第二の人生
5
誰よりも早く寝たので誰よりも早く起きて私は部屋を出て談話室のソファに座った。肩にはポルコ。
「あー名前おはー」
「アンナーおはー部屋どうだったー?」
「みんな良い子だよー馴染めるとか気の合う子ではないけどねー。」
「私もだよー絶対変な人だと思われたよー」
「妥当な評価だよそれ。」
ボスッと勢いよく隣に座り寄りかかってくるアンナ。むかついたからこめかみで頭突きしておいた。
朝食の時間が近付いてくると続々と部屋から男女共に出てくる。
「あ、阿部くんおはよ」
「阿部くんじゃないセシルと呼べ」
「阿部くん細かいこと気にしないでよーあー阿笠博士と蘭姉ちゃんと小野さんだよ。」
同室の三人をアンナに紹介するとアンナは笑いながら自分も自己紹介した。
「アンナ・パウンドだよー。よろしくねー」
「アンナにはあだ名無いの?」
蘭姉ちゃんが首を傾げた。恐らくこの三人の中で臆することなく私に声をかけられるのは蘭姉ちゃんだけなのだろう。
「アンナは覚えやすいからねー」
「やったー」
アンナが横でゆるーく喜んでいると更に部屋から女の子が数名出てきた。
「テニヌ!」
「違う!!!」
一番に反応したのは石田さん。
「石田さんは朝から元気だねぇ」
アンナが大きな欠伸をすると石田さんはきゃんきゃんと吠えるが私とアンナはスルーだ。
「早く朝ごはん行かないと最初の授業遅れちゃうよ?」
そう声をかけてきたのは金髪美少女。
「あー、クリスティアナ・ブラウン。」
「茶…茶々様ね。」
アンナが紹介してくれたのですぐにあだ名をつける。
「茶々様?」
「クリスティアナのあだ名だよ。」
可愛らしく首を傾げる茶々様にアンナが説明する。
「茶々様ってどういう意味?」
「日本のお姫様の名前。」
「素敵!」
「ちょっとー!石田さんってどういう意味なのよ!」
茶々様の由来を聞いて石田さんが詰め寄ってきた。
「えー、と…石田さんはぁ…クィンシーでしょ?えー悪霊を倒す的な…あんま考えてなかった。直感っす」
「なんでクリスティアナがお姫様で私が直感なの!?」
「みんな直感だよー!」
阿部くんに助けを求めようとしたら阿部くんじゃないとまた怒り出すからもう面倒だ。
なんだか結局スリザリンの一年生の半数近くがぞろぞろと一緒に朝食に向かうことになった。変なの。
朝ごはんを食べていると梟便のお時間になりました。一年生は皆親から手紙がきた様で一年生同士固まっている私たちの頭上は梟が犇めき合っているやべぇ。
私の元にも手紙が一通。お母様からだ。
スリザリンでもうちの子だと。ジェームズのこともよろしくと。
…別にスリザリンでよかったんだけどな。
とりあえず友達がいっぱいできたことだけ後で報告しよう。
最初の授業はグリフィンドールと一緒に寮監でもあるスラグホーン先生の魔法薬学だ。不器用だと思っていたが純11歳の子供に比べるとできるようで、とりあえず調合は楽に出来てると思う。
隣でアンナが苦労しているのは黙ってニヤニヤしながら見ていることにした。アンナには性悪と怒られた。
「あ!ねえねえ名前!あれ、ジェームズ!」
何が面白いのかアンナは嬉しそうに斜め前の席にいるジェームズを指差した。ジェームズはその声に気付いたのかチラリとこちらを見たが私と目が合うとパッと前を向く。
「すっげー反応!これは恐怖による支配だね!ははっ!」
アンナは面白いと爆笑する。どこがだ。
「あ、知ってる名前ー昨日銀さんに聞いたんだけどー阿部くんって一年生の中では一番の名家なんだって。あ、一番は勿論ブラック家なんだけどーほら彼グリフィンドールに行っちゃったからー…」
「えー知らねー誰だよブラック家。」
「うわー名前世間知らずーそうだねーブラック家ってのはねー…名家だね」
「説明になってねー」
