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ホットピーナッツ
ツまりこわい
バシリ、という音と共に私と男性、エースさんの三人は元いた島に戻る。二人はよろめいたが流石に吐くことは無かった。

「なっ今何も無いところから…!」
「本当に魔法使いだったのか!?」
「トロイ!エース船長!もう出港できますよ!」

そこそこの崖の下に先ほどの強面の男達が船に乗って叫んでいた。

まだ男性とエースさんは信じられないのか唖然としていた。

「ほら、行かないと海軍来ちゃいますよ。」

私が言えば、男性は私に視線を合わせ頭を撫でてくれた。

「ありがとう、ピー子だったな。お前のお陰で随分スムーズに出港できそうだ。」
「い、いえ…。お気をつけて!」
「あぁ。ほら、エース行くぞ。」
「…ん?…あぁ。」
「何ぼーっとしてんだ?また捕まるぞ。」

男性はぼんやりしているエースさんに首を傾げ、先に崖から飛び降り船に乗った。流石…あり得ない…

「ピー子」
「は、はい。」
「お前、強かったんだな。」
「いえ、全然強く無いです。」
「じゃァ、強くなりてェか?」

もし、私が強かったら、ジェームズやリリーを犠牲にすることなく、シリウスもリーマスも揃って、生きていけるだろうか。

「なりたいです…いつ」
かは、と続けようとしたら急に腰に強い圧迫感。そして浮遊感。

「うわああああああ!」
ダンッと痛くは無いが衝撃が。
そして、足元には先程とは違っているが、甲板。

「な、何をしてるんだエース!」
「連れて行こうぜ!こいつ、仲間にする!」
「な、わ、あ…」
言いたいことが沢山あり過ぎて声にならない。
「こいつ、ピー子っつーんだ!今日から俺達の仲間だ!」
エースさんが高らかに言い、男達は歓迎の声をあげるが先程の男性と私は何も言えなかった。

「な、なるわけないじゃないですか!私、一般人ですよ!」

「でもお前、強くなりたいんだろ?」

「強くって、肉体的な話じゃないですよ!海賊の元にいたって私なんか強くなる前に死んじゃいますよ!」

「だーかーら、強くなるんじゃねぇか。」

「ここにいたら強くなる以前に死んじゃうんですよ!」

「だから強くなれよ。」

「無理です!」

「強くなりてェって言ってたじゃねぇか。」

「いつかは、って言おうとしたんです!強くなる決意をしたら学校でもっと頑張ります!」

「学校?勉強するところだったか?勉強じゃ強くなれねェだろ」

「エースさんの考えてる学校と私の考えてる学校は違うんですよぉ!」

「あ、だ、だから泣くなって!」

「泣きたくもなりますよ!さっきの島で生活できることになったのも奇跡ですよ!?ナターシャさんみたいな優しい人ばかりなんですか、この世界は!」

「いや、そうでもねェな…確かに親切だったなあのおばちゃん」

「その親切な人から私を、泣き虫で弱虫な私を、右も左もわからない私を引き離したんですよ!」

「お、おぅ、わ、悪いな…なんか」

やっと非を認めたエースさん。私は涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭った。

「もう、いいです、帰ります…」

姿くらまししてしまえばいいんだ。
私がエースさんから離れようとするとエースさんは私の腕を掴んだ。

「ダメだ!」

「っはぁ!?なんでですか!」

もう号泣だ。こいつなんなんだ。

「俺がお前を気に入った!」

「っ意味がわからないんですけど!私泣き虫ですから!弱虫なんです!海賊にはなれません!」

「エース、こんなに嫌がってるんだ。このままでは誘拐だぞ。」

男性が私とエースさんの間に入ってくれた。

「いくら魔法使いとはいえ、魔法が使えるだけで一般人と何も変わらない。危ないし、可哀想じゃないか。」

な、なんて、なんて常識人!

「魔法使いなのかお前!」

うわああああ目が輝いてるゥ!!!

「どうせ島戻ってもお前もうお尋ね者だと思うぜ!な!俺の船に乗ってろよ!」








は?






