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Novel
【現パロ06】産んでも産んでも傲慢に対する対価は叶わぬ
現パロです〜。いつものように意味のわからない話です。














水嶋郁、と言えば、星月学園では知らない者のいない実習生だろう。クセのある性格……いや、髪型も癖があるが、まぁそこは本人の嗜好なのだから特筆はしないでおこう。とにかく、生意気で、しかし授業は丁寧で、恋愛相談の解決率など……語るに値しないであろう。
大学に戻れば女子の黄色い声、実習先の高校へ行けば嫉妬しつつも憧れの目線……。それが普通。それが日常。郁にとって、それが当たり前だった。

都心から大分離れた星月学園。そこから更に奥へ奥へと田舎道を辿ると、一つの神社へと道が続いている。大分廃れた外観だが、どこか神気を感じる…。……ここが、郁の生まれた場所であった。
参拝者を出迎えるはずの冷たい二体の狐の石像は目を閉じており、生命の有無すら感じさせようとしない。大昔でははやし立てられていたが、現代では廃れてしまった?否、そうではない。ここは以前から参拝者が少なく、何故現存しているのかもわからない程度に人気のない場であった。だからこそ、この神社の存亡を危ぶんだ過去の主は、祀っていた狐の神と禁忌の契りを交わした。

『将来生まれた男児を、贄として差し出す』……だから、この神社が滅する宿命から逃してくれ。

そんな場所で郁は生まれた。
”普通の人間”としてではない。
生贄として、人の子ではない身として……。





水嶋の血筋には女子が少なかった。だからこそ、過去の主は男児を贄にしようとしたのであろう。己の欲望と罪悪感を、少しでも紛らわしたいがために。……だが、それを一身に受ける羽目になったは郁であった。
人の子でありながら人ではない。狐……妖しの魂を授かながらも人間に生まれてしまった……。そんな子供であった。
昔から動物によく好かれた。犬には喜々として鳴かれ、猫も初めは唸り声を上げたが種族を越えてよく懐かれた。……出生を知らない郁は、この事を不思議に思いつつも「動物に懐かれやすい性分なのかな」と軽く考え、集まってくる動物達をくすぐり、甘えさせるだけ甘えさせていた。人間に対して冷血とも取れる態度をする郁であったが、仕方が無かったのだ。

―――彼は、真に人間ではないのだから―――

彼が自身の存在に疑問を持ち始めたのは、実習期間の終わりが近付いてきた頃であった。秋は紅葉を紅く染め、生徒達は冬への期待を持ちながらどこか悲しげな空気を感じる……。どこかの教師が「これぞ青春だな!」と言い出しそうな、そんな時期であった。
郁は寮の一室で蛇を飼っていた。蛇と言っても、長身で恐ろしいものではない。おおよそ10cm程で、”目玉の無い””魚のように水の中で生き続ける”という、奇怪な蛇である。道端で出会った小さな蛇数匹を、寮で蛇など飼っていてはまずいだろうと、こっそりと部屋で飼いだした郁であったが……そのうち、奇妙な現象に出会うこととなった。水の中に住んでいた蛇達が、喉の渇きを訴えたのである。水の中にいるのに、なんで喉が渇くのかな……と思いつつも新鮮な水を蛇に与える郁。その水を美味そうに飲み干していく蛇達。……そして、本格的に郁の運命を狂わせる現象は起こり始めた。

喉を潤えさせた蛇達の体が、突然ぶつり、ぶつりと切断され、壊されていったのである。


「……っ!?」


郁は驚いた。まるでふやけたかのように、しかし鋭利なナイフで切り裂かれたかのように……無意識とはいえ馴れ合っていた人外の友の身体が突然裂け、死んでいく。その光景を郁は目を見開いて見ているしかなかった。
そして、郁は更に目にする。
切断された蛇の体内から溢れ出る無数の小さな丸い塊……。…そう、卵である。生まれる寸前での死だったのか、切断された蛇の体からぶわりと溢れ出た卵からは、まるでボウフラのように小さな蛇達が水面を漂っていた。まだ出生には早かったのか、体内から卵が溢れ出しつつも無様に死んでいく蛇もいた。


