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Novel
11→05【フリーマーケット】
「フリマ……?」

犬飼と白鳥に『今度の日曜、町でフリマやるっぽいから行こうぜ』と誘われたのだが、俺は“ふりま”という言葉の意味を理解出来ずに首を傾げた。二人は目をぱちくりとさせ顔を見合わせたあと、俺の心境など気にせずに大爆笑を始め、“ふりま”というものについて説明をしてくれた。どうやら“フリーマーケット”の略語だったようで、それぐらいは知っていると睨めつけたら二人は「ヒィッ!」と肩をすくめる。
しかしフリーマケットか……。子供の頃家族と共に行った程度で、ここに入学して以来一度も行ったことはない。たまには同級生と遊ぶのも悪くないだろうと思い、蛇に睨まれた蛙のように縮み上がる二人に了承の言葉をかけると、先程までの態度はどこへやら「じゃあ10時に校門な!!」「可愛い子いるかなー!」と見事180度態度が変貌した二人に呆れつつも、夕陽に照らされた道を寮まで歩いて行った。




そして日曜日。久しぶりに着る私服に身を包み、集合時間の前に校門まで行くと、まるで待ちくたびれた子供のような表情でこちらを見る犬飼と白鳥がいた。

「……時間前だが」

「いーや、宮地!」

「そこは『悪い、待ったか?』って言うもんだぜ」

「は……?」

だからお前は彼女ができないだのなんだの、ほぼ男子校というのに何を言っているか理解が追いつかないままに、バスに乗車し町へと向かった。
バスの中では他愛のない話が弾み、乗客が殆どいないこともあって二人が大声で話始めたものだから各々に鉄拳を食らわせ……そんな事をしているうちに目的の場所へと到着した。俺が「着いたぞ」と言うと慌てて鞄から財布を取り出す二人に対し、俺がいなかったらどうなっていたのかと諦めのため息を吐きつつ、小銭をいくつか投げ入れる。

「おっちゃんサンキュー!」

「最近の若いのは元気いいな!楽しんでこいよ!」

白鳥がバスの運転手に手を振ると、ノリのいい運転手は手を振り返し、次のバス停へと向かうためにバスを走らせた。
……さて、目的のフリーマーケットだが、時々行くショッピングセンターのすぐ近くで執り行われていた。ガヤガヤと賑わっており、一目では数え切れない程の店が並んでいる。貝殻で作ったネックレスや中古の洋服、手作りのパンや菓子……上げていけばきりのない程の種類の店が並んでいた。犬飼と白鳥はというと、「じゃあ1時間はフリー行動な!」などと……何故俺を誘ったのかとツッコミを入れたくなるような発言をしてバラバラと三人で別れて行動していた。あの二人のノリにはついていけないと肩をすくめ、俺は人ごみの中をのんびりと進んでいった。

「……?」

俺はとある店の前で足を止めた。そこは中古の服を取り扱っている店で、その……ブラジャーや女性物の下着、そして男性物の下着も売っている店だった。

「あらお兄ちゃん見る目がいいわねえ!どう?買っていく?」

店主らしき年配の女性に声をかけられ、更に立ち去る機会を逃してしまった。……いや、確かに女性に興味がないと言ったら嘘になる。だが……そこに並べられている男性物の下着のなかに……部長、…金久保部長が履いている下着と同じデザインの物が陳列されていたのだ。
金久保先輩は素晴らしい方だ。普段は優しいが締める時は締め、そして俺達後輩のフォローや指導も完璧にこなしてくださる。
夜久は別として、俺達男子生徒は一緒の更衣室で着替えをする。同性同士だ……特に気にする事などないのだが……、常に部員に怒声をあげる俺と違い、優しく指導する部長に憧れていた俺にとって、すらりとした部長の身体を見るのは何か罪深さを感じさせた。何故罪悪感を得るのか未だに理解できないのだが……俺はその店で見つけてしまったのだ。……部長が履いていた同じ柄のボクサーパンツが陳列されていた、それを見つけてしまった。