「あぁ…確かに顔を見られているな…一理ある。」






「お、お尋ね者…?」

「俺を逃がしてくれたしな!目の前で消えたからお前が逃がしたってのはわかっただろうな!」

明るく笑うエースさんに、

私は、

「お、おい、ピー子?」

男性は座り込んだ私に慌てて膝をつき顔を覗き込んできた。

私は

涙が止まらなくて、膝を抱えて泣いていた。嗚咽が止まらない。
折角、お世話になれる場所が見つかったのに。
安全な場所、見つけたのに。

「え、あ、お、おい、だ、大丈夫だって俺、お前強くしてやるし!」

エースさんが私の前で大声で言う。

「こ、この船楽しーぞー?」

「みんな優しいんだぜー?」

「な、なぁ、ピー子…」

「そんな、泣くなって、な?」

エースさんが何も言えなくなると隣で男性が溜息をついた。

「エースが誘拐したんだ。責任を持って俺達がお前を守る。」

「あ、当たり前だろ!」

「不自由は、できる限りさせない。」

「勿論だ!」

「お前のしたいようにしてもいい。だから、このバカな船長のワガママに付き合ってやってはくれないか?」

「ば、バカって、オイ。」

「…守って、くれるんですか?」

ずびずびと鼻を啜りながら情けなく言う私に、安心させるように男性は頷いた。

「この船のクルーなんだ。守ってやるさ。なぁ、お前等!」

するとこの船の船員達は皆が是と応える。

「何よりエースが責任を持って、守ってくれるだろうしな?」
「当たり前だろ!」
「トロイさん、でしたよね。」
「あぁ。」

「トロイさんがいるから、ですからね。」

私の言っている意味がわからないのか少し首を傾げる。

「トロイさんが、常識人だから、信じるんですよ…エースさんの非常識な行動、止めてくれるって、信じてですからね…」

「っくくっ、あぁ、止められるかはわからないが、それで生じる危険からも守るし、出来るだけ止める。」

「なんか…お前等酷くねェか」

「誘拐犯の癖に」

「うっ…」

私がつっこめばエースさんは言葉に詰まった。

「とりあえず…お腹空きました…」

私がムスッとしたまま言えば皆が視線を逸らした。意味がわからなくてトロイさんを見れば苦笑していた。

「…人様に出せるような料理がな…」
「?コックとかいないんですか?こんなにいるのに。」

二、三十人ものクルーを見回して言えばトロイさんは私を連れてある部屋を見せた。そこは

「うわああああ」

明らかに一年の時の宿敵がいそうなキッチンだった。汚い…

「この船にそんな器用な奴がいなくてよー」

エースさんはからからと笑うが笑い事じゃない。

「っっっスコージファイ!」

私が杖を振るえば一瞬で綺麗になるキッチン。皆がおお、と声を揃える。

「私が、作ります…」

「おお!お前料理できんのか!」

嬉しそうに言うエースさん。
するしか無いじゃないか!
トロイさんが肩に手を乗せてきた。

「すまない…」
「…いえ…」




人数が人数なので流石に全て一人でやるには手が足りない。ので普段は使わない魔法で料理をしていく。
勝手に動くフライパンや包丁、並べられていく皿を見て男達が一々声をあげる。

「すげェなーピー子。便利だなァ、魔法。」
「ピー子が船に乗ってくれて助かったぜー」
「これでこの船も安泰だな!」

一生懸命よいしょしてくる皆を見て、気分は悪くなかった。

「もう…」

「これからも作ってくれ!な!」

エースさんがスプーン片手に言う。私は小さく溜息をついて頷いた。

「だって、他にしてくれる人、いないじゃないですか…」

「この船にはそもそも綺麗好きって奴もいねェしな!」

嫌な予感がする。

「トロイさん、食べ終わったら船内案内してもらっていいですか…全部の部屋。」

ビクリと全員の肩が跳ねる。

「見られたくないものがあったら片付けておいてくださいね」

私がいうと皆自分の皿を取りかきこんで走り出した。




「なんだあいつら。」

残ったエースさんは首を傾げ、トロイさんは呆れたように溜息をついた。
エースさんには若者の苦悩みたいなもんがわからないのかな。

「ピー子って綺麗好きか?」

エースさんが言うとトロイさんは溜息をついた。

「ピー子は女の子だ。」

「女って綺麗好きなのか?」

「男よりはな。」

「男の人特有の汚いところには慣れてるんですけど…私ゴキブリ嫌いなんです…」

「ゴキブリかぁ…いるな。」

「ひぃいいいいい」

今、鳥肌が!