「…ひっ」


ほんの少し。本当に小さな悲鳴であった。
絶体絶命な恐怖に出会った時の耳をつんざくような悲鳴ではない。かといって、声にも出ないようなヒヤリとする恐怖でもない。
郁は、ほんの少し、恐怖したのである。
昔から違和感はあった。動物たちに無性に好かれる。動物たちの気持ちを察する。普通の星月学園の生徒だった、という理由だけでは収まらない地域周辺の知識……。なんと表現すればいいのか。……動物的感覚?


「……」


郁は閉口する。小さな友であった蛇の無残な死に様を見ることができない。……そんな、感情からだった。


ぽたり


「……?」


ところがその時、郁の身体の反応に反して、奇妙な感覚と共に水面に落ちる何かの気配を感じた。命の途切れた水に落ちるものなど何もない……しかし、郁の鼓膜は確かに震える物音を感じた。生命の息吹を、……誕生する魂を。


余りにも唐突に訪れた別れに目を背けていた郁であったが、自分が意図せぬ音には流石に振り向いてしまう。そして、……嬉々として目を開いた。そう、先程聞いた音は、まさに生命の誕生の音だったのである。本当に小さな体ではあるが、必死に水面から顔を上げ、郁に交友と餌を求めてくる可愛らしい姿がそこにあった。
だが、どこから生まれた?
腹のちぎれた蛇から生まれたのではない。音がしたという事は水中からではなく外界から”落ちた”という事になる。郁は周囲を見渡した。どこだ、どこから落ちてきたのだ、と。
しかし、ふと、自らの体を見て目を見開く。


己の右腕……そこから次々に赤黒い卵が吹き出物のように湧き出、ぼとり、ぼとりと蛇の水槽へと丸く、丸く落ちていっていた……。


「はぁ、あ、ぁ…あ……っ、!?…ぁ、……ぐ……っ、う、うぐぅっっ」


郁は思わず口を塞ぐ。
今、僕の腕から何が出てきた!?!?
と、現状を把握しようとするだけで精一杯であった。しかし嘔気のする口を塞ぐ手の平にもぼこぼこと違和感が生じ、そのうちにぼろぼろと赤黒い卵が、吐き気を催す口の端から溢れていく。
現状を把握する余裕など与えさせないとでも言いたげに、思わず手を口から離した先から、息苦しそうに皮膚から顔を出した赤黒い卵が外界へと飛び出していく。


「う、あ、あ、……!!ああ…!!!!!!」


水面に落ちた卵から出た生命はボウフラのように無様に蠢きつつも蛇へ成り、運悪く水のない床へと落ちたものは無様に干からびる。己の腕、……否、気が付けば足からも、ぼこり、ぼこりといくらのような赤黒い卵が生まれ……そして身勝手に現世へと生まれ落ちる。……痛みはない。卵が肌から出て行く様はまるで”ニキビ”のようであり、しかし体から出て行った後は痛みもなく元の健康な肌へと戻っていく…。


(気味が悪い!!!)


素直にそう思った。それはそうだろう。体中から赤黒い出来物が吹き出してきたと思えば、それは綺麗な丸い球体となって自分の体から出ていき、……痛みもなく、即座に元の綺麗な皮膚へと修復されていくのである。
あまりの気持ち悪さに手を覆うにも、その手の平からもぬるりと卵が湧き出てきて唇を吐き気で濡らす。
郁は足元にぼとぼと落ちていく卵……そしてそこから出てくる蛇の幼子の死骸を見つめながら、思わず嘔吐した。これは人間が遭うべき現象ではない。そう察したからこその嘔吐であった。









