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ホットピーナッツ
おかしい…
朝起きたら私はエースの膝枕で寝ていた。昨日は甲板で寝たんだった。宴は千六百人位で行った。もうわけがわからなかったけど、とりあえず私の両隣はマークとダズで固めてエースとトロイは色んなところで挨拶したり飲み比べしたりしていた。私はお酒を進められても全部マークに飲ませていて、最終的にはよく覚えてない。多分寝た。

「起きたかよい」

私がこの船で一番苦手なバナナ、マルコさんが声をかけてきた。

「は、はい」

「じゃあ朝飯に」

マルコさんが途中で言うのをやめた。

ネチャリ、と私の肩に何かが垂れる。

「…風呂が先かねい…」

「えっ、う、うわあああ!エースのバカ!」

私がエースを殴るとエースは飛び起きた。

「なんだ!?飯か!?」

「信じられないエース!何!私が船に乗るとヨダレ垂らすのが決まりなの!?汚い!本当に汚い!」

「ヨダレ…?あ、わ、悪ィ!」

「信じられない…もうエースやだ…」

「お、降りるなよ!」

「垂らすなよ!」

慌てるエース。そうじゃないでしょ!

「ったくお前等は…ほら、風呂に案内するよい。エースは罰として見張ってやれよい。」

「お、おう!」

「う、うう、汚い」

「お前汚い汚い連呼すんなよ!俺だって傷付くんだぞ!」

私は無言で肩の湿った部分をエースの帽子になすりつけた。

「うわっ何すんだよ汚ェ!」

「エースのヨダレだから返してあげたんです。」

「…ちぇっ」

言い返せなくなったのかエースはそっぽを向いた。





お風呂を出るとエースが杖を返してくれたので私は服を綺麗にした。

「ピー子、オヤジには魔法のこと、話さねェのか。」

「うん…言う機会もないし…いいかな、と。使う気もないし」

「大丈夫かよ、今自然に使ってたけどよ。魔法使わないピー子なんて想像つかねェぞ」

「頑張る…」

言ってしまえばいいのに、とエースは溜息をついた。

しかし私はこの時気付くべきだった。隠し事が最も苦手なのはエースだということに。










「そういや、エース。ピー子ちゃんは悪魔の実の能力者なんだろ?」

マークとダズと雑談をしていたら遠くで聞こえたサッチさんの声。なんでそんなこと疑われてるんだろうと思えばエースもそう思った様で首をかしげて居た。

「だってマルコの前でネズミだったピー子ちゃん庇ったんだろ?」

「ん?なんの話だ?俺疲れてたからな!ネズミとピー子を見間違えたのかもしんねェ」

見間違えるか!

「エース…お前…何を隠そうとして」

マルコさんがエースに近づく前に呼び出さなければ!

「エース!マークがセクハラしてくる!」

「「ハァ!?」」

マークとエースの声が重なる。私はマークを睨む。マークは涙目で私を睨んでから引きつった笑みでエースを見た。

「な、なぁに軽いジョー」

「軽い…なんだって?」

「ぎゃあああああ!覚えてろピー子!」

バタバタと出て行く二人を見て私は重い溜息をついた。

「マーク、ちゃんと言うんだよ…」

「話を聞いてもらえればな」

ダズに言われ少し罪悪感が沸く。

「必要な犠牲だっ」

「お前は相変わらずなかなかに非道な奴だな」

ダズの口調は責めるようなものではなく、寧ろ楽しんでいるようだった。

「ピー子ー、甲板掃除の奴等がサボってるぞ。」

ネズミ君がたかたかと走ってきて私の膝に乗る。私は慌ててポケットに押し込みダズを立たせる。

「ほら!掃除見に行こう!」

「まだだろ?」

「サボってんだってよ、元うちのクルーが!恥晒す前に懲らしめようって話!」

「トロイを連れて行った方がいいな」

「どこにいるんだろ。」

スペード海賊団は隊にそれぞれ振り分けられている。トロイとエースは分けられたが私とエース、ダズにマークは一緒だった。

「マルコ隊長。」

ダズは何故か寄りによって私の一番苦手なマルコさんを呼んだ。

「トロイ、どこに配属されたんでしたっけ。」

「お前んとこの副船長なら十六だ。今は弾薬の在庫確認してるよい。」

「ありがとうございます。どうする、ピー子。」

「仕事中なら仕方ないよ。私一人でも注意は出来る。」

「注意?」

マルコさんには何でも無いと言ってダズを引っ張って食堂を出た。

「お前マルコ隊長苦手なのか」

「猛禽類だからかな…一回殺気当てられてるし…怖いんだよね」

「ネズミとしての本能か」

「ビビりの本能です!」

ダズはくつくつと笑って私の頭を撫でた。



「こらあああああ!」

私が隠れて甲板掃除をサボってる人達の前に立ちはだかると皆一瞬ビクッと反応するが私だと分かると手をあげる。

「ピー子!会いたかったぜー!」
「この床パパーッと綺麗にしてくれよ!」

「はァ!?私使わないからね!」

「そんな連れねェこと言うなよォ」

唇を寄せてくるおっさんに私は杖をさりげなく突きつける。

「私の最後のは、埃に変えるやつになりそうだね」

「や、っだなーもうピー子ちゃん!俺等掃除大好きだよォ!なぁおめぇら!」
「おっおう!」
「掃除って楽しいなァ!」

急に離れてにこやかに笑いながら一生懸命床を掃除する皆に私は苦笑して杖を仕舞った。

「見事な恐怖政治だな」
「やめてよ、ダズ。」

「ピー子?」

呼び止められ振り向けば着物を着た人とトロイがいた。

「あ、トロイ。もっと早くきてくれたら良かったのに。」

「なんかあったか?」

トロイが首を傾げるとダズが甲板掃除している男達を指した。トロイが視線を向けると再びビクリと体をはずませ愛想笑いをする。

「なるほど。流石だな、ピー子。ちゃんとしつけられてるじゃないか。」

「やめてよ!」

「そうだ、ピー子、ダズ。この人はイゾウ隊長で十六番隊の隊長だ。」

「い、イゾウさんというのですかっ」

「あァ。お前さんはピー子だろ。よく話には聞いてるよ。」

「何かピー子目がすげェ輝いてんな…。」

「イゾウという名に悪い人はいないんだよ!」

「知り合いにイゾウでもいるのかい?」

「はい!」

とっても大切なコなんです、と笑えばイゾウさんは私を撫でてくれた。
やっぱりイゾウさんは良い人だ!

ほわほわした気持ちで食堂に戻ればボロボロのマークとそわそわしたエースがいた。

「あ、マーク!生きてた?」
「ピー子どこ行ってたんだよ!」

私の質問にかぶせる様にエースは身を乗り出して言った。

「ちょっとそこまで。聞いてよエース!この船にイゾウさんっているんだよー」

「あぁ、知ってる。」

「教えてよ!もう私嬉しくてさー」

「あぁ、聞き覚えあると思ったらあれか、ネズミのイゾウ」

「ただのネズミじゃないんだから、以蔵は!でもやっぱりイゾウ同士だからかなぁ…イゾウさんカッコ良くて、いい人だった!」

「な、名前は関係無ェだろ。」

上機嫌な私を他所に不機嫌なエース。うふふー。エースのことなんて知らない。

「ピー子ちゃん!」

私は一瞬で固まった。

「俺とも親交深めようぜー!」

リーゼントさんである。

「完全に怯えてんじゃねぇかよい。」

マルコさんまで来た。はわわわさっきの話になったらいかがいたそう!どうしよう!

「俺怖ェかな…」

落ち込むリーゼントさんにこちらが悪い気がしてくる。

「昨日はあんだけ大口叩いてたってのにねい」

そ、そういえば

「ご、ごめんなさい…昨日は、気を使って頂いたのに、その、必死で…」

「だ、大丈夫だよ俺は気にしてねェ!マルコ!泣かすなよ!」

「俺じゃねェだろい」

「はっはっは!ピー子が泣くのはいつもの事だ!気にすんな!」

私は無言でエースの髪を鷲掴みにした。

「いででででやめろっ!」

「エースには平気なのか。」

リーゼントさんに言われ私は頷いた。

「エースに払う敬意はもったいないので」
「おい。」

私はエースを睨んだ。

「ははっ!ピー子ちゃん面白ェな!俺はサッチだ。こっちはマルコ!よろしくな!」

「よ、よろしくお願いします!」

「なぁなぁピー子俺にもケーイ払えよ。」

「何それどこの通貨?」

「ぶっ!ピー子ちゃん、良いなそれ!ははっ!」

エースと私のやりとりを見てサッチさんは爆笑した。その後もエースはケーイケーイうるさいので名一杯ケーイとやらを払ってあげることにした。

「エースさん、これでよろしいですか?」

「お…?」

「ではエースさんのお時間をわざわざ私如きの為に割くのも失礼かと存じますので退席させていただきますね。」

「ちょおおおごめん俺が悪かったからいつも通りでいいってピー子!」

退出しようとする私をエースは引き止める。そんなエースを見て皆が笑った。



「そういやピー子ちゃん、後でナースんとこに挨拶に行こうな。」

サッチさんに言われ私は固まった。

「な、なんでですか?私どこも怪我して無いです…」

「あはは!そうじゃねェよ!部屋は流石に大部屋ってわけにもいかねェだろ?」

「お、女の子と同じ部屋…!?」

「な、なんでそんなに驚くんだよ」

私の反応に引くサッチさん。

「女の子だけの部屋に行くなんて…!な、何年ぶりだろう…!」

「ピー子なら俺等と同じ部屋でいいぞー」

エースが軽く言うとサッチさんとマルコさんは目を見開いた。

「何言ってんだエース!女の子が男の部屋にだと!?」

「大丈夫だろ、俺の傍にいたら。な?」

「う、うん。エースの傍なら大丈夫だと思う。」

「って、お前等前の船でも一緒に寝てたのかよい!」

マルコさんも驚いているようだ。

「ピー子、女慣れしてねェし、こっちのが安心だろ。」

「ん、ま、まぁ…」

そこまででもないがエースが言い張るので頷いておく。

「ていうかピー子ちゃんはエースの女ってことでいいのか?」

サッチさんに言われ私とエースの時は止まった。




「えーっと、エースの女ってつまり恋人とかそういうことですか?」

「ん?まぁ、品のある言い方をしたらそうか。」

サッチさんに言われ私は苦笑した。

「はは、私はあくまでエースに誘拐された身なので。」

「まだそれ言ってんのかよ。」

「エースが一生背負うべき罪でしょこれは。だから私を守る義務が生まれる。おわかり?」

「じゃあエースは一生誘拐犯と被害者の関係だな。くくっ」

ダズが言うとエースはダズを睨んだが何も言えなかった。








「本当にいいのか?」

サッチさんに訊かれ私は頷いた。

「大丈夫です!この部屋スペードの人だけなんですよね?」

「あぁ…そうだけどよ…」

部屋は八人部屋で、まさか千六百人もいる船にこんな良い部屋が与えられているなんて。

「流石四皇…!」

「悪かったな!」

感動していたらエースが後ろから小突いてきた。

「私下ね!」

二段ベッドの下を指差すと皆がニヤニヤと笑った。

「そんな広い寝床じゃ不安になっちゃうんじゃないのーピー子ちゃぁん」

「うっさい!バカにしないで!エースのヨダレから逃れられれば安心だし!」

「俺そんなヨダレ垂らすか?」

エースはうんうん唸っているがこの際無視。

「ピー子、上の方が安全じゃないか?下じゃ敵が入ってきたら一番最初に襲われるぞ?」

「えっ!でも上やだなぁ…落ちるし」

「まぁ好きにやってくれ。じゃあおやすみな、ピー子ちゃん。」

早速テンションの上がっているスペード海賊団のメンツに苦笑してサッチさんは出て行った。
もう完全に修学旅行の学生のノリだなぁ皆。

「で」

サッチさんが出て行った途端に皆が私の周りに座る。

「どうするんだ?ネズミになって寝るか?」

「でもそしたら誰か入ってきたらどうするんだよ。」

「別に人間のままでも…」

「いやぁそりゃ流石になぁ。白ひげ側の気にしている事件が起こっちまいそうで」

「えー皆そんなもんなの?」

私が首を傾げるとがしりと肩を掴まれた。

「ピー子!お前!男は皆狼だぞ!エースみたいなのばっかりだと思うな!」

「どういう意味だ」

エースはすかさずつっこむが彼は続ける。

「エースは女より酒より食い気だが大体の男は女酒食い気の順だからな!」

「ふーん」

「真面目に聞いてくれよピー子!」

「わかったよネズミでいればいいんでしょ!でも寝るときだけね!ギリギリまで人間でいるからね!」

わかってくれたか!と私を抱きしめるとエースに剥がされた。

「じゃあエースが下、私も下ね!寝る前までは上にいる。下の時は私が壁側だよ!ヨダレはつけないでね!」

「つけねェよ!」

戻る。進む。

あきゅろす。
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