「……あれはいくらになりますか」

バクバクと鳴る心臓、震えそうになる唇。それを押さえて女性に声を掛けると「あーこのデザインいいわよねぇ!おばちゃんも若い頃を思い出しちゃうわ〜。お兄ちゃんかっこいいから、すごーくおまけして、500円にしてあげる!」と……特に関心のない容姿について褒められつつ、俺はそれを購入した。……なんとも言いようのない罪悪感がじわり、じわりと俺の背中から這い上がってくる。

何故部長と同じ柄を選んだ?
まさかそれで……

「…っ!くそ!!!」

俺は自分でも抑えきれない感情に悪態を付き、蠍の形をしたキーホルダーを購入するなどして感情を抑えていた。
わからない。自分でもわからない。
意味のわからない感情に囚われていると約束の時間が間近になっており、俺は慌てて集合場所へと向かった。今度は俺が一番乗りで他の二人は……まあ時間内に来たものの大分息を荒げていた。

「随分と満喫してたみたいだな」

「聞いてくれよ宮地!今時わりばしにくるくる回すわたがしとかあんまねえじゃん!」

「いや〜ちょっと、出店の女の子が可愛くてつい、な」

などと戯言を抜かす二人の言い訳は軽く流し、ショッピングセンターをぐるりとまわって俺達は星月学園へと戻った。部長と同じ柄のパンツを買った等と言えるはずもなく、俺は「自家製パンを売っている店があったんだ」等と話しつつ……バスは目的地へと到着する。

「じゃあまた明日な〜!」

「鬼の副部長の活躍、楽しみにしてるぜー!」

などと軽口を叩く二人に対し拳骨でも食らわせてやろうかと思ったが、……今日こっそりと購入した下着が俺の心を動揺させる。
蠍座寮にいそいそと帰り、鞄の底に隠してあった“部長が履いていた物と同じデザイン”のボクサーパンツを取り出す。部長はボクサーパンツだけでなくトランクスを履いてくることもあるが……しかし、同じデザインとなると自然と興奮が高まってしまう。

「部長が履いたものでもないのに……」

俺の独り言は、空気へと溶け込んでいく。
まずい。
まずい。
何故、部長が履いてもいない下着を見て興奮を覚えるんだ?これは部長のものではない。多種ある下着の中の一つだ!と自分言い聞かせつつも……高ぶった感情は止められない。

「……っ」

罪悪感。これこそが罪悪感という名にふさわしい。
部長の美貌と優しさに触れ、いつからか俺は部長に慕いの心を抱いていたらしい……。現に今も、誰が履いていたかもしれない下着で下半身を擦り、それで恍惚としてしまっている。

「っく、ぁ……部長…!あぁ…っ」

部長と同じデザインの下着。……だがそれ部長が履いていたものと思うと身体の熱が抑えきれない……。

あぁ……そうか・

下着が濡れ、ぐちゅりと耳障りな音を聞きながら考える。
俺は部長が……好きなのかもしれない。

「はっ、ぁ……部長…っ、金久保部長…!!出っ…ぁ、あ…ッ!!」

部長の物ではない。ただ、デザインが同じだっただけ。
それだけの事なのに、……俺は…。








「ねえねえこの前のフリーマーケット行った?」

「行ってませんよ。中古品とか興味ないので」

翌日、部長と木ノ瀬の声が聞こえた。

「なんかね、僕が履いてたボクサーパンツ……勝手に売られちゃってね」

「下着泥棒みたいですね」

「まあ僕も、最近履いてなかったからよかったんだけど……」




俺は可能性を考えて、しばらくトイレにこもっていた。
まさ、か…な…。
もし本当に部長のものだったとするのならば、大変な事態である。それを知る由もないが……俺は今日も金久保部長の笑顔を舐めるように見つめていた。







End
2018/6/3


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あきゅろす。
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