「りんごって何って言われても赤くて甘酸っぱいフルーツとしか言えないでしょうが。」
「いや今の説明で例えたらりんごってフルーツのことだよ程度じゃんか」
「おっけーわかったまかせて。えーっと粒ぞろい」
「アンナってバカだよね」
「なんだー!何が言いたいんだよー!」
アンナといるの楽しいなーってお話。私は荷物を纏めて授業終わりの合図と共に教室を出た。次は変身術でござる。変化変化。
「まってよー」
「ジェームズと同じ空気吸いたく無いんだよね」
のろのろとおいかけてくるアンナを少しだけ待ち、次の授業へ足を進める。
「急いでるとこわるいんだけど次もグリフィンドールとだよー」
「なんだと…この学校はどうなってやがる…」
「あははー名前こわーい。どうせ三択なんだし仕方ないでしょーよ。あー阿部くんだ」
「おーっす阿部くん。お友達?」
「阿部くんじゃないと何度言えばわかるんだお前ら。名前…忘れ物だ。」
阿部くんが手渡して来たのは羽ペン。
「うおー助かったぜ阿部くん!」
「セシル…こんな家柄の奴にこんな口の聞き方許して良いのか」
「やめろ、カトー。同じ寮生だぞ。」
「え、何々、加藤くんなの?」
「発音が違う。C,A,T,O、カトーだ。カトー・アルマンだ。」
「うんわかった加藤くんだね。阿部くんのことこれからもよろしくね。」
「お前は僕のなんなんだ。」
それにしても名家でも高飛車じゃない…のだろうか…でも寮生だと仲良くしてくれた阿部くんにお姉さん感動だよ。
「阿部くん良い奴だね!加藤くんとは違って!」
「加藤くんと呼ぶな!」
「加藤くんは割と名前に近いんだけどなぁ…まぁ嫌ならわかったよ。それでも勝手に呼ぶけど。」
「お前…喧嘩売ってるだろ…」
「あははははは!!」
急に笑い出した阿部くんの取り巻きっぽい加藤くんとは別の少年が笑った。
「ケイトのことそこまで言うなんて凄い子だねー」
「お前もケイトと呼ぶな。」
「ケイティあんまり怒ってばかりじゃ疲れるでしょー?僕はチャド・クーパー。どんなあだ名をくれるの?」
「泰虎で。」
「ヤストラ?ふーん、よくわかんないけどよろしくね、名前。」
「ん、よろしく泰虎。」
泰虎は私のあだ名が気に入ったらしくヤストラ、ヤストラと呟いてる。
「お前は普通に名前が呼べないのか。」
「覚えられないんだよね。特徴的じゃないと。」
「記憶力の問題か。」
阿部くんは呆れたようにため息をつくがまぁ正直阿部くんの名前覚えてないしな。
「一人くらい変なあだ名をつけてくれる人がいてもいいんじゃない?」
泰虎はニコニコと笑って言った。
「呼ぶのは一人じゃないが。」
ジロリと加藤くんはアンナを睨んだ。
「なぁに?加藤くん。」
「カトーなんて良い方だろ。僕なんて苗字からだ。」
阿部くんが不満気に言う。
「だって阿部くん…あー、名前なんだっけ」
「セシル!」
「そうそう、セシル…じゃあだ名考えるの大変なんだもん。直感なのに何もおりてこないから。きっとサラザール・スリザリンが阿部くんを阿部くんと呼べって言ってるんだよ。」
「スリザリンがそんなバカみたいなこと言うわけないだろ!」
「阿部くん、世界中の阿部さんに謝りなさい。阿部といえば千年ほど前日本を牛耳った大魔法使いでサラザール・スリザリンと対決し互角に戦い三年もの年月日本を暗黒で包み込んだ人物なんだぜ。」
「そ、そうなのか?」
「嘘」
「っ名前!!!」
あー可愛い。顔真っ赤にしちゃってまじ阿部くん可愛い。
「ほほほほ騙されたな阿部くん」
「もういい!用は無い!いくぞカトー!チャド!」
阿部くんは加藤くんと泰虎を連れて次の教室に足早に向かっていった。
「阿部くん面白いね」
アンナが笑いながら言った。
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