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Novel
★触手【*11】
ビュッと空気を切り裂くような音が聞こえる。敵のハーピーの鋭い爪の攻撃をかわし、龍之介はその背中に矢を放った。

「ぎゃああああ!!」

退魔の力を宿した矢はハーピーの体内から身体を分解させ、もがき苦しみ抜けていく羽すら残さず彼女は姿を消した。龍之介は額の汗を拭うと、カバンから地図を取り出し現在位置を確認する。目的の場所には確実に近づいている。

「はぁ……」

何度目かもわからないため息をつき、顔を上げて歩き出す。魔物が多く住んでいるこの森で、気を抜くことは許されなかった。






時は遡り数日前。龍之介は部活終了後に部員たちが道場の隅に集まりなにやら楽しげにしている様子を目にした。その輪を覗き込むと、どうやらスマートフォンでゲームをしているらしく「ガチャ」「レイド」という聞きなれない言葉が飛び交っており、龍之介は疑問符を浮かべる。

「まったく、そのやる気を部活で出せお前ら。何してるんだ」

「あぁ、宮地はガラケーだから知らねーか」

ちらりと目線を龍之介に向けるも、すぐスマホ画面に目を落としたのは犬飼だ。白鳥はスマホから目を逸らそうともせず、小熊は何を焦っているのかあわあわとスマホと龍之介を
交互に見遣る。

「僕は今ダウンロード中です。よかったら一緒にやりませんか?宮地先輩」

そう答えたのは梓であり、最新機種のスマホを掲げた。
話を聞いていると最近流行りのスマホゲーム【モンスター・サーラ】というゲームをプレイしているらしく、今ゲーム内イベントが開催されており強敵を倒す為のキャラや武器をガチャで手に入れ、フレンドと協力して立ち向かうという内容になっているようだ。聞きなれない言葉に龍之介は頭が痛くなってきたが、テスト期間も終わり勉強に追われるような日ではなかったので、仕方ないな……、とぼやきながらもその輪に加わった。

「どういう内容なんだ?」

犬飼が「おりゃーー!」と叫びながら画面をタップしているのを見つつ、声を掛ける。

「あー!あと一歩だったんだけどなー!!
えーと、主人公は異世界に飛ばされた普通の人間なんだよ。元の世界に戻るためにモンスターと戦うって感じかな」

「随分シンプルなストーリーだな」

「でもキャラデザとかヤバくってさ!!モンスターもなんかえろいし、宮地ムッツリだし絶対ハマると思うぜ!!」

「し、白鳥先輩!?」

「む……。よくわからんが、木ノ瀬、ダウンロードは済んだか?」

「あ、すみませんもう自分の名前の入力までやっちゃいました」

はえーよ!と犬飼と白鳥が梓にツッコミを入れるが本人はケロっとしている。犬飼達の画面にいるキャラクターは随分と豪華な装備をしているが、梓の画面に映っている主人公は“異世界”に相応しくない現代的な若者の格好をしていた。モンスターと戦えるような風貌ではなく、頼り無さすら感じる。そのリアル感を楽しむゲームなのか、チュートリアルでも主人公はオロオロと周囲を見回していた。

「おい、誰か出てきたぞ」

「テンプレみたいなおじいさんですね」

梓と二人で一つのスマホを覗き込む。三バカのスマホの音量が大きく、梓のスマホから出る音がかき消され騒音もいいところであるが、なんとか耳を澄ませてBGMや音声を聞き取る。

『これはこれは……奇妙な格好をした若者じゃな』

『あの……貴方は……?』

『わしはこの村の村長じゃ。見たことの無い顔だが……?』

『実は、気がついたらここにいたんです。見慣れない生き物もいるし……ここは一体……?』

チュートリアルでは、主人公が突然異世界に来てしまった事、そして元の世界に戻るには地図に示された場所へ行き巨大なモンスターと対峙する必要がある事が明かされた。村には異世界から来た勇者がモンスターを倒し平和をもたらすという伝説があるらしく、主人公はその勇者に違いないという事で村に歓迎され、初期装備一式を手渡された。現代風の格好から、少し古風な、いかにも最初の勇者とでもいうような姿に変わり、続いて戦闘についてのチュートリアルへと移る。戦闘は基本的に画面のタップで行われ、ゲージが溜まると技を発動できる。またオートモードもあり、これは自動で戦闘が進行していくシステムらしい。敵はスライムやゴブリンなど見慣れたモンスターであり、タップで行う際は敵を選択して攻撃でき、オートモードではランダムで攻撃を仕掛ける。

