Novel
02【とある副産物】
ある所に、小さな自分を作り続ける作業に熱中している、これまた小さな天羽翼がいた。作業を始めた頃は、小さな身体でも数を把握できる程度の人数だったが、今では見渡す限りに同じ顔をした自分が休むことなく働き続けている。
小さな翼達に与えられている役割は至って単純である。"故障した箇所の修理"ただそれだけだ。単純、というのは作業の簡易性を表しているのではなく役割についてであり、作業そのものは緻密さと集中力の持続を求められるものである。
普段であれば自分をここまで大量生産する必要はないのだが、今回は何分故障範囲が広いのだ。加えて、時折故障箇所から強い衝撃が走り、小さな身体をした翼は一瞬で複数体消し飛んでしまう。普通の人間であれば静電気に驚く程度の威力なのだが、小さな身体では雷に当たったような強い感電死に等しい。それを知っていても、自分の身体を大きくする事は許されない。それほど細かな場所の修理だからだ。
「ぬぬぬ……」
自分の生産を休むことなく続けていた翼が、あるとき唇を尖らせた。
「どうしたのだ〜?」
「あっちでまた爆発があったから、もっと作って欲しいのだー!」
「痛つつ……。なぁ、もげた代わりの腕はまだか〜?」
自分を作り続ける翼は普段無言で作業をする為、他の翼達は気を遣い声をかける事は少ない。彼がいなければ作業能率は下がり、役割を果たせなくなる事に直結するからだ。しかし少しでも気の緩みを見せようものなら、他の翼達はあれやこれやと要望を言い出し、大賑わいとなってしまう。自分自身とわかりながらも、こうも数が多いと敵視したくなるのが不思議だ、と自分を作る翼は頭を抱える。
「ぬがー!五月蝿いのだ!あとそこの俺!腕は出来てるから早く修理に戻れー!」
「前々から思ってたけど、最近俺達の減りが早くないか?あと一億人はいないと追い付かないぞ〜」
「こればかりは仕方ないのだぁ〜……」
何かを生み出すとき、時に余計な副産物ができる事がある。自分を大量に作り出すというSF的な発明をした翼であったが、現実を目にすると肩を落としたくなる。
どんなに自分を作り出しても、それを破壊しているのが"自分"では世話がない、と。
「こら」
「あだっ!!」
鋭いチョップが、唐突に翼の後頭部に直撃した。発明をした物が爆発したわけでも、何か悪戯を目論んでいたわけでもない。ベンチに座りのんびりと音楽を聴いていただけだ。だのに理不尽に叩き込まれた痛みにビックリした翼は、ヘッドホンを首もとに下ろしながら勢いよく後ろを振り向いた。
「いきなり叩くことないだろ梓!」
一樹にゲンコツを食らう事はあるが、鋭く刺さるような痛みで相手を特定した翼は、後ろに立っている梓を見るよりも早く名指しで文句を言った。
「そこ、引っ掻いたら治り遅くなるって教わっただろ」
「は?……あ〜、コレかー」
しかし怒声に怯む様子のない犯人、梓は、翼の腕にできているミミズ腫れを指差し肩をすくめた。指摘された翼は、何も叩く必要はなかったんじゃ、と不満げに口を曲げるが大人しくそこを眺める。
一週間程前、翼はラボでの作業中に鋭利な道具で腕を切ってしまったのである。生憎、やや深めの傷だった為ミミズ腫れになってしまい、そこが妙に痒いのだ。
表面上は傷口が塞がっていても、実は内側では深部の修復が行われており、引っ掻く事でその修復を妨げ傷の治りを遅くさせてしまう。
「『だから引っ掻くなよ』って、星月先生が珍しくまともな事言ってたんだから、ちゃんと守らないと」
「隊長に対してさりげなく酷くないか梓……。それにしても、なんで痒くなるんだろうな〜。治したいのに痒くしたら意味ないのだ……」
「タダで得する程、人生甘くないって事でしょ」
「なんで話を重くするんだ!?」
無意識に引っ掻きそうになる手を押さえつつ、翼は苦笑した。そういえば、完成した発明品の陰には不要となった部品や銅線等の不要品が幾つも出てくる。傷を治すのも似たようなものかもな、と。
End
2016.8.18
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