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レイテ沖海戦
第四話



1944年10月23日
――――レイテ突入を目指す栗田艦隊―――

戦艦大和の艦橋ではレイテ突入に向けての最終調整が行われていた。
「長官、天候が回復しても一向に敵索敵機が現れません もしや昨日の台風で空母が損傷を受けたのかもしれません」
第2艦隊参謀長の小柳少将が言った。
「根拠も無く艦隊を動かすことはできんよ参謀長」
栗田はそういうと再び海図に目を戻した時電文を持った通信士が駆け込んできた。
「小沢艦隊より入電!“ワレ敵機ノ空襲ヲ受ケルモ、敵数微量ニシテ我ガ空母ニ損害ナシ 本艦隊ハ以後作戦通リニ行動ス 全軍ノ奮闘ニ期待セリ武運ヲ祈ル”以上です」
電文を聞いた参謀達は目の色を変えた。機動部隊に少数の敵しか現れなかったと言うことは敵機動部隊が大損害を受けた可能性が高いからだ
「長官これこそ」
「まだだ、敵は作戦を知って我々を待ち構えているのかもしれん」
栗田は嘗てミッドゥエー海戦で情報収集の不徹底から空母4隻を一度に失ったことがある、それ以降慎重な判断をするようになっていた。
「では反転離脱ですか?」
小柳は恐る恐る聞いた。
「いや、反転は無い!囮となってくれた小沢さんの為に何が何でもレイテには突入する。航空参謀 索敵機からの報告は?」
栗田は振り返ると後ろに控えていた航空参謀を問いただした。
「現時点まで敵発見の入電はありません、雲が低く索敵が難航しているようです」
「なんだと!? 雲の上を飛んでいては索敵にならん、直ぐ全機に強行索敵を行うよう下命しろ!!」
まさか雲の上から索敵しているとは思いもよらなかった。ミッドウェーでは雲に阻まれ敵空母を見逃し結果として先制攻撃を許す結果になってしまった。
『これではミッドウェーと同じではないか』
栗田は口には出さずに毒づいた。航空参謀は慌てて電信室に降りて索敵機全機に強行偵察命令をだした。
ちょうどその頃利根から飛び立った水偵(水上偵察機)は厚く低い雲の上を飛行していた。
「機長、母艦より入電“全機雲ノ下ニ降リテ強行偵察ヲ行エ”との事です。」
後座の電信士は前座の機長に聞いた。
「やるしかないな、こうなりゃ海面擦れ擦れに降りるぞ」
「了解」
操縦桿を倒して雲の中に入った。雲は厚く雲中では視界3メートルも無かった。
「くそ、これじゃ目を閉じて飛んでも同じだな」
機長が試しに目を閉じたとき後ろの通信士が言った。
「機長雲が切れます」
降下を続けるとやっと光が見えたもう直ぐ雲が切れる、だが高度計はかなりの低高度を示していてこのまま行くと海面に突っ込むことになるかもしれない
「よし雲がきれ・・・・・うおぉ」
「き、機長!」
水偵が降りた海域には海を埋め尽くすように大小さまざまな空母や戦艦がいた。
「米艦隊!!」
だが直ぐに対空砲火が飛んできて至近距離で爆発して水偵を揺らした。
「くそ」
操縦桿を力一杯引くと水偵は高度を上げて雲の中に逃げ込んだ、速度を限界まで上げて追撃を振り切った。
「おい米空母の甲板を見たか?」
「はい、飛行甲板がめくれ上がって穴が開いていました。それも1隻ではなく複数が」
機長はあまりの光景に自分の目を疑って後座の通信士に確認を取った。
「よし、報告だ!急げ」
「はい」
通信士は電信機に手を伸ばすと打電を始めた。
“敵機動部隊発見、敵ハ大型空母4隻以上、小型空母多数サレド敵ハ戦闘機発艦不能ノ模様―――」
その後も位置や速力など先ほど得られた情報を打電した。この報告はすぐさま栗田中将のもとにも伝えられた。
「長官、これを聞いてもまだ突入を躊躇されますか!」
小柳参謀長は栗田に詰め寄った。
「それ以上言葉を重ねる必要はない」
小柳の言葉を制止すると栗田は振り返ってブリッジの将兵を見渡した。
「Z旗掲揚 全艦単縦陣にてレイテ湾に突入する!」
命令を受けて艦隊は対空対潜陣形の輪形陣から艦隊戦陣形である単縦陣を組んでいった。大型艦によるこの手の艦隊運動は非常に高い練度を要する、瞬く間に単縦陣を形成する第2艦隊は帝国海軍が未だに一流海軍であることを示していた。そしてZ旗の掲揚、Z旗は日本海海戦で東郷大将が使用し“皇国の興廃この一戦に在り、各員一層奮励努力せよ”を示し真珠湾攻撃でも赤城に掲げられていた。帝国海軍が最後の艦隊決戦を移動もうとすることの現われだった。


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あきゅろす。
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