「少し手間だが、自分で敵を選んだ方が効率的だな」

「そうですね」

「でも宿題やりながらやる時はオートモー……あ」

「馬鹿、白鳥!!」

「お前……宿題しながらゲームをしているのか!!」

「ひぃぃぃぃ!!!」

「あれ?皆、まだ残ってたの?」

龍之介が白鳥をギロリと睨みつけ、蛙の様に怯え上がった白鳥がスマホを手放しそうになったその時、弓道場の入口から穏やかな声が掛かった。全員が(梓以外)慌てて振り返るとそこには部長の誉が立っており、「鍵を閉めに来たんだけど……」と困ったような笑顔で首を傾げた。

「部長!部長もやりませんか〜?」

「おい犬飼、部長を巻き込むな……」

「ん?何をやってるの?」

道場に入る際の一礼をし、誉は皆の下へ近付いて行く。

「これです、部長……知ってますか……?」

「あ、小熊君もやってるなんて意外だったなぁ」

「えっ?」

「僕もやってるよ、モンサラ」

うおおおと歓声をあげる犬飼と白鳥。

「今レベルは159だよ」

「部長マジやべえ!!フレンドになりましょう!!」

「……木ノ瀬、ついていけているか…?」

「えぇ、まぁ」

流石だな、とため息をつく龍之介であった。
戦闘の後は装備の変更や強化のチュートリアルがあり、梓と龍之介はふむふむと読み進めていく。誉は「今体力回復中だから」と自分はプレイせず、にこにこと二人を見守っていた。

「この装備、最初は一番弱いんだけど、実は強化を続けると凄い進化をするから、売らないで取っておくといいよ」

「ありがとうございます、部長」

「ふふ、木ノ瀬君が熱心にやってるのを見ると嬉しくなっちゃうね」

「まぁ最初の導入部分は大事ですからね。ここがつまらなかったら期待すらできない。最初を面白く感じるのは当然の事ですよ」

「まったく素直じゃないなお前は……」

六人で時間を忘れてゲームに夢中になる。戦闘する為の体力が回復したのか、途中から誉もゲームに参加し、部活とはまた違った盛り上がりを見せるのであった。
気が付けば道場に暗い夜の闇が忍び寄り、夕陽の明るさは地平線へと沈んでいく。犬飼達は「レイド強すぎんだろ」と愚痴をこぼしながらも、誉がフレンドになった事で攻略の糸口を見つけたのかほくほくと満足そうな顔をしていた。

「さて、そろそろ皆帰ろうか」

「そうッスね〜」

「鍵は僕が閉めるから」

サッカーをやっていた頃もあったが、やはり個人競技がいいと弓道を始めた龍之介。しかし弓道は個人競技ではないのだと学び、連携の大切さを痛感している。そんな部員達とゲームを楽しむのも、また一つ学びなのだろうと……堅苦しい事を考えていた龍之介だったが、ふと梓のスマホが妙な光を発している事に気がついた。

「おい、木ノ瀬……スマホが紫に光ってるが……?」

「え?あ、本当ですね……なんだろう、まだ新品なんだけどな……」

「ゲームのやりすぎで熱を持ったのかも知れないな。ちょっと貸してくれ」

屋外とも言える道場で指先が冷えていた龍之介は、自分が持てばスマホが冷えて元に戻るのではないかと考え梓のスマホに手を伸ばした。梓と違いほとんど見ているだけだった龍之介の指は冷えており逆に梓の手はスマホの熱で温まっている。梓はその意図を察してか龍之介にスマホを差し出す。……その時であった。

「うわっ!!」

ビリリとした電流のような衝撃が龍之介に走り、視界が一気に白む。

「宮地先輩!?」

「宮地!?」

「宮地君!!」

自分自身が白光しているかのような眩い光に包まれ、思わずギュッと目をつむる……。足元がぐにゃりと歪むような感覚も加わり、何か掴む物はないかと闇雲に手を伸ばすと、手に木の枝のようなゴツゴツとした手触りがあった。それをしっかりと握り、恐る恐る目を開けると……