ぽたり、ぽたり


ぐしゃ


郁が歩いていく後には、気色の悪い水音がついてきていた。それでも。卵が体中から生まれ落ちていく感覚に耐えつつも……郁はある一室へと向かった。郁を昔から知るただ一人の人物……ただ一人頼れる人物……、星月琥太郎の部屋である。


「こ、たにぃ……、琥太兄ぃ…ッ」


本来ならば何も気にせず、ドンドンッとドアを叩き部屋主を呼び出せばいいのであろう。しかし郁の手からは今も尚卵が湧き出…割れた卵からは蛇が生まれ……。強く手を打ち付ければ蛇の子を圧死させてしまう状況であった。トントン、と軽く叩くより……圧死させた方が、生半可な妖しとして生まれてしまった蛇の子を救えそうなものだが…。…無意識な、中途半端な優しさが、己のような半端者を生み出しているとも知りもせず、郁はか細く名前を呼んだ。
幼少の頃より、己が不可思議な現象に遭っても、それを嫌悪せず守ってくれたその名前を。


「助けて……」
















突然訪れてきた郁を、琥太郎は眉根を寄せて睨みつけていた。否、郁が憎いわけではない。……郁の先祖がかけた呪いを受けた彼自身を哀れんでの表情であった。琥太郎は郁の出生を知っている。郁の双子の姉が、郁を守ろうと己に呪いをかけようとするも失敗に終わり、息絶える寸前に琥太郎に事実を告げたからである。


「……」


琥太郎が郁を見つめているその間にも、郁の腕、下肢、…終いには顔からも赤黒い卵がぼろりぼろりと生まれ落ち、割れた卵からボウフラの様に蠢く蛇が湧き続ける。ぷくりと膨れ。ニキビのように形を持ち、球体として落ちたあとの皮膚は痛みを伴うことなく綺麗な肌へと戻っていく。


「痛みは、…無いんだよな」


「うん。……でも、流石に気味が悪いよ」


「……」


当たり前だ。
そう思い琥太郎は口を閉じる。己の体から卵が”生えてくる”状況に歓喜する者などいない。それがわかっていながらも、同情の言葉すら見つからない。

琥太郎は郁の出生の詳細を知っている。
郁は己の出生の”詳細”を知らない。

琥太郎は郁に、現状が神による呪いの一つであるという可能性を告げる事ができる。……しかし、“告げる”以外何も出来ないのが現実であった。
告げたからといって何になる?卵が出来続ける郁になんの助言ができる?
生憎琥太郎は神社関連の生まれでなければ“霊感”などといったものも持ち合わせていない。郁が狐の眷属に生まれてしまい、男児であるが故に家の呪いを受けることになったという事実以外になにも知らない。なにも、できない。
知識はあっても、なにもすることが出来ない苦痛を琥太郎は知っている。だからこそ、琥太郎の眉間の皺はますます深くなっていった。


「……郁」


“なにも知らない”と述べた事は訂正しよう。琥太郎は知っていた。郁を、この奇妙な呪いから救う術を知っていた。……だが、どうしてもそれだけは避けたかったのだ。だからこそ、知っていても“知らないふり”をしていた。
なぜなら、その術は……










「郁、…死にたくないなら、神社に戻れ」


琥太郎の声は、いや、拳は震えていた。


「狐の神の”慰みもの”になれ」


それ以外に、奇怪な現象……いや、更には死に至るであろう郁を救う術はなかった。

















自分に懐いていた獣達。郁は純粋に楽しんでいた。動物は嘘をつかない。だからこそ――――――


「なのに、なんで」


怪しく嗤う狐の神を前にして、体中から溢れる赤黒い卵をぐちゅりぐちゅりと潰しながらも郁は後ずさりをした。
それを潤滑剤のように指で掬い、狐の神は鋭く尖った爪を郁の体内に突き込んだ。














先祖の傲慢は子孫が償え


2015.11.16


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