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Novel
プラヴィック-Pluveck-番外編 U
短くてスミマセン
















施設の至る所に監視カメラが仕掛けられている事は直獅も知っていた。敷地内に入った時点で職員は気が付いているだろうと予測し、敷地の正面に当たる扉の前に立つ。所謂"正面玄関"であるのだが、人の出入りは頻繁でなく、また搬入用等のトラックが出入りする場所は他に設けてある為、必要以上に大きくは作られていない。電車の入口程の大きさの扉の前で待っていると……ガチャリ、と中から解錠の音が響いてきた。


「……」


直に扉がスライドし、施設の中へと導かれる。夜である為証明は最小限しか点いておらず、その光の中に一つの人影を確認する。直獅は一つ深い呼吸をし、気持ちを落ち着かせて施設内へと足を踏み入れていった。


「おかえり、……で、いいか?」


「琥太郎センセ……!」


人影の正体に、直獅は思わず驚きの声を上げる。琥太郎はこの施設内では研究室に配属されているが、先程管理者に対し「医務室の奴等は呼ばなくていい」と言った理由は、元々医者であったというところにある。


「お前……開いてた窓から脱走したんだろ?何階だったは忘れたが、結構な高さだったって聞いたぞ。
まったく、その時点で自分が人間じゃないって察しなかったか……?」


「ッ!?」


さらり、と。呼吸をするように滑らかに……そよ風のように穏やかに発せられた言葉に、直獅は鉛で打たれる様な衝撃を受ける。呆気に取られ二の句が継げない。直獅は施設に保護された当初から琥太郎に懐いており、だからこそ「琥太郎センセ」というあだ名まで付けていたのだ。それを、普段と微塵も変わらない態度で、声色で、"事実"を突き付けられた。まるで、"何でもない"かのように。


「な……っ、こたろ…センセ……」


「ところでお前、その血はなんなんだ。見たところ怪我はなさそうだからな……大方、返り血ってところか?返り血どころか、浸ったみたいだな」


困惑する直獅を半ば無視するように、琥太郎は話を進める。「俺が人間を食らった事を知っているのか!?」そう、直獅が錯覚すれ程度に。
勿論施から遠く離れた街にまでカメラは設置されていない。だが返り血を見れば"人間であれば"一目瞭然だろう。それもこの施設は犯罪者の界隈……、分かる、のだ。血の跳ね返りで。


「……食ったか、人間を」


「っ!」


「美味かったか?」


「…な、ぁ……」


なんで、なんで!?なんで琥太郎センセは!!
なんで、なんで。その感情しか混乱した直獅には浮かばなかった。人間と同じように、友人のように接してくれていた友が突然…変わってしまった。そう錯覚するようだった。いや、本当は自分が知らなかっただけで……。
様々な憶測が己の中で飛び交う。
人間でありたい。もしかしたら違うかもしれない。
でも……、


「なお、し……」


有李の声が、直獅を硬直させた。















continue


2015 7 8

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あきゅろす。
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