「は……?」

龍之介は、見知らぬ森の中にいた。









「(一時はどうなる事かと思ったが……)」

龍之介は気がついたら今の世界、現実からしたら“異世界”に迷い込んでいた。森の中をしばらく彷徨い、森を抜けると小さな村が見えたのでそこを目指し、たどり着くと村長を名乗る老人が声をかけてきた。まるで、モンスター・サーラの序盤と同じように……。その後も梓と一緒に見たチュートリアルと一緒の展開が続き、龍之介は非現実的だと思いながらも、自分がモンスター・サーラの世界に来てしまったのだと悟った。ゲームと違ったのは、武器が剣ではなく弓矢だったという事だ。しかし弓矢は逆に好都合、龍之介は村長からありがたく装備一式を受け取った。
異世界にいるからにはここが現実。現実世界にガチャなどがあるはずもなく、龍之介は地道にモンスターを倒したり資材を集めたりして装備を強化してく事になる。モンスター・サーラを少しプレイしたお陰で、戦いのコツや目的がわかっている。地図にある通りに進み、モンスターと対峙すればいいのだ。“対峙”にどのような意味が込められているのかはわからないが、龍之介は元の世界に帰る為にひたすらモンスターと戦っていった。
そして自他共に認める程に強くなった龍之介は、森の最奥目指して進んでいく……。

「さっさとスマホに変えて、モンサラを最後までプレイしていればこの先の展開もわかったのだろうが……今更だな……いや、そもそもスマホのせいでこうなったんだったな……」

ゲームのモンスター・サーラでは仲間をガチャで増やして共に戦っていたが、この世界では龍之介一人でモンスターを相手にしていた。現実ではありえないが、矢を複数同時に放つ“必殺技”を使う事ができたため、あまり困らずモンスターを倒せている。

「……この先か」

かなり森の奥深くまでやって来た。地図によると、この先に“対峙すべき巨大モンスター”がいるらしい。“眠りの森の美女”のように茨が生い茂り、一筋縄では通過できない。龍之介は茨から少し距離を取ると、呪文を唱え勢いよく矢を放った。

「“フレイム・アロー”!!」

未だに呪文を言うのが恥ずかしいが、言わなければ効果は無いし言えば魔法を使える。龍之介は一人赤面しながら、目の前の茨が燃え、道ができていくのを見つめていた。聖なる炎を纏った矢が茨を焼き払い、巨大モンスターへの道が開ける。早く現実世界に帰りたい、と願う龍之介は、焦りを歩幅に表すように大股で先へ先へと進む。
メインの武器は弓矢であるが、接近戦の為に大振りのナイフも持っている。先の技で焼き切れなかった茨はナイフで斬り払い、龍之介はなんとかして巨大モンスターのいる空間までたどり着いた。そこは一見清純な森であり、空気は澄み青々とした木々の葉は生命力を感じさせる。なんだか、巨大モンスターというより、人間に味方するモンスターが現れ自分を現実世界まで連れて行ってくれそうな……

「……む?」

しかしそれは単なる現実逃避の妄想でしかなかった。願望を打ち砕くように、メキメキと辺りの木が軋み始める。弓を構え、どの木から敵が飛び出してくるか、とじっと身構えていると……目の前にそびえる、大木に亀裂が走った。いや、亀裂が生じたのは目の前の大木だけではない、四方八方から軋む音が聞こえ、どこからでも敵が現れそうな気配だった。
そして音が一段と高まり、龍之介がきりきりと弓を構えていると、バキン!と大きな音を立てて目の前の大木から始まり次々に周りの木々が裂け、木片を飛ばし始める。その裂け目を狙い、一発目の矢を放った。風を切り裂き目に向かっていった矢だったが、横から弾け飛んできた木の破片に弾かれ、ばきんと音を立てて折れてしまった。

「!?、うわ!!」

次の瞬間、木々が音を立てて崩壊し、そこから緑色をした気色の悪い触手がうねうねと粘液を滴らせながら飛び出してきたのである。今までに見たことの無いモンスターに龍之介は一瞬怯んだが、慌てて二本目の矢を構えて触手へと射る。触手は矢を弾こうとしたが龍之介の矢の方が早く、ぶちゅりと音を立てて触手へと突き刺さった。
きっと悲鳴をあげているのであろう、龍之介の周囲を囲む触手が痛みに萎縮する。怯んだ隙を狙い、龍之介は次の矢を取ろうと背中の矢筒へと手を伸ばす……が……

「しまった……!!」

その手は虚空を掴むばかりで、次の矢を手に取る事はできなかった。森の最深部へ向かう際、十分に矢を用意した龍之介だったが、モンスターの数が多すぎたのだ。道中で消費しつくしてしまい、今頼れるのは大振りのナイフだけ……。
しゅるしゅると伸びてくる触手相手に慣れないナイフを取り、龍之介は呪文を唱え触手に斬りかかる。魔力を宿したナイフは触手を次々と切り落としていくが、龍之介は背後から迫り来る一本の触手に気付く事ができなかった。

「っあ!!」

ドンッと背後から身体を押され、一瞬の隙をついてナイフを持っていた右手首を他の触手に叩かれる。そのまま右手首に絡んできた触手に気を取られ、左手首、そして両足首を触手に絡まれてしまった。

「くそ……!!離せ……!」

しかし相手は人間ではない。言葉が通じるはずもなく、無数の触手を伸ばしてくると、衣服に手をかけ音を立てながら引き裂いた。ひんやりとした空気が肌に触れ、身震いをする龍之介。だがそんな事を気にしている場合ではない、万が一の時の為と村長に聞いておいた呪文を頭に思い浮かべる。万一弓もナイフも使えなくなったとき、使えるようにと教わっていたのだ。

「“リヒト・シュタール”!!」

手の平から、断ち切るような光の刃が触手へと襲いかかる。しかしまだ異世界に来て間も無く呪文になれてない影響かその威力は武器を介するものより弱く、触手は少し怯んだものの一層の攻撃意思を持って龍之介へと襲いかかった。
手首と足首がくっついてしましそうな程にぎりぎりと締め上げ、関節が無理な方向へと曲がり始める。無理だ、止めろ、ともがく龍之介だったが、そんな彼に新たな危機が迫る……。なんと、触手が彼の口目掛けて飛び込んだのだ。

「んぐぁ!?げ……おぇ…がはっ!!」

触手に手足を拘束され、無理な体勢を取られれば口も自然と空いてしまうだろう。そしてその隙を狙って触手に腔内を満たされてしまった。しかも触手は、無理を承知でどんどん奥へ奥へと触手を押し込んでくる……。

「おえぇっ、げほっ!んぐ、ぐぅぅぅ!!」

身体に力を込め、なんとか触手が体内に入ってくるのを防ごうとする。しかし触手はそんな抵抗をへにも思わず、しかも身体の力を抜かせようというのか、龍之介の股間にその触手を伸ばした。しゅるりと股間に忍び込む触手。目的のものに探り当てると、濡れた触手を上下に動かし龍之介の身体を弛緩させようとした。

「んぐっ、う、ううぅぅぅ、んん!!

喉は圧迫感しかない。しかも咽頭と食道を通過しようとする触手には痛みすらあり、しかし圧迫故に吐くことができない。陰茎への刺激が苦痛と痛みと快感をわからなくさせ、龍之介は目を白黒させながらひたすら悶えるしかなかった。
そして胃に達した触手は、びゅくびゅくと謎の液体を龍之介の中へ吐き出した。

「ぐ、げぇ、え…ぐぅぅぅ……!!」

胃の中で触手が暴れている。本来なら苦痛であるその行為が、謎の液体の影響か熱をもたらすだけになっている。龍之介は痛みと快楽の区別がつかなくなっていた。
触手が喉を、食道を、胃を荒らしているのが悲痛な程に辛い……しかし触手による拘束で動くことができない。加えて先ほど出された液体がじわりじわりと吸収されていき、益々頭がぼんやりとしてくる……。
勃起した陰茎を扱かれる度に浮かぶ脳……体内で蠢かれる事の不快感……しかしそれらが混じると、表現できないほどの……。

「ぁ…うぐ…ぁ…」

やめろ、と声に出す事も叶わない。徐々に勃起してくるのを止めようとすることすらできない……。口いっぱいに満たされた触手を憎らしく思っていると、股間に伸びた触手がうじゅうじゅとうねり始め、動けば苦痛を感じるというのにびくんと身体が反応してしまう。そして次第に媚薬が聞いてきたのか、喉の圧迫と陰茎への刺激が快楽となり、ずるんっと喉から触手が抜かれたときには「うぁあ!」と声すら漏れてしまっていた。

「あぁ…っ、や、あ……駄目、だ…こんなのぉ……」

声すら、快感となる……。

「やめ……」









気がついた時には、龍之介は弓道場へいた。

「……?」

俺は異世界へいたはずでは…?と思い、辺りを見渡す。しかしそこは異世界ではなく、現実世界であった。
どうやら、対峙したモンスターを満足させると元の世界に帰れるらしい。そんな馬鹿な話があるか、と龍之介は怒ったが、しかし、そうだったみたいだ。
龍之介は、無事元の世界へと戻ることができたのであった。











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