ホットピーナッツ
トロイさんまじイケメン
起きて、半裸のエースに抱き締められていて一瞬息が詰まったがエースが私の肩にヨダレを垂らしているのを見て安心しつつ苛立った。どうやら宴の最中に寝てしまったらしい。
一旦ネズミになってから離れ、部屋を出ると見張り台から挨拶された。
「おう、ピー子!目ェ覚めたか?エース船長に抱かれちまったか?」
どうやら見張り台には二人いるようで、もう片方の見張りがその言葉にゲラゲラと笑う。
「熱い抱擁とヨダレを頂きましたー!」
私が不貞腐れて言えば今度はより大きな声で二人分の笑い声が降ってきた。
「魔法で風呂場鍵かけるけど一応起きて来た人にシャワー使ってるって言っておいて!」
「女の子なんだからゆっくりしな!」
「後で覗いてやるよォ!」
「いつでも覗けるようにカビにでもしてあげようか!」
「そりゃァ…この船のカビになったところで覗けるのは殆ど男の裸じゃねェかよ…」
「ごゆっくり!」
覗きの言い出しっぺがピシャリと言い、優しく声をかけてくれた方が更にゲラゲラと笑った。たしか、名前は
「ありがとう!ダズ、マーク!」
「「おう!」」
風呂場につくとこれまた半裸のトロイがいた。ちなみに昨日の時点でもう敬語は全て抜けた。
「トロイ、おはよう。私が一番だと思ってた。」
「ん?おはよう。ピー子はもっと寝てるかと思ったな。ちょっと待ってろ。」
トロイは一度浴室に戻りまた出てきた。
「エースに何かされなかったか?」
「ヨダレを頂きました。」
「くっくっ…エースじゃ確かに大丈夫そうだな。エースから見たらピー子は妹みたいなもんなんだろう。」
「トロイってエースより年上なの?」
「ん?あぁ。エースはまだ十七だからな。俺は二十歳だ。」
「…え、エースって十七なの?」
「なんだ、もっと上だと思ったのか?」
私が頷けばトロイは私の歳を訊いて来た。
「じ、十七だよ」
「なんだ!エースと同い年だったのか!」
エースより子供っぽい十七がいるとは、とトロイが笑う。
でも、十七で直ぐに姿現わしが使える魔法使いもなかなかいないもん、シリウスに言われたから習っただけだけど、と私がうじうじしていればこういうところが子供っぽいのかと自己嫌悪に陥る。
「エースよりは、言葉、通じるもん…」
「そりゃそうだな。まぁ、泣き虫無くせばエースよりは大人だ。なんたって女の子ってのは成長が早い…はずだからな。」
「はず、じゃないし…」
「ほら、湯が溜まったから入って来い。見張っててやるからゆっくりして来いよ。」
「大丈夫です!」
ムキになっている私を見てトロイは笑って頭を撫でちょっと肩の布を摘まんだ。
「ここか。」
「そこです。」
私とトロイは目を合わせると、互いに吹き出した。
魔法で服を綺麗にし髪を乾かし風呂場を出るとそこにはイスに座った片手に本を持っているトロイと、マークがいた。マークの頭にはたんこぶ。まさか。
「よう、ピー子。良い湯だったかァ?」
「マーク、カビになりにきたの?」
私が杖を片手に言えばトロイは不思議そうに私とマークのやり取りを見ていた。
「いやぁそれも考えたんだけどよ、思わぬ壁が…」
「今からでも変えてあげようか」
「じょ、冗談だ!」
さっさと逃げていくマークを見てトロイは笑った。
「余計な世話だったか?」
「ううん、ありがとう」
「そりゃ、何よりだ」
トロイはまた私の頭を撫でて立ち上がった。
「そろそろうちのシェフに朝飯作ってもらわねぇとな」
「そうだね、すぐ作るよ。」
イスを片手に歩くトロイの後ろをついていく。
「そういえば、トロイ。この船野菜が少ないよ」
「ん?あぁ、保たねェからな…エースが肉を好むってのもあるがよ。」
「私が乗ってる間は野菜名一杯乗せていいよ。魔法で鮮度は保てるから。」
「そりゃすげぇ…な…ん?」
急に立ち止まるトロイ。
「お前、いつかは船を降りる気か?」
「え、それは、いつかは…だって、帰らなきゃ。」
「どこに?」
「元の世界」
「あ?」
「あ。話してなかった」
話すのが当たり前になり過ぎてていう事を忘れていた。
「…朝ご飯の時にゆっくり話そう。」
「…そうだな」
トロイも長い話になるのがわかったのかあっさりと引いてくれた。エースが煩くなりそうだな…
そして、案の定である。
「ハァァァァァ!?なんだよそれ!」
「いやだからさ、いつかはね、それは今からかもしんないし、来週かもしれないし、」
「来年かもしれないし、一生一緒かもしれない。」
トロイはエースを落ち着ける為に言ったのだろうが私にはずっしりくる。
確かに、帰れる気配はない。
「まぁ、いきなり消えたら死んだことにでもしてくれれば」
「無理に決まってんだろ!」
私が軽い気持ちで言えばエースは本気で怒った。
「あう…で、でも私にはどうしようもないし…家族も待ってるし…まだ学校卒業して無いし…それに、それに…会いたいコだっているし…」
「でも俺はピー子と航海してェ」
「で、でも…」
「エース、ピー子を困らせるな。ピー子も言ってるだろ?ピー子にはどうしようもないことだ。ここに来たくて来たわけでもないし、帰りたくて帰るわけでもない。」
「でも、ピー子は帰りたがってるだろ…」
「エース、忘れたのか。お前誘拐して来てるんだぞ。」
「うっ…それを言われると…」
「まぁ、そういうわけだから私がいる間はエースも無茶しないでね。私を助けてくれる人がいなくなっちゃうから。」
「自己チューか」
「エースに言われたくない」
いつものテンションに戻ったエースを見てトロイはホッとしていた。トロイも大概エースに甘い。
でも…帰れるのかな…
せめて、以蔵に会いたいな…
「…好きな奴のことでも考えてんのか。」
エースがむすっとしたまま言った。
「…うん、私の…ナイトなんだ。」
…って、恥ずかしいかな、この言い方…
「ナイト?」
伝わらなかったー!違う意味で恥ずかしい!
「ピー子を守ってくれる奴なのか。」
そしてトロイには伝わってたー!
「う、うん。いつも私のこと守ってくれててね、校長先生にも"さながら小さなナイトじゃな"って言われたんだ。すんごい可愛いけど強くてかっこよくてちょっとおバカな、大事な家族なんだ!」
「ふぅーん…」
面白くなさそうに言うエースに私はちょっとむかっとしたが、何も言わない。
「きっと、私がいなくなって、…寂しがってるよ…」
酷く慌てているだろう。学校を探し回っているだろうか。
「寂しがり屋の男ねェ」
エースの物言いにイライラするが何故かはりあってしまう。
「でも可愛いからいいの!」
「ちょっとおバカなんだろ?」
バカにしたように言うエースにトロイが流石に止めようとするが負けてられん!
「エースなんてバカじゃん」
「なんだとォ!?」
「以蔵はすぐにキレないし。私のお願いなんでも聞いてくれるし。私の心の支えだし。」
「ぐぬぬ…!」
私とエースは睨み合っている。
「敵襲!ってなんだこの空気!」
見張りの一人が食堂に駆け込んで来て目を見開いた。
「ちっ、ピー子はここにいろよ!」
エースは直ぐに立ち上がって食堂を出て行った。トロイがポンと私の頭に手を乗せる。
「あんまいじめてやるなよ。ピー子が帰っちまうって聞いたから寂しがってんだ。」
「…わかってるもん…」
だからエースの機嫌が悪いことくらい、私にだってわかる。
「じゃあ、隠れてな。」
「キッチンにいるね」
私はキッチンにネズミの姿で隠れていた。外では火柱があがっている。エースまじチート。
「ピー子無事か!」
凄い音を立てて食堂に入ってくるエース。さて人間に戻ろうかとキッチン台から降りるとエースが出て行った。
「トロイ!ピー子がいねぇ!」
「落ち着けエース」
トロイはズルズルとエースを引きずってキッチンに入ってきた。唖然としていて変身を解き忘れていた為すぐに人に戻る。
「おかえりー」
「な、なんで食堂にいねぇんだよ!」
「いや食堂じゃ敵が来たら丸見えじゃん…どうせならネズミになって物に囲まれてた方がばれないかなって…思ったんだけど、」
「しっ、心配しただろーが!」
「う、うん、ごめん…」
心配して損した!と顔を真っ赤にしてキッチンを出て行くエースにトロイは呆れた様に笑った。
「やっぱガキだな」
「ふふ、以蔵みたい。以蔵は照れないけど。」
「それ、エースに言うなよ。」
「うん…でもね、エースと以蔵は張り合うような対象でもないんだよ」
「エースは対象外か?」
「ん…?なんの?以蔵はね、ネズミなんだ。」
「…お前のツガイか?」
「私人間なんですけどー!」
ひどい!
トロイは一瞬ポカンとしたが直ぐに吹き出して私の頭を笑いながらぐりぐりと撫でた。
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