「ネズミもいるぞ」

「あ、ネズミはいいです。いけます。可愛いです。仲間なんで大丈夫です。」

「仲間?」

エースさんがきょとんとする。

「あの魔法、ネズミ以外にはなれないのか。」

トロイさんに言われ私は頷いた。

「アニメーガスっていうんです。虫とか、動物になれるんですけど、なれる動物も種類も見た目も決まってるんです。」

「動物系みたいだな。」

「俺にもわかるように話せよ!」

痺れをきらせてエースさんが怒鳴る。トロイさんに頼まれ私はエースさんの目の前でアニメーガスになった。

「おお!ピー子がネズミになった!」

すぐに戻って説明する。

「これで軍艦に乗り込んだんです。ちなみにアニメーガスは杖がなくてもなれます。」

「じゃあいざとなったらこれで逃げられんな!」

「でも、私が魔法使いだっていうことは内緒ですよ。」

「なんでだ?」

エースさんが首を傾げるとトロイさんが溜息をついた。

「魔法使いなんてそうそういないだろ。ばれたら危険だ。」

「外では魔法なんて絶対使いませんからね。」

「おう、わかった!」

エースさんは毒気のない笑顔で頷いた。




「「不安だ…」」

私とトロイさんの声が揃い、互いに苦笑した。




「はい掃除しますよー!」
「待ってピー子ちゃんちょっと待ってェェェ!」
「ここの部屋後回しで!な!」
「まだ!開けちゃだめだ!」
「見るな!まだだ!ピー子のスケベ!」

「誰がスケベっその部屋から行くよ!」

「ぎゃああああごめんなさい待ってもうちょい!」

私は慌ただしく動くお兄さん達に溜息をつきつつ笑った。
悪い人では、無いんだよなぁ…

私は杖を振り廊下を綺麗にした。
しかしもう帰ってくる言葉は感動ではなく恐怖の悲鳴
失礼な。

「…もう、わかったよ…後にするね…」

私が小さい声で言えば、まるでとびっきりの魔法を使ったかのように皆が喜んだ。なんだか複雑だ。

…風呂場も酷いものだった。千と千尋のうんたらで千が掃除したような風呂場だ。これはあんな簡単には綺麗にならないな…

私はとりあえずサッと自分の魔法で出来るだけ綺麗にしてからブラシを魔法で動かし後で様子を見にくることにした。
トイレも開けた瞬間に杖を振るう。
洗濯するところも綺麗にした。

「不衛生過ぎる」

家事系の魔法だけでも得意で良かった…

「なぁピー子ー俺の部屋も頼む」

エースさんは隠す必要が無いのかそう言ってきた。

しかしエースさんの部屋もまた汚かった。

「あ、はい、えーと、スコージファイ」

とりあえず食べカスを片付け杖を降り続ける。と、服はタンスへ、本は本棚へ(本を持ってるなんて驚きだ)海図は丸まって重なりペンはペン立てへと収まった。

「すげぇな、やっぱり。」

エースさんは感心したように言った。

「エースさん、本持ってたんですね。」

「お前はさらっと失礼なこと言うよな。あれはトロイのだ。」

「やっぱり」

「なぁ、ピー子が来たから宴やりたいんだけどよ。料理作ってくんねぇか」

私が作るのか。まぁ、私以外いないのだろうけど。

「わかりました…」

「で、あいつらの部屋、明日にしてやってくんねぇか?」

そっちが目的かな。

「わかりました…その変わり、明日は大掃除ですからね!」

「おう!」

エースさんの後ろについて歩いていたら急にエースさんが立ち止まった。

「それと、エースさん、とか、その丁寧な喋り方とかやめろよ。」

「…?エースさん、船長ですよ?」

「いいんだよ!ピー子は特別だ!それに、これが船長命令だ!」

「う、うん、わかった。」

私の返事を聞くと満足気に頷きエースさんは食堂基キッチンに向かった。



何故エースさんまで、と思ったらエースさんは、じゃないや、エースは魔法が見たかったらしい。

使ってもいい材料を指示するとキッチンの前に椅子を持って来て出入り口を塞ぐように座った。昼も見たのに、物好きな人だなぁと思いつつ私は杖を振って下ごしらえから始めた。

野菜の少なさに少し呆れたがサラダと肉料理の備え付けとして野菜を使い切り肉料理や魚料理、酒に合う揚げ物等をどんどん作っていく。同時進行は精神的に疲れるが、料理なら然程苦じゃない。
それに、あんなに美味しいと言いながら食べてくれ…じゃない!絆されるな私!

「すげぇなやっぱ、どんどん飯が出来てく。」

エースさんに言われ私はエースさんの方を見て応えようとし、

「って、何でもう食べてるんですか!」

「うまそうだったからな!それから言葉、戻ってんぞ」

「つまみ食いなんてレベルじゃないでしょ!お皿抱えないで!みんなと一緒に食べるんでしょ!」

「ほら、俺船長だからよ」

「フェルーラ!」

私はエースを縛り上げ甲板に転がした。
見張りがてらタバコを吸って海を眺めていたトロイさんが目を見開く。

「トロイさん!見張ってて!」

口の周りにカスをつけたエースを見て察したトロイさんは頷いた。






食堂のテーブルに所狭しと並べられた色とりどりの料理に割れながら満足する。

「ピー子!そろそろい…い…うおおおおおお!」
「なんだ?どうした?って、すげぇ!」
「なんだこりゃー!」

船員達が続々と食堂に入って来て驚く。なんで私が来たからやる宴で私がサプライズしてるんだろうと思いつつ喜んでくれる皆の顔に私も笑みが零れる。

「おい!先に食うなよ!」

エースさんが男たちを飛び越えるように食堂に入ってくる。エースさんは料理を前に目を輝かせ、船員達に酒を運ぶように指示する。

「じゃあ、お前等!新しい仲間ピー子に!」



「「「「乾杯!!」」」」

私の隣にはトロイさん。そして目の前にはエース。

「うめェ!」
「この船でこんな料理が食えるなんてっ」
「この船に乗って良かったァ…!つーかピー子が仲間になって良かった!」

皆の言葉が嬉しくて私はずっと笑っていた。

「そういえばよ、」

エースはスプーンを咥えながらトロイさんを見た。

「この船元々部屋数足りてねぇし、俺の部屋でピー子寝かせるけどいいか?」

「は?何言ってるんだエース。ダメに決まってんだろ」

「だって大部屋はまだどこも片付けてねェし。ピー子の寝るスペースもねェだろ。」

「いや、それでもな…」

「ピー子は?嫌か?」

「別にいいですけど。」

「おい、ピー子、」

トロイさんが慌てて私を止める。

「男女が一部屋はマズイだろ。」

「慣れてますから。まぁ、だから大部屋でもいいんですけど。」

今更男と同じ部屋でも気にすることはない。

「慣れて…いや、いやいやピー子…」

トロイさんが額に手を当てて唸る。

「何が心配なんですか?」

「エースがお前を襲わないか心配なんだ。」

トロイさんがストレートに言うから、思わず赤くなってしまった。

「襲わねーよ!」

「あー…いや、あの、あ!ネズミになって寝ますから!エースの部屋に小さい寝床作ってもよければ、それで十分です!」

「ネズミ…か、なら、まぁ…」

渋々トロイさんは頷いた。
全く信用のされていないエースさんは不貞腐れているようだが。

「それにエースの傍なら安全…!でもないか…」

「なんでだよ!」

「食べながら寝て捕まっても起きなかったのはエースじゃん。」

私が言うと周りの船員達がエースを笑う。

「まぁいざとなったら一人で逃げるから!」
「そこは嘘でも起こすとか助けるとか言おうぜ。」
「嘘つきになるくらいなら臆病でいたいの!」
「意味わかんねぇ」

そう言いながらもエースは笑いながら私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。




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あきゅろす。
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