がやってくる。七海哉太だ。授業をサボって昼寝に来たらしく、大あくびをしながらごろんと芝生に横たわる。本当は少し具合が悪く、保健室に行こうとしたのだが鍵が掛かっており、第二のサボり場所に移動してきたというわけだ。

「……あ?」

ふと目線を向けると、そこには鮮やかな紫色をした大きな花が風に揺れていた。サボり常習犯である哉太はその花の形に見覚えがあり、その花が前までは茶色がかった地味な色をしていたのを知っている。哉太も花の噂を知っており、しかし簡単には信じられず疑っていたのだが、じっと…その花を見つめてみる……。
学園にはもう一つの噂が流れていた。最近、不登校となっている生徒が目立つ……そして生徒の不登校と花の色の変化とに関連があるのでは……もしかしたら、花が人間を食ってるんじゃないのか、と。

「はっ、んなわけあるかよ」

花の色は、不登校になった人物の髪色や瞳の色と似通った色に変化しているらしい。しかしそんな非現実的な事を信じられるはずもなく、哉太は花に一瞥したあとごろりと芝生に横になった。





しばらくして目を開けると、あたりが暖かく柔らかい空間にいるような気がした。まるで何かの内臓に包まれているような……

「!?」

哉太がハッと意識を取り戻すと、そこは別の生き物の腔内にいるようで、ぐにぐにとして生暖かかった。腕をつこうとするとぐにゃりとのめりこみ、妙な悪臭もする。哉太が思わず吐き戻しそうになると、唯一の視界の開放部であったところが閉じようとするのが見えた。

「……!!!」

よく見ると、自分は何かの口の中にいるようであり、閉じようとしていたのはその何かの上顎であったようだ。慌ててそこに手を伸ばすと、奇妙なうめき声が聞こえ再び口が開く。哉太が周囲を見渡すと、そこは巨大な生物の口の中であり自分が飲み込まれているのだという事がわかった。

「おい!なにしやがる!!」

嚥下するような動きが始まり、飲み込まれそうな動きに哉太は慌てて体を動かす。
このままでは飲み込まれてしまう!哉太は闇雲に体を動かすと、舌のような部分を掴んだり歯の様に尖った、葉っぱを鷲掴みにしたりし、必死にもがいた。
どうやらここは何かの生物の口の中であり、哉太は眠っている間に飲み込まれてしまったらしい。しかしまだ胃袋には達しておらず腔内に留まっているだけのようで、これ以上飲み込まれまいと哉太は必死に暴れた。

なんの根拠もない噂だったが、噂が本当ならば、哉太はこの植物(?)に飲み込まれた挙句生命と色素を奪われてしまう。そんなことされてたまるか、と哉太は必死に暴れるが、植物は何も気にする事なく哉太を丸のみしようと嚥下の動作を繰り返した。柔らかな内腔が哉太の身体を包み込み、奥へ奥へと押し込んでいく。なにか分泌されているのか、熱っぽいような、感じたことのない熱が制服を溶かしていった。それは明らかに消化液であり、哉太は一層激しく体を動かす……しかし制服を溶かした液は容赦なく肌にもかかり、感じたことのないくらいの熱さが皮膚を溶かしていった。

「あ゛、あぁ、あああああ!!」

熱い、痛い、熱い。
もがく哉太を、植物はどんどん奥へ奥へと飲み込んでいく。ふと自分の手を見ると、まるで色素を奪われているかのように手の平が白くなっていった。元々色の白い哉太の肌色が、消化液に溶かされ益々白くなっていく……それは瞳も同じで、黄緑がかった美しい瞳が、消化液に溶かされていく毎に色を失っていく。色を奪われると同時に視覚も奪われているのか、哉太は目の前の肉色すら見えなくなり、手の感触しかわからなくなった。


身体を動かすことができない。消化液に包まれ、消化器に揉まれ、哉太はもう動くことができなくなっていた。いや、最早意識すら薄い。溶かされた脳は、もう何かを考える事ができない。

「……」

植物に溶かされ、飲み込まれ、色素を奪われる。
この植物は哉太の色を奪い、その色を華やかに咲かせる……。
哉太から奪った黄緑色を咲かせ、植物はまた生徒達の噂の的となるのであった……。







「なぁ、アイツ最近見ないけど」

一樹が誉に話しかける。

「この花、アイツに似てるな……。今度、寮の部屋に遊びに行ってみるか」

この花を最初に学園に持ち込んだのは誰か……。その花の所有者は、存分に生命エキスを吸った花を見てほくそ笑む。持ち込んだのは人間ではない。花に吸収させたエネルギーを自分が得るため、美しい花を学園に持ち込んだのだ……。

悲劇は続く……






end

2018.